第6話 エルフ



 リファルの街に着いて、商人に送ってもらったお礼を言う。ノエルも俺と一緒にぺこりとお辞儀をした。


 商人は何故か顔が汗まみれだったが、笑顔で「ありがとう」と言ってきた。


 商人に別れて、宿探しかと、リファルの街を散策する。



 ノエルが先頭を歩き、俺が後ろから付き従う。ノエルは歩く時にルンルンと軽く跳ねている。兄妹で街並みを歩くのとかはもう何百年前だろうか。


 俺を嬉しいが、ノエルも嬉しいのだろう。



 すると教会が見えた。


「お兄様、ここは七色に光るガラスがある所じゃないですか! い、い、行ってもよろしいでしょうか」


 キラキラした目で訴えかけられたら、承諾するしかないだろう。


「お嬢様の行きたいところなら、このワタクシがついて行きますよ」

「わぁ〜い」


 籠の小鳥だったノエルがやっと飛び立ったんだ。キラキラした目で訴えなくても承諾する。



 教会の敷地に入ると、通路の横で子供たちが机を並べて座っている。そして金髪の髪に長い耳のエルフが子供たちに勉強を教えているように見える。


 人の街にいるのは混血のエルフと決まっているが、エルフは博識だしな。この子供たちは立派な人になるだろう。


 エルフの人が俺に気づいて、軽く会釈をしてきた。俺もそれに倣う。


 エルフは俺の態度に目を見開いていた。いや、なんでだよ。


 ノエルと一緒に教会に入る。



 教会に入ると、俺たちに気づいた教会の人がお辞儀して、その横には木の板が立て掛けてあった。板の高さは腰の位置で、一枚のカードが備え付けられていた。


「ノエル、そこのカードに一万ぐらい払いなさい」

「はい」


 一万と聞いて、カードの横にいる人の肩がビクッと揺れた。それを見て。


「いや、神には良くしておくとしよう。十万だ」

「はい」


 ノエルがカードを取り出して、カードに翳す。ピンッと音を鳴らして、十万入ったことを知らしてくれる。


 教会の人のお辞儀がさっきよりも深くなっていた。



 カーテンで仕切られた中に入る。


 教会の中は色とりどりに輝いていて、ノエルを見ると、目をキラキラさせて「綺麗」と言っていた。


 窓ガラス全部が七色に光り輝く、光の線も七色で、幻想的な光りの世界。ノエルが綺麗と言うのも分かる気がする。


 通路の両側には長椅子が七列と並べられて、通路の行き着く先ではヒビが入った剣のオブジェが祀られていた。


 俺は神様に疎いが、ヒビの入っていない剣とか、盾とか、弓とか神様の名前で祀られている物が違う。


 なんか神様が置いていった武器らしい。教会にそんな強武器あるなら使わせてと勇者の俺が言っても、教会は聞く耳を持たなかったな。貸し出しすらもダメときてる。



「お兄様、綺麗ですね」

「あ、あぁ」


 そうだ、もう勇者じゃないんだ。


 トントンと肩を叩かれて、振り返ると子供たちに勉強を教えていたエルフがいる。


「佐藤さん、そこの美人さんは誰ですか?」


 サトウさん? 俺に喋っていることから、俺の知り合いか?


「あぁ、すまない。この子はノエル。俺の」

「妻です」


 俺の言葉を切り、ノエルが妻と言う。ノエルが良いなら、俺が訂正する必要もない。


「えっ!?」


 エルフが声に出して、ビックリしている。この姿だもんな、俺でもビックリする。


「サトウさんは辞めてください。夫はモブオと言う名前で、過去は全て忘れて、新しい人生を歩んでいる最中です。是非とも、そのように合わせてやってくださいませ」

「そうですか。私も転生者として、過去に区切りをつけたい気持ちは分からないでもないです。うん、モブオさん初めまして。ルル・グラン、人とエルフのハーフです」


 ノエルは話が上手い、お世話焼きで培われたのか。


 ハーフ? あぁ、転生者の言い回しか。人とエルフの混血のことだろう。転生者ということも聞けた、そしてこの身体の持ち主も。


 グランさんは握手を求めてきた。握手を返し、言葉を添える。


「初めまして、グランさん。俺はモブオです」

「私は妻! のノエルです」


 再度妻ということを強調して、ノエルはお辞儀をする。


「過去を切り離したと言っても、モブオさんは農民でしたよね。ノエルさんは雰囲気が身分の高い人のような感じがあるのですが、どこで会ったんですか? モブオさんのどこを好きになったんでしょう」


 俺がは話そうするとノエルが少し前に出る。


「どこで会った? それは語ることが難しいですね。う〜ん、ずっと昔です。どこを好きになったのかは、全部です」


 頬を赤らめながらノエルはそう言い切った。妹ながら大したものだ。グランさんは若干引き気味だ。


「っと、授業の合間に知っている顔に挨拶しに来ただけなんで、これで失礼します」


 グランさんは急ぎ足で、教会の外に向かって行ってしまった。



「お兄様、随分と綺麗な人でしたけど」

「俺にはお前以外に興味は無いよ」

「そ、そうですか」


 ノエルの可愛い反応を楽しみながら、ノエルと一緒に七色の光りの世界に浸った。

 





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