第10話 ティータイム
星夜の洞窟に入ってみれば、苔が星みたいに輝いて見えるというものだった。これだったら夜の空を見た方が綺麗だと思う。
俺はノエルが楽しんでいれば何でもいいがな。
ノエルは何で光っているの? と不思議そうに目をキラキラさせていた。
ガレッグの街のパンフレットの写真と違うが、それも旅の醍醐味だろう。一緒に回る客も渋い顔をしていた。
老人がこの洞窟の案内役で、名をサランド・メシュマレーと言った。背は子供と一緒ぐらいだったが、スーツ姿をピシッと着こなし、俺でもカッコイイなと思ってしまうぐらいの紳士だ。
「メシュさん、なんで青と緑と赤と黄色と、苔がこんなに光っているんですか!」
ノエルのテンションがやけに高かった。メシュマレーさんはメシュでも良いと自己紹介の時に言っていた。
「はい、種類が違うんですよ。青はラクリ、緑はララクリ、赤はルクリ、黄色はサンタヌクレールです」
黄色はクリ付かねぇのかよ。なんだサンタヌ? サンタヌク? えぇと、覚えてねぇわ!
「そしてなんで光っているか、ですかね。夜にこの苔は動きます。少し少し、ね。一緒の仲間の所へ行こうとするんですよ。だからこういう光景は離れている内に来ないと見れないんですよ」
そう言われて見ると、貴重な体験をしているんだなという気分になってくる。
「メシュさん、メシュさん、紫のこれは!」
「それはですね。死にそうなヒカリ苔です。どんなに色が違っても最後は紫に光るんです」
ノエルはメシュさんと仲良く洞窟を回っている。
すると右、左と洞窟が二つに別れた。
「こっ……」
「メシュさん、こっちですよね」
メシュさんが左を見たが、その逆の方にさっさと行ってメシュさんを呼ぶノエル。
「はい、そうですね。こちらです。皆さん、着いてきてください。迷っても知りませんよ」
メシュさんは微かに笑みを吹かして、右の方に客を誘導した。
左を見れば、別に何にもない。ただ左の通路のヒカリ苔は紫色に染まっていただけ。
ただノエルが俺にメシュさんを殺させなかっただけ。
それでいいじゃないか。
昨日は星夜の洞窟に行った。
俺は朝のトレーニングをやり終わる。最近筋肉がついてきて、腹まわりもだいぶ落ち着いてきた気がする。
急激に痩せると、皮膚が余ると聞くが、それもノエルの回復スキルのおかげで、皮膚が余るということにはなっていない。
日に日に痩せる俺の身体を見て、ノエルは残念がっている。これもノエルを守るためだ、我慢して欲しい。
ノエルが料理を作る時は、俺が勇者な時よりも、三倍ぐらいに量が多い。ノエルの出した料理は全部食べるが、俺はそんなに食えない。
ノエルの料理がすごく美味しいけど、腹八分目から味が分からなくなる。限界を超えて、食べ終わると達成感すらあるから勘弁して欲しい。
食べ終えた俺にノエルは回復スキルを掛けてくれるのはありがたいが、作ってくれたのはノエルだ。
回復スキルを使わないといけない量を作るんじゃないと言えない俺が悪いのか。
「また置いていきましたね、お兄様!」
「さっき寝たばかりだろ、寝とけって」
「ムム」
口を噤んでノエルはベットの方を見ている、ベットが恋しいのだろう。
「ムッ! メシュさんに会いに行きます、お兄様も用意してください!」
「トレーニング後の回復スキルは?」
「……もうしょうがないですね」
ノエルはぷんぷんしてても日課はやる。
ガレッグの街から出て、すぐに大きな池がある。馬車が通れるほどの通路を道なりに行くと大きな洞窟と、一件のログハウスがある。ここが星夜の洞窟とメシュさんの家だ。
ノエルはログハウスの扉を、トントンと叩いた。
少しすると階段を降りてくる音がして、カチャリと扉が開いた。よくメシュさんはノエルのトントンの合図でわかったな。
「二階でよく分かりましたね」
「こんな綺麗なお嬢さんにノックをされたら、音だって違って聞こえますよ」
おぉ、カッコイイ。俺もその言い回し使お。
メシュさんは俺たちをログハウスに入れてくれる。
ふかふかのソファーに座るとメシュさんはお茶を入れてくれる。
「さて、私を殺しに来たんですか?」
「殺すならとっくにやっている」
「モブオ様は黙ってて」
俺に発言権はないらしい。
「ノエルさんのご主人は、勇者かなにかですか?」
「夫は勇者ではないですよ」
「そうですか。魔王として人を殺して来ましたが、初めて敵わないなと思ったので、つい詮索を」
冗談が鼻について困る。メシュさんと今の俺が戦えば、ギリギリ戦いになるかどうかだ。ドワーフは正直者が多いと聞いていたのに、ハズレを引いてしまったらしい。
いや、今までに魔王になるドワーフは全員が正直者とは無縁だったな。
「では何をしにいらっしゃったのですか?」
「お茶を飲みに、こんなにカッコイイおじ様にあったんだもの。もっとお話がしたいわ」
「それは光栄ですね。お菓子も用意しましょうか」
魔王と仲良くお茶タイムが始まった。
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