第20話 燻っている想い
テトナはノエルの目の前に立った。並んでみればノエルよりも少し背が高い。
じーっと見つめられてノエルは少し恥ずかしいみたいだ。
「テトナータ様、少し見すぎじゃないですか?」
じーっと見つめる。
「えぇと、テトナータ様?」
「うんうん、この美貌は美しいわね。しかも妖精を見る目を持っている。子供たちが私に会わせたがるわけだ。そしてノエルはテトナちゃんと呼ぶこと!」
「は、はい! テトナちゃん」
「よく出来ました。これでテトナちゃんとノエルは友達」
テトナは笑顔と共に羽根が震える。
「えっ、それだけ」
「なんだいモブオ君」
俺たちはテトナに会うために、こんなに時間かけて来たのか。
俺の思いが伝わったのか、テトナは溜め息を吐く。
「はぁ、困るよ。キミだって千年勇者やってて会えなかったほどに私は偉大なんだよ! 会うだけで褒美になるんだ。世界樹とはそう言うものさ」
そう言うものなのか。まぁ、のんびりの旅だし、道草を食べるのも旅の醍醐味か。
テトナは人差し指を立てて、目の高さに持ってくる。
「偉大な対面にケチがついてはいけないな。一つだけ、ノエルに一つだけ、テトナジー樹の妖精が願いを叶えるとしよう」
ノエルの顔に影が差した。そして笑顔を取り繕う。
「いや、願いを叶えるとかは結構です。テトナちゃんにも会えましたし、私はわりと満足ですので」
ノエルはいらないと言うだろうな。
「そうだね。妖精が見えるということは、無邪気なこと。ずいぶんと人は妖精は見えなくなったものだ。数千年前までは沢山いたんだけどね」
「姿をくらましているのは、妖精の術だろ。なにが数千年までは居ただ、数千年前までは姿を隠す必要が無かったの間違えだろ。ノエルの真実を貫く瞳の真眼が、そこら辺にいるはずねぇだろが」
テトナ、ノエル、ちみっこい妖精が俺を見て、固まっている。
俺は静けさが蔓延るこの空間で、こう言う嫌味が出てくるから妖精が見えないんじゃないかと、少なからず思った。
ちみっこい妖精はその静けさから、いち早く抜け出すと、俺の頬に拳を連続して突き出した。
ペチペチペチペチと、ペチペチペチペチと、連続した音にテトナも復帰したのか、ニコリと口角を上げた。
「シフルやめなさいよ、モブオ君が言っていることは本当だから。でもだからって、世界樹に向かって言う言葉じゃないのは分かってるのかな?」
シフルと言われた小さな妖精は俺の頬を殴るのをやめてくれた。テトナは世界樹としての圧を感じる。
「世界樹として話していたのか。じゃあ何故にノエルが願いを言わない事を知っていて、願いを叶えようとか言ったんだ。場合に寄ってはこの国ごと消すぞ」
「あぁ、こわいこわい。天使なノエルの兄は、極悪非道の勇者という事を忘れていたよ」
ノエルの叶えたい願いなど、決まっている。お母様やお父様と会いたいだ。
でも叶わない。人の命は失ったら、どんな奇跡でも復活しない。
「世界樹はその事を分かっていながら、ノエルに願いを叶えようと言ったんだ。これが世界樹として、じゃなくてノエルの友人としてならまだ許そう。
でも世界樹として、願いを叶えようとかほざくようなら万死に値する」
「お兄様、テトナちゃんは本当に叶える気があったんだと思いますよ」
ノエルが俺の左腕に抱き着いて、俺の動きを封じる。
「は? 叶える気があっただと!?」
テトナは両手のひらを肩に水平にあげて、やれやれと言いながら首を左右に振る。
じゃあ奇跡でも不可能な事を、この世界樹は起こせるって言うのか。
そうか、ノエルもテトナの真実が分かるんだもんな。分かっていなかったのか俺だけか。
「悪かった、一人だけ少し熱くなってたみたいだ。でもノエルは俺の腕を抱き締めておいてくれ」
「任されなくても、抱き締めておきますよ」
俺は条件反射をずっと研いてきたんだ。気持ちでは整理できていても、殺したいと燻っている火は鎮火までにもう少し掛かる。
ノエルが俺を制限しとかないと、テトナが失言したら、今度こそ殺しそうだ。
「妹の私から、お兄様が殺気を振り撒いて申し訳ないです」
「いいよ、ノエルのお兄ちゃんだし、私も大人気なかったし」
気前よくテトナは俺を許して、この国を見て回ればいいよ、と制限を解除するようにと小さな妖精シフルに言っていた。
俺は部屋から出た後に、ノエルに聞くことがあった。
「本当に叶えなくて良かったのか?」
「お母様とお父様が復活しましたらお兄様との二人の時間が無くなります。二人は私の同じぐらいお兄様が好きでしたもの」
「そうか。俺をお母様やお父様に取られたくないか」
「はいそう言うことです」
ノエルは妖精の国に来る前よりも、笑顔の透明感が増したと思う。
テトナは俺の怒りを誘っても、ノエルの願いに終止符を打ったのか。
叶わないだろうから、絶対叶う状況にして。
さすが世界樹だ。テトナータ様々だな。
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