第24話 自己中の戯言
シフルがノエルに泣きついていたが、やっと妖精の国から出られた。大橋に行く道で妖精にあったんだっけか。
妖精の国は妖精が案内してくれたら、どこにいても入れるらしい。俺たちが行こうとしていた街、イルチアの街に送ろうかとも世界樹から言われたが、そんな急いだ旅じゃないからと、断った。
妖精の国でゆっくりし過ぎた感はある。ノエルの死の予言を聞いて、もうそれならいっその事で期日まで妖精の国に居ることにした。
妖精の国には、いくらかの恩は感じているから、妖精の国を戦場にはしない。
よく良く考えれば、妖精の国に入れば死の予言がゆっくりになるとか、絶対に病気じゃないことは確かだ。
世界樹のテトナが言っていたように死は至る所にあると言っても、今回の死はノエルが誰かから殺されると俺は見ている。妖精の国に居たら、その誰がか妖精の国を見つけてやって来るという訳だ。
勇者君はノエルに執着があるだろうが、この前の勇者君じゃ、俺に勝つのは千年経ったって無理だ。
ノエルが外を歩けば、老若男女を魅了する。誰がノエルを狙っているかを特定するのは無理だ。
「お兄様! まだ手を振ってますよ、シフルちゃん」
結界を出てから俺には妖精が見えていない。ただノエルの見ている方を見ながら、シフルの泣き顔をイメージすることは出来る。
大粒の涙で溺れながらノエルに手を振っているだろう。
ノエルもノエルで、ハンカチを手に取り、目に雫が出来ているのを掬いとる。
もう見えなくなったのか、ノエルが前を見て歩き出した。
「もう良いのか?」
「はい、シフルちゃんは見えなくなったので」
ノエルの鼻が赤くなっていた。鼻を鳴らすと、ハンカチをポーチにしまった。
「次は大橋だぞ!」
「大橋見てみたかったです!」
俺はノエルが暗くならないように、明るく元気に言った。そしてノエルも俺の言った言葉に乗っかり、笑顔で返す。
森を抜けたら大きな橋があった。随分と大きな橋で、俺が思ってた以上に大きな橋だった。
橋に足を乗せると、ぐらつきもしない。馬車が四台ほどに通れる幅をあり、橋に繋がっているワイヤーも俺の上半身よりもデカく、何で高い所からワイヤーを垂らしているのかは分からない。
下を見てみると、普通の人では身を投げたら助からないだろう高さだ。海の流れは最悪で、飛び降りから助かっても、潮の流れで浮かんでは来れないだろう。
そしてここは人気スポットなのに、人が居ない。
ラッキーと普段なら思うだろうが、今日はノエルが死ぬ日。それを可能にする力が相手にはあると言うことになる。
権力か、スキルの類か、俺が想像もつかない何かしらの力か。
「お兄様、何かあったのですか?」
ノエルも俺の緊張が伝染したのか、橋の半分と来たところで何かあったと聞いてきた。
「何もな……」
俺はノエルの歩みを手で制す。
俺の視界には、いつの間にか勇者がいた。大橋には俺たち以外居ないと警戒していたら、勇者が急に現れたんだ。そして勇者は盾と弓というおかしな装備していた。
「あれ妖精の国に居たんじなかったの? もうそろそろで妖精の国の場所特定出来たはずなのに」
「金の盾と金の弓!? まさか!」
「元勇者は何でも分かっちゃうんだね。そう、神器さ。それにしても痩せたね〜、元は僕の身体なのにラクセルの街では初見では分からなかったよ」
「ノエルがいるんだぞ? 俺が元勇者とか、元はお前の身体とか言ってもいいのか?」
初見では分からなかった? お前の顔だろうが、気づいてないなんてビックリした。
記憶喪失とかそういうのを言っているんじゃないのか? ノエルに兄じゃないとバレるのに馬鹿だろ。
「あぁ、それは良いんだよ。都合の悪いところは銃で撃ち抜くから」
「神器は弓と盾以外にも持っていると、じゃあ銃は記憶操作の能力か?」
「凄い、さすが元勇者だ。頭の回転が速い」
それだけ口が軽ければ誰だって分かる。
「デブから痩せたお前と言うことも、盾が教えてくれたのか?」
「もう汚い身体を思い出したくもなかった。そう、盾は何でも分かる。もう無駄話は済んだよね、だからノエルを渡してくれよ、僕に勝てないことは分かるでしょ」
神器か。俺が勇者だった頃には、頑なに教会は勇者に神器を貸さなかったのに、なんでだ。
ポケットからコインを取り出し、チェンジ魔法の仕掛けにする。
「チェンジ」
呟いても、神器はチェンジされないと。
ノエルが死ぬってどういう事かと思ったら、神器を持った勇者に殺されるという意味だったのか。
でも何故だ? ノエルを手に入れようとしているのに、ノエルを殺したら意味がない。
「お前に勝てない? 自己中の冗談は寝言だけにしとけ。まぁ、もう遅いけどな」
コイツは今ここで殺す。
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