第13話 遊びの勇者


 リファルの街でグラン先生を倒した僕はファランシオ国の近くに出没したという魔王の行方を探していた。


 明日からガレッグの街で聞き込み調査だ。


 ガレッグの街でソフィアさんとは別々に宿をとった。別に一緒でも良いとソフィアは言っていたけど、僕の理性が危うい。


 僕は勇者なんだ。正義の心を持って、魔王を倒すことに全力を出せねば。


 僕が初めて倒した魔王がグラン先生だった。グラン先生は転生者で、怪しい二人に操られた可能性があるとソフィアさんに報告した。


 ソフィアさんも怪しい二人が許せないわねと言った。その通りだ。


 その怪しい二人の情報も、調べればわかった。グラン先生は街を襲った時にムークリ王国へ、修学旅行として自分生徒や生徒の親、仕事仲間を逃がしていたみたいだ。


 その生徒や仕事仲間にグラン先生は怪しい二人と一緒にあるところを見かけなかったかと言うと、デブった男と凄く綺麗な女という相反する組み合わせの二人なら見たと、全員同じ回答だった。


 生徒、生徒の親、仕事仲間も、グラン先生が魔王になんてなるはずが無いと言っていた。僕もそう思う。


「クソッ!」


 眠るベットに拳を打ち付ける。腕で目を覆う。僕はグラン先生を魔王に唆した怪しい二人が許せない。


 勇者として、必ず地獄に送ってやる。







 コンコン、コンコンとドアがノックされる。いつの間にか眠ってたようだ。


 僕が扉を開けると、ソフィアさんがハァハァと息を切らせて部屋の前に立っていた。


「どうしたんですか?」

「大池の水が一晩の内に無くなったの!」


 大池の水が一晩で無くなる? そんな馬鹿な。


 僕たちは宿を出て、大池に向かった。




 昨日の昼に大池を見た僕は大きな湖ですね、と言ったら、ソフィアさんから池よ、と訂正を貰ったばかりなのに。


 池の水は無くなり、下を見下ろすと沢山の家が発見できる。なんでこんなところに家が?


 池の周りに人が増えていく、ガレッグの街の住人だろうか。



 眺めているだけの僕たちとは違い。子供ぐらいの背の老人が池の跡に飛び込んだ。その老人は華麗な足取りで、壁を渡り、池の底に着いた。



「行きましょう」


 僕がそう言うと、ソフィアさんは頷いた。


 ソフィアさんをお嬢様抱っこする。そのまま老人が壁渡りをしたルートを選び、池の底に着いた。


 ソフィアさんを降ろして、老人を追った。



 すぐに老人には追い付いた。


「待て!」

「なんですかな?」


 老人が振り返り、優しそうな人と直感的に思った。


「モーブル、この老人は只者ではないです。構えてください、魔王の可能性があります」


 嘘だろ!? コイツが魔王か。


 剣を構えると、なんか、嫌な予感がして、右足を半歩退いた。


「ほう、私の一撃を躱しますか」


 いつの間にか老人は目の前にいて、細身の剣が首の横に置いてあった。


「なんで僕に攻撃したんだ?」

「はて? 剣を構えた。それだけで私が殺すのには十分すぎる条件ですけど。あぁ、合図が欲しいんですかね」

「あぁぁあぁあ」


 僕は無我夢中で剣を振り、老人から距離を取る。


「ムークリの王女様、何十年も変わらずにお綺麗ですね。私は魔王のサランド・メシュマレー。メシュとお呼びください」

「メシュね。メシュ、会っていきなりで恐縮だけど、死んでくれない。魔王は悪よ。ここにいる勇者に殺されなさい!」


 僕を見て、魔王が目を見開いてビックリしている。


「これが勇者? 冗談にしても笑えないですね」

「そうね。今勇者は記憶を忘れているの」

「そうですか、どうりで勇者とは見えないはずだ」


 僕はソフィアさんを見る。なんでバラしたんだと。


「私も加勢するわ。前の魔王みたいには行かないみたい」


 ソフィアさんが僕の肩を押すと、世界がゆっくりになる。


 これで魔王と戦える。



 剣を構えると、魔王は細身の剣で突きを繰り出してくる。


 魔王の移動速度、これはソフィアさんと打ち合っている時の速度だ。


 でも相手の動きが見れても、身体がついてこない。


 避けることで精一杯だ。


 この世界はゲームのようでゲームじゃない。首を切れば、そこでクリアだ。


 僕は主人公で強敵とバトルしても勝つように出来てる。負けイベントだったら……それでも最後には勝つ。


 剣を上段に振り上げて、魔王に目掛けて振り下ろした。





「さぁ、お互いに遊びはやめて、殺し合いましょう」



 魔王のその言葉と共に僕の胸が細身の剣で貫かれた。

 

 

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