第3話 のんびり生活



 ノエルは町娘という格好だが、お嬢様オーラが隠せていない。ノエルの準備が終わって、俺が魔法鞄を背負う。


 屋敷を出るとノエルに気になったことを一つだけ尋ねる。


「俺がノエルを騙してたらどうするだ?」

「お兄様が私を騙すはずがないですよね」


 ノエルは可愛らしく小首を傾げる。何言っているの? みたいな感じで。


 それはそうだか。本当にお兄ちゃんなのかとか、騙してたらとか思うじゃん。


「騙されたら私の見る目がなかったということ、違いますか?」

「それなら俺よりも信用できるな」

「そうでしょう、そうでしょう。ぷにぷにです」


 ノエルが俺の腕に抱きついて歩く。ノエルは他人にこんなことはしない、心の底から俺をお兄ちゃんと思っているから出来ることだ。


 外見をまるで気にしていないノエルが妹で良かった。


「国から出たらやることは、痩せてカッコがつくようにはしたいな」

「私はぽよぽよでもいいですよ、いっぱいお料理も食べてくれそうですし」


 ノエルの世話焼き好きが出た。俺がギルドにクエストとして出すほどに、ノエルは人の世話を焼くのが好きだ。


 まぁ、俺たちは似たもの同士なのだろう。俺も感謝しなくなった世界を守っていたんだしな。






 リファルの街に行くという商人の馬車に乗った。乗車料はタダでいいと気前が良かったが、ノエルが乗るんだ。金を払ってでも乗せたいだろう。


 ユニークスキルのチェンジ魔法を試したいと思っていたら、丁度よく盗賊団が商人の馬車を囲んだ。


「へへへへ、可愛い子が乗ってるだろ。女と荷台ごと置いていけば命だけは助けてやる」


 ムーリク王国から狙われていたのか。俺が勇者だと知ってのろうぜきか? あぁ、姿違うんだった。


 ノエルも外に連れていかないから、勇者の妹とかいるってこと自体知っている奴は少数しかいない。だから盗賊団は勇者の妹と知るはずがない。


「この世界には魔王もいるっているのに、数で囲って、人の持ち物や、人の大切な者まで奪う輩がどうしてのうのうと生きてゆけるのか、俺はずっと疑問だったが、やっと理解出来た」


 荷台から降りて、地面から小石をジャリッと拾う。


「お前らは俺に殺されて、俺が悦を満たすためにいたんだな」

「デブったボクちゃんが何か言ってやがる! ッ! あれ俺の剣は!? 石?」


 馬に乗っている盗賊の持っていた剣が、小石とチェンジされる。盗賊は小石になっていることをビックリしていたが、俺はその剣を真上に投げる。


「チェンジ」


 小声で呟くと俺は馬に乗っていた。俺の体重で馬は産まれたてみたいになっていた。「ぎゃあああ」と汚い声がして俺が元いた場所に目をやると、剣が盗賊の肩に突き刺さっていた。


「いでぇよ、肩に、肩に! 剣が刺さった!」

「それは痛いな」


「「「「「「!!!!」」」」」」


 盗賊の声に同調すると、周りを囲んでいた盗賊が我先にと馬を翻して逃げる体勢に移った。


 馬の毛をむしって、それをチェンジ魔法の仕掛けにすると、剣を奪う、真上に剣を投げる、盗賊と場所を入れ替える、のルーティンが完成して、すぐに盗賊団は地面に這いつくばった。



 チェンジ魔法は俺の思った通りに凄く強いな。他人と触れている状態だと他人と入れ替わるほどの力だ。場所を入れ替えるぐらいなら触れていなくてもユニークスキルだし出来ると思った。


 俺は痛い痛いと言っている盗賊を縄で動けないようにして一箇所集める。リーダーみたいな男がギャアギャアと煩く喚く。


「俺たちは衛兵に捕まえられたって、お前の顔は覚えたからな。今度会ったら絶対に復讐してやるから覚えとけ!」



 俺は荷台に戻り、魔法の鞄からカチッカチッとライターを取り出した。


「ノエル、ノエル。これってどう使うんだけって」

「これは指で歯車を回し、摩擦を起こすと燃焼効果のある魔法液にひたった白い糸が引火します。消したい時は閉めれば消えますよ」


 ノエルに使い方を教わる。転生者という人物たちが、便利なものを次々と開発するから転生者様々だな。


「お兄様、人を燃やす為にはライターじゃ足りません。少し待っていてください」



 ノエルが魔法鞄から油を取り出した。それを盗賊たちにかける。


「ゴボゴボ! ゴボゴボ! 何をする気なんだ!」


 ノエルは油をひとしきり掛けると、お辞儀をして、荷台に上がる。


 カチッカチッとライターを練習しながら、ノエルと入れ替わるように俺が荷台から降りる。


「お前まさか! 人を焼こうっていうわけじゃないよな! 俺たちは盗賊でも人を殺したことはないんだぞ! お前のカードに赤マークがつくことになる」


 盗賊のリーダーが喚いている。他の盗賊たちはガクガク震えながら俺の行動を目で追っていた。


 ポケットに入っているカードは人を殺したことが無い者を殺すと赤色になる。それはカードを変えても引き継がれる。このイカれたシステムがコイツらを生かしているのか。


 だから復讐するとか言えるのか。


 随分と1000年、魔王を倒してるあいだに甘くなった物だな。


「お前らさ、奪った罪が、殺してないの一言で甘くなるはずがねぇだろ。人を殺してないで、牢屋から出た時に、酒を飲みながら盗賊稼業は辞められないぜと何度言って、何度復讐したんだ?」


 俺の言葉にリーダーが喚くのを止めた。俺が殺気を送っているからかもしれない。


 油以外の臭いがする、アンモニアくさい。


「今度会ったら復讐でもなんでもやればいい。まぁ、現世では無理そうだけどな」


 俺はライターを投げる。盗賊たちはそのライターを涙目で見送る。ライターが地面につくと一瞬で炎がまわり、ギャアギャアと盗賊全員の大合唱だ。



 荷台に乗り込み、馬車が進む。


 

 俺ののんびり平和な生活がスタートした。



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