第11話 ドワーフの里
ノエルは世話焼きで会った面白い人の話、メシュさんはドワーフの里の話を交代で話していく。
メシュさんは奥さんと子供が二人いたらしい。ノエルがその事について聞くとぼかされた。それ以降、ノエルも聞くことはなかった。
ドワーフの里の想い出話をしている時、メシュさんは優しい目をしていた。
俺がうとうとしてきた時に、お茶会が終わった。
ログハウスを出ると、空は真っ暗になって星が輝いていた。そして星夜の洞窟に予約客だろうか、人が集まっていた。
「こんな時間まで付き合わせて、ごめんなさい」
「いいえ、ノエルさんの話が面白くて、私も話にのめり込んでました。ありがとうございます」
俺が階段を降りている時に、ノエルに向かってメシュさんはコホンと咳払いする。
「最後に私が魔王になった秘密を一つだけ、教えます」
「え!? いいんですか!」
「ノエルさんはそのために来たんでしょうし。一つ、目の前にある大池がドワーフの里があった場所なんですよ。ガレッグの街の人たちが言うには川が氾濫しての水害みたいですよ」
水害みたい、と言うのは何か引っかかるな。
「どうしてドワーフの里が一晩で水に沈んだのか、知らない人しかいないですね。知っている人はだいぶ前に全員殺しましたので」
「そしたら復讐は済んだのではないですか? 昨日も無関係な人を殺そうとしましたね」
「分かっていながら、それを私に聞くんですか」
「はい」
「ノエルさん、私は一つだけと言いました」
メシュさんのその言葉を聞き、ノエルはお辞儀すると、階段を降りた。
殺された、殺した。だけではすまない事は多いにある。メシュさんもグランさんと同じで、もう止まれないんだろう。いや、止まる気がないのか。
ノエルはその想いを確かめたかったから、わざと無関係な人と言ったのか。我が妹ながら、こわいな。
俺がメシュさんの守れなかったもので、魔王になっていたら、殺すときに躊躇うかもしれない。剣が触れないかもしれない。
無関係な人を殺す。魔王になる時に、そんな葛藤はもう乗り越えたはずだ。でもノエルは、本当に乗り越えてるの? と尋ねている。
俺には葛藤をもう一度やれと、言っているように聞こえた。
ドワーフの里にいた貴方は違ったはずだと。
ほら、そんなことを言ったから、メシュさんも俺も口角が上がってる。ノエルは真っ赤になりながらログハウスを去っていく。
城のお姫様でも、御伽噺のヒロインでも、そんなピュアピュアなことは言わない。
でもノエルがここまで純粋な言葉を吐くのは、メシュさんがドワーフとして凄く気に入ったということだろう。
メシュさんに俺からも会釈をした。そしてノエルに置いていかれないように、俺はノエルの後を追った。
ログハウスが見えなくなるところで、ノエルが止まった。
「お兄様」
「なんだい? お兄ちゃんに出来ることなら全部やるよ! 痩せてカッコよくなったり、気に食わない奴がいるなら殺すか、痛めつけるか選ばせてあげるし、あと……お兄ちゃんに何が出来る?」
考えてみたら俺はお兄ちゃんとして、出来ることのレパートリーが少ないことに唖然とした。
「あと一つ、あと一つあった。大池の水を全て抜ける」
どうせそんなことだろう。ぱぁ、とノエルは笑顔になる。池の水を抜くとかはやったことはないけど、ノエルのキラキラした目にあてられたらやらない訳にはいかない。
大池に来た。まぁ、目の前だったんだけど。
池の水に触れて、チェンジと唱えてもダメだった。
マジか、だよな。
交換する物がないと、でもこんなに暗いしな。近いと水が戻って意味ないし。
「あっ! ヒカリ苔を仕掛けにしたらどうだろう」
「ヒカリ苔ですね!」
俺が呟くと、ノエルが走って行ってしまった。数分後にハァハァと息を切らしたノエルが両手いっぱいに紫色のヒカリ苔を持って現れた。
「こ、これで、いい、んです、ね」
「あぁ、これでいい」
ノエルから紫色のヒカリ苔を取り、一つ以外はポケットに入れる。
「ファランシオ国が近いし、国を越えたところにある海が池の水を捨てるのに丁度いいな」
俺の全速疾走を魅せる時が来た!
ヒカリ苔を斜め上に投げる。水を触る。右手にヒカリ苔が池の水とチェンジされたことで、スタートだ。
俺の速度には木々も、吹き飛ぶ。
海までジグザグに進んで行くことになる。ヒカリ苔はそんなに強くは投げれない。一旦止まって、深呼吸してヒカリ苔を投げる。そして走る。
夜だから池の水は見えないが、ヒカリ苔とチェンジした所へ直接俺が飛び込む。少しでも水が触れたらチェンジ出来る、はず……右手にヒカリ苔がチェンジされる。
よし、これの繰り返しだ。
チェンジ魔法は動いている物をチェンジしようとしたら、チェンジした物にまで動きが移る。ヒカリ苔と池の水は、さながらコップで水を斜め上に撒いているイメージだな。コップはヒカリ苔。
これ思っている以上に大変だ。
まったく、膝枕で勘弁してやる。
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