第15話 夢の国の出来事
俺はノエルが言い出したことなら反対派しないが、魔王は問答無用で攻撃をする奴もいるから、ノエルを魔王に近ずけたくないと言うのか本音だ。
今までノエルが会った魔王は、自分から魔王と言っていない魔王だった。自分から魔王と言って、人の大切な者を奪う輩は問答無用で攻撃をしてくる奴が多い。
ノエルが何故かヤル気だ。
人が一人乗れるだけの箱があって、箱の前と後ろにいる人が箱から出ている棒を肩で背負い、箱を浮かしで運ぶ。その箱で移動するのをこの街の人はタクシーと呼んでいた。
ノエルはそのタクシーに乗り、魔王の城を目指す。
この街は道が狭い、馬車じゃ行けないことがあり、タクシーを使った移動が多いんだと思う。
俺はタクシーと並行して歩いている。
マロとか言う奴の娘が、魔王に奪われたからってどうしてノエルがマロの娘と交換する流れになるんだ。
その魔王がノエルに興味無いと言って、交換を求めて来なかったら殺す。そして交換しても殺す。
「お兄様はすぐに殺す! とか物騒なことをどうかしないように」
箱の小窓から、ノエルが俺に指示を出す。
お兄ちゃんはノエルに嫌われたくないから、指示を忠実に守る。
「でも、危険が及ぶようなことになれば」
「わかっています。危険なことは避けますよ」
本当にわかっているんだろうか、心配だ。
馬車じゃないから時間が掛かってしまった。
魔王の住む城だ。この街は全体的に転生者が考えたそうだ。城も俺たちが知っている城とは違い。木造で出来ている屋根は瓦だ。
ノエルもタクシーから降りると、マロが話を通しているのか、門が開いて、浴衣を着たメイドに案内された。
玄関で靴を脱がされて、魔王の部屋へ行くと、部屋が何も無かった。ソファーや、椅子すらない。
床が柔らかい草? のマットの上に座るのか? それとも立って話すのか? たまに転生者は変な思考の奴がいるからな。
椅子も何も無いところでは立って話すのが礼儀! とか転生者は言ってそうだ。
俺が何が正解なんだと考えていたらノエルが足を折り曲げて座った。あぁ、座るのか。
俺もノエルに倣って、あぐらをかいて座った。
「儂に姫と交換したいと申したのはそちか?」
「はい、私の美貌はラクセルの姫よりも美しいと」
すだれの幕から声が聞こえ、ノエルが素早く答えると、ワッハッハッと笑い声が辺りに響き渡る。
すだれの幕を見てみると、人影が見える。コイツが魔王か。
「でもダメじゃ、儂はレスフェニアの事を想っておる。儂が魔王だとマロは言っているのだろうが、レスフェニアが奪われた? レスフェニア自ら儂のところへ来たのじゃ」
「美しい私じゃダメと?」
「すまんな、マロにはそう言うとるのに、もう何回目じゃ。しかもその大半が街の娘を攫ってきてると言う。どちらが魔王なんじゃと思うておる」
魔王かと思ったら、マロよりも話が分かる奴じゃないか。
「レスフェニアさん、殿の傍に居られますか?」
「レスフェニア、話してみよ」
魔王が横にいるらしいレスフェニアに話ていい、と伝える。
「お父様は私がショウ様に嫁ぐことを許してくれませんでした。お前にはもう嫁ぎ先は決まっていると言って。それから城の警備が厳重になる前に逃げました。ショウ様はお父様から私を匿ってくれました」
仮の魔王はショウと言う名前か。マロは娘を道具として見て、ショウはレスフェニアを匿った。
「レスフェニア、お前さっさと帰れや。ショウが魔王として担ぎあげられたら勇者がくるってわかんねぇの? お前の人生はマロの道具とあった方が、みんな幸せだ」
「ほぅ、儂のレスフェニアに説法を垂れるか。レスフェニアはどうなる。みんな幸せ! どこにレスフェニアの幸せがある!」
「道具に幸せがあると思うのか? お前もお前だ。道具が助けを求めても持ち主に返すのが普通だ。どんなに嫌な奴でも、お前が仕出かした事は匿った? 良いことみたい言ってんな、お前はマロから奪ったんだよ! 勝手にな!」
「モブオ様、モブオ様!」
ノエルに名前を呼ばれて、俺は押し黙った。
すだれの奥からギリッと歯ぎしりのような音が鳴った。
マロも酷いが、ショウと言う奴も酷い。さらに酷いのがレスフェニア。
なんで自由な恋愛が行えると思ってんだ? 転生者の小説のようには行かないことは容易に想像できると思うんだが。
あぁ、だからか。
「と、モブオ様が言ったように、奪ったことにならぬように私とレスフェニアさんを交換しませんか? 勇者が来たら、ショウさんが殺されますよ」
だからノエルはそれを言いに来たのか。夢の国にいる二人に現実を思い知らせるために。
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