第12話 トレード
俺は今、ノエルに膝枕をしてもらっている。
ファランシオ国の近くの海に池の水を運んだ俺は、ラクセルの街にある少し値の張る宿に泊まり、ふかふかのソファーでノエルの膝枕を堪能していた。
俺が池の水を海に運んだことで、津波が起こり、ファランシオ国の城壁が壊されていた。暗かったし、よく見えなかったが、城壁が壊れただけで済んだと思う。
ファランシオ国からプオーンと警戒態勢を知らせる放送が流れていたが、俺はそのままガレッグの街の宿に帰った。
俺たちは次の日にガレッグの街を出たが、ガレッグの街での心残りはメシュさんと手合わせでもいいから剣を合わせたかったなと。
俺は戦闘狂ではないが、メシュさんはノエルが認めたほどの男だ。俺から見てもメシュさんは相当に強い。ノエルと語り合ってたみたいに、俺も剣で語り合いたかった。
俺は剣しかしらないからな。
すーはーすーはーと鼻で呼吸をする。
「お兄様」
ノエルがジト目で俺を見ている。ノエルの反応はお構い無しで、ノエルの香りと枕の優らかさ、温かさを堪能する事にする。
「良い香りだ」
「ムッ」
プンプンとノエルが怒りだす前に、充分にノエル成分を俺の身体に注入しとかないと!
「ムムムッ!」
はい、終わりですよ! が、来ない!? いつもは俺のイタズラに頬を赤く染めて、怒る。そして立ち上がり、強制的に膝枕を止めるのに、その時間が来ない。
ボーナスタイムに突入したのか?
「旅の途中で、お兄様から膝枕をしたいと言われたら、気の済むまでやってあげようと思っておりました。こんなに続けることが恥かしいなんて、初めて知りました」
「そう言うことか、じゃあ一生このままだな」
ノエルの足が痺れたらいけないと思い、俺はいつもの二倍、ノエル成分を注入して、膝枕から泣く泣く離れた。
ノエルと宿を出て、ラクセルの街を散策する。
提灯が空に沢山並べられて、夜になると空から街を照らすんだろうか。
このラクセルの街は建物が有名らしい。お寺とか、神社とか、普通の家も、芸術的だと評価をされているとパンフレットに書いてあった。
普通の建物とは違うらしい。屋根に瓦という物を敷いてあるぐらいしか、感じない。
ノエルは建物がカッコイイとすら言っていた。俺が間違えているんだろう。
ラクセルの街に来て、俺が感動したのは、浴衣だった。
ノエルが浴衣を着て、歩いている。それだけでラクセルの街に来て良かったと感じる。
音がなる靴と、白銀の髪に栄える黒と花火の浴衣。街を歩けば、ノエルが老若男女の全ての目を奪っていく。
俺の存在が霞むほどに、ノエルが眩しい。
ノエルが美しいのは当然と、俺は胸を張り、ノエルは俺の手にくっついて離れようとしない。
「止まれ!」
楽しい散歩中の俺たちの目の前に手のひらを差し出して、歩みを阻む輩がいた。
そしてその後ろにあった箱から、デブった男が出てきた。
あの箱は人を運んでいたのか。
「ほほぉ、これは見目麗しい女だ」
デブった男が懐から金貨? を取り出すと、俺の足元にその金貨を投げた。
「その女をマロに寄越せ下民」
そんな横暴を、この俺に言って生きて帰った奴はいない。
「お兄様やめて!」
「グォグォグェ」
「そうか」
ノエルの言葉と共に、俺は片手でデブった男の首を持ち上げ、絞めることをやめた。
ポイッと男を投げ下ろす。
その瞬間に俺を刀が囲んでいた。
「俺の動きが見えてない奴らが刀を構えたところで、どうにもなんねぇよ。刀を収めろ、殺すぞ」
俺の殺気に刀を下ろし、後ずさりしたあと、刀をしまった。
「一回目は見逃した。次はねぇからな」
ノエルはデブった男に歩みより。
「何かお困り事ですか?」
得意のお節介が発動していた。
城の一室にやって来た俺たちは、デブった男から土下座をしてもらっていた。頼んでないけど。
「申し訳ございませんでした。これだけの騎士を傍に置いているなんて、これ相当に名のあるお方なのでしょう。マロ・レニダス・ラクセル一生の不覚」
「私を欲しかった理由はなんですか?」
「はい、私の娘が魔王に奪われました。誰か見ても目を奪われる貴女様を交換に出せば、娘が帰ってくると思いまして」
ほうほう、お前それは魔王とやってることが変わらない。こんな奴、助ける価値もない。
「私、交換されましょう!」
えっ! マジで!?
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