第8話 魔王の準備
俺たちはリファルの街を散策していた。
三日で路地裏まで歩き回った。俺はノエルが行くところならどこでも行った。
「はい! 先生!」
「ノエルさん、どうしました?」
俺たちはリファルに来て、四日目にして、教会の学び舎に通うことになった。
グランさんとノエルはいつの間にか、すごく仲良くなっていた。毎日と教会に顔を出していたからな。
グランさんが先生で、生活を豊かにする勉強を軸に、様々な学びを自分たちで発見できるように教育しているのが印象的だった。
リファルの街に来て、二週間が経って、今なおノエルは勉強している。
算術にしてもノエルは解き方が分かってスッキリするんだと、ノエルは天才だからもうすでに答えは分かっている状態で、誰かに伝える時に困っていたと。
そんなキッチリと計算出来て、役に立つのか? と俺は思っていたが、グラン先生は、一よりももっと小さい数を計算出来たら、この世界の外に行けると言っていた。
まぁ、それは凄いことだが、俺は別にこの世界の外に行きたくない。でもそんな凄いことを成し遂げた人がいるなら会ってみたいな。
その夢物語をキラキラした目で聞いている子供は、その夢物語を叶えるんだろうか。楽しみだ、今世では行けないと思うがな。
「今日の授業は終わります。一ヶ月後は親子さんも連れて、ムーリク王国に二泊三日の修学旅行ですよ。私が旅費を払いますので、手ぶらで良いとお伝えください。欠席は今のところいないですが、日にちはプリントに書いていますからね。無くなってしまった人は気兼ねなく言いに来てください。プリントを渡しますので」
「「「「「は〜い」」」」」
子供たちが手を挙げて大きな声を出す。修学旅行の日が街が滅びる日か。
グランさんも生徒には絶望を与えたくはないらしい。
子供たちが帰り、ノエルがグランさんをお茶に誘う。それが日課になっていた。
カフェのテラスでノエルとグランさんは優雅にお茶を飲む。三人でいると俺の場違い感が半端ない。
「ルルちゃんはなんでこの街を壊したいの?」
ピクッと肩を揺らして、グランさんは俺を見る。
「あぁ、モブオ様に聞いたんじゃないんです。モブオ様は興味がないですからね。でも私が気になったんです、明日はこの街を出るので教えて貰えませんか? ティータイムを一緒にする仲間に」
「ノエルちゃんとモブオさんはどうしてこうも、感知能力が高いんでしょう。街全体にスキルが張ってあることと、毎日修学旅行の日にちを子供たちに確認させて、親御さんにも確認を取っていたら、私のスキルを見ないでも分かりますよね」
俺は立ち上がる。
「モブオさんも聞いていかれませんか?」
「いや、興味ない」
俺はカフェを出て、散歩に行った。
人は醜い、混血も忌み嫌う人もいる。
オレンジ色の空を見て、もういいだろうとカフェに戻る。
ハンカチを濡らしたノエルとグランさん、そして二人共に泣き止むことがない。
「ルルちゃん、もし魔王として殺されそうになったら私たちの後を追って、必ず助けるから」
「ありがとうノエルちゃん」
ノエルがグランさんと抱き合って、魔王を助けると言う。
ノエルが言うなら助けるが、グランさんは俺たちに迷惑をかけることはしないだろうな。
ノエルはグランさんと別れたあと、泣き止むのに一晩かかった。
ノエルの回復スキルがあるから、身体を鍛え放題だ。
剣を軽く振ったら骨折することもなくなった。この身体になって、もうかれこれ二ヶ月が過ぎようとしていた。
今はガレッグの街にいる。
ここは星夜の洞窟があると、ノエルから聞いた。時期的な事かは分からないが、星夜の洞窟は昨日までは入れなく、今日から開催された。
一週間待ったんだ、期待はずれじゃないことを祈るばかりだ。
俺たちは夜行くことになっている。だから宿屋で昼寝だ。
ノエルは屋敷にいる時に、俺と旅をするならと、街を案内する宣伝の紙で行きたい所に目星をつけていたそうだ。
可愛いやつめ。
そう言えば、リファルの街でグランさんは魔王になれたのだろうか。魔王になっても討伐されるだけだが、魔王になるだけの想いがあるなら、それはしょうがないことだ。
絵本に登場する魔王は酷く自分勝手で世界を支配しようとしていた。けど現実の魔王は、そんな簡単な想いで魔王になる奴なんか、本当に……本当に少なかった。
「お兄様ぁ」
ノエルが目を瞑ったまま俺の名を呼ぶ。俺は重みがある魔王の想いを殺すという簡単な手段で綺麗に……いや違う、殺すという純粋で簡単な悪で塗りつぶしただけ。
綺麗に、 なんて使っちゃいけない。
魔王が悪なら、勇者はどうだ? 極悪人に違いない。
この世に正義なんて、存在しない。まぁ、正義があるとするなら、個人的に都合が良い方を正義と呼んでいるだけ。
ノエルの頭を撫でる。そしたらノエルは寝顔でも笑顔になる。
俺の正義はノエルの幸せを守ること。誰かの幸せを願うことは正義か、悪か。
俺にも分からない。でも俺はノエルの幸せを願って、正義と決めつける。
正義は決めつけから産まれるもんだろう。
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