第14話 勇者の鏡
「ムークリの王女様、何十年も変わらずにお綺麗ですね。私は魔王のサランド・メシュマレー。メシュとお呼びください」
「メシュね。メシュ、会っていきなりで恐縮だけど、死んでくれない。魔王は悪よ。ここにいる勇者に殺されなさい!」
私はまた勇者パーティーとして戦えることを待っていたのかも知れない。モーブルが強くなりすぎて、私がお荷物になった時に気づいたんだ。
もうモーブルとは戦えないと、モーブルに約立たずって言われるのが嫌で逃げた。そう逃げたの。
プライドが邪魔して、ノエルみたいに優しくも出来なかった。
「これが勇者? 冗談にしても笑えないですね」
「そうね。今勇者は記憶を忘れているの」
「そうですか、どうりで勇者とは見えないはずだ」
メシュは魔王でも今の勇者より遥かに強い。私とモーブルは格上の魔王を倒してきた。
私が協力しても勝てるか分からない相手、この状況を待っていのかもしれない。
記憶喪失になって、初めて優しくなろうと思った。初めて一緒に強くなることに協力できた。
私を信じているように、モーブルから熱い視線を貰う。
モーブルの肩を押す。私のユニークスキルでモーブルの視力の強化をした。
私のスキルは【バランス魔法】と言う名前で、相手の身体能力の一つを上回るように強化できること。
「私も加勢するわ。前の魔王みたいには行かないみたい」
これで圧倒的に不利から、不利にランクアップしたかしら。
モーブルが勇者の目になって、魔王に視線を飛ばした。
私が離れると、モーブルは剣を構えて、すぐにメシュがレイピアで突いてくるが、モーブルも避ける。
やっぱり私のスキルが効いている。
モーブルは剣を上段に振り上げて、メシュに目掛けて振り下ろした。
「さぁ、お互いに遊びはやめて、殺し合いましょう」
メシュが戦闘中に口を開くと、モーブルの胸にレイピアが突き刺さった。
そしてメシュが剣をモーブルから抜いて、何故か後退する。
さっきからメシュはモーブルが剣を構えてから攻撃している。
「やめです、やめです。こんなに弱いとは……。今の私は気分が良いんで、勇者モドキの貴方が剣を収めるなら、殺さないであげます」
「魔王の言葉に惑わされるか!」
モーブルは胸に片手で抑え、剣を杖代わりにして、立っているのもやっとだ。
「モーブル、帰りましょう」
「勇者が魔王を置いて逃げれと、ソフィアさんは言うんですか!」
「そうよ、メシュはまだ半分も力を出してないわ」
「前の、記憶喪失する前の勇者なら、この魔王を倒せましたか」
「倒せたでしょうね」
記憶喪失前の貴方なら、倒してたと思う。
「じゃあ退けないです。見ててください、ソフィアさん」
意志のこもった目で、メシュを睨む。
そしてメシュに向かって走り、剣を上段に振り上げて、振り下ろす。
「僕は僕自身がモーブル・レディエントだ!」
モーブルが大声を出した。その時にメシュの動きが止まったように見えた。
メシュはモーブルが振り下ろした斬撃を身体で受けた。
「やった、やった! 強敵に一撃を入れたぞ!」
二撃、三撃と繰り返す斬撃に何も抵抗せずに受けていくメシュ。
「ソフィアさん、こいつ、大したこと、ない」
私はそんな有り得ない光景を呆然と見ているだけだった。
メシュは後ろに手を組んで動かない。口から血を吐いても動かない。
モーブルはハァハァと息を切らせて、メシュから距離を取った。
「ざまぁみろ!」
膝を落としたメシュを見て、モーブルが勝ち誇っていた。
私は何故? とメシュに疑問が湧いてきた。モーブルの前へ行き、メシュに問いかける。
「何故死にに行くような真似を!?」
「魔王を倒しに来たのに、貴女はおかしい方ですね」
メシュは口から血を吐いても流暢に喋る。
「この里は私の故郷です。レディエントの名と、緑の目のお方には少々恩があるですよ。純白な想いがこもった贈り物と、この里を元に戻してもらった恩も、ですね」
「ノエルね」
「知り合いですか」
メシュは私に笑顔を向けた。
「じゃあ彼は?」
「ノエルの兄よ」
「そうですか、殺さなくて良かった。名を聞いた時は弟かと思ったのですけど、まだまだ私は未熟者ですね」
ノエルの恩でモーブルは助かったのね、
「魔王になってまで人を殺してきたのに、恥ずかしい言葉をくれたノエルさんのことを思い出すだけで、剣が触れなくなるなんて思わなかったですよ」
血を吐いて、血を垂れ流しながらも、メシュは立ち上がる。
「で、もう用は済んだでしょう」
「まだだ!」
「まだ用が?」
モーブルは剣を構える。それを私は止める。
「ありがとうございます」
メシュがそう感謝を言うと、振り返った。
「まだだって言ってるだろうが!」
私の静止では止まらずに、モーブルは後ろ姿のメシュの首をはねた。
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