第19話 世界樹



 妖精の国は結界で守っているらしく、木々を抜けて手を引かれた先には、デカい木が遠目に見えた。


 あれは天にまで繋がるという大きな木。世界樹!? 本当にあったんだ。


 そして世界樹が見えたの言うことは結界の中に入ったということ。


 俺にも周りの妖精たちが見えるようになっていた。妖精は手のひらサイズのトンボみたいな羽根がある女の子という感じだ。


「ノエル、俺にも妖精が見える」

「結界の中ですからね、姿を隠す意味は無くなったんじゃないですかね」


 そういうものか。


 大きな世界樹の周りには人が住んでいそうな家が沢山ある。妖精よりもずっと大きな家だ。


「獣人と妖精が暮らしている国らしいですよ」


 ノエルが妖精に教えて貰っているのを、俺に教えてくる。


 国を見下ろして良く見ると、確かに人に耳が付いている人がいる。これが獣人か?


 獣人の魔王は、何十体と戦ったことはあるが、全部オスで獣に近かった。


 再度良く見てみる。


 犬みたいな顔の二足歩行している奴がいる。


 あぁ、いたいた。獣型の獣人もいるじゃないか。


 猫とか犬とか、そんな物だろう。ネコミミの美少女とかは転生者みたいに言うなら萌えると言うのか。確かに、良い物だ。


 この世界の人は混血を望まない。だが、美少女なら良いと思えるところが、俺と転生者のウマが合うところかも知れない。


 さすがに人に近くないと萌えないが。


 妖精と獣人が手を取り合ってか……人には真似出来ないな。





 結界からだいぶ歩いて、やっと門に着いた。ここまで連れてきた妖精たちが衛兵の獣人に訳を話している。


 門もすんなり通れて、獣人やら、妖精やらの目が俺たち二人に突き刺さる。でも、俺に突き刺さった視線をすぐに抜かれて、ノエルに視線が吸い寄せられる。


 人混みでも人気だが、他の種族でもノエルの魅了は十分に機能している。


「妖精の母に会いに行くらしいです」


 妖精の母? 人で言うところの王女様か?




 いつまで歩かせるんだ? と思っていたら世界樹の下に着いた。ますます大きいな世界樹は。


「世界樹は太さだけで人の国が四つか、五つ入るんじゃないか。でけぇ」

「おい! お前! 母様に失礼だぞ! 母様はデカいことを気にしてるんだからな!」


 ちみっこい妖精が俺の頬に拳で連打突きしてくる。


「悪い」

「次からは気をつけろよ、母様に会っても体型のことは言うなよ!」


 妖精にとっての体型は、繋がっている木なのか? 俺の世界樹がデカいと言う声にフフンと得意気に無い胸を張る妖精もいた程だ。


 普通の妖精は木がデカいと言われると褒められている気になるらしい。だが、妖精の母様は気にしていると。


 これだけデカいと、気にもするらしいと。



 俺のノエルは円状の台に乗せられた。そして目の前を一瞬なにかが通り過ぎ、俺たちを包む透明な膜が出来た。


「膜には触らないでくださいね」


 ノエルから注意を受けた。そしてシャボン玉のように浮いた。


 スゲェ!


「凄いですねお兄様!」


 俺と同じようにノエルも興奮している。だんだんとシャボン玉は上にあがり、世界樹の上に上にと。下の街並みはだんだんと小さくなっていく。


 ノエルが下を見ながら、目をキラキラとしていた。


 俺もノエルと同じような顔をしていると思う。


 世界樹の枝の上に着地して、大きなシャボン玉は割れる。


 降りる時はどうするんだと思ったが、円状の台が枝の上にも設置されていた。


 俺たちに着いてきた妖精は沢山いたのに、いつの前にか一匹になっていた。ソイツは俺の頬を殴った妖精だ。


 その妖精は扉を開け……。


「んんん! 開かない!」


 開けられなかった。


 俺が手伝い、扉が開いた。妖精に言われてみれば「余計なお世話よ!」と。


 客人の手を拝借したのが気に入らなかったのか、妖精はムスッとしていた。


 妖精に案内された世界樹の部屋に入ってみると、妖精と言うには人ぐらいの大きさのある妖精がいた。妖精? 人? 羽根が生えているし、妖精か。


「私はテトナジー樹の妖精、名前をテトナータと言います。テトナちゃんとお呼びください」


 世界樹はテトナジーと言うのか、そして長い緑髪の妖精の母は妙に馴れ馴れしいな。


「でも勇者モーブル・レディエント君は、私のことをデブと言ったから死刑です」

「デブとは言ってない、デカいは神々しいという意味で使ったんだ」

「もう、言い訳が上手いんだから。死刑は取り止めてあげる」


 さようですか。


「俺が勇者だと、なんで分かった」

「なんで? だって貴方はずっと私たちの敵として戦ってたじゃない? 五百年? 千年だっけ?」

「俺、勇者はやめたんだ」


「私たちの敵は少々言い過ぎたと思うから訂正してあげる。人に仇なした別種族の敵に」

「いや、良いよ。お前らが人に仕返ししても魔王と言われて、絶対の勇者を人は駒として出すんだから、お前らにとって俺はずっと敵だった」

「あらそう、勇者を辞めてモブオと名乗ってることも、身体が入れ替わっていることも、私はなんでも分かるの。だからデブと言ったことも、悪気は全然無いということも」


 私は全て分かるのよ、と母なる妖精は言った。


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