第三章第一話〜第三話

第一話


 ノートを読んでいた凛。

 8月の夢ラッシュに困惑こんわくしていた。


 雪村は横で冷静に言った。

 「これだけ近い日に固まってても、起こるものは起こると割り切るしかないよ、凛。」


 「うん、でもサッカー部のマネージャーやってる友達にはLINEしとく。優勝おめでとう(不戦勝だったけどね)ってね。」

 そう言って友達にLINEしている凛。


 「どう思われてもいいの?凛。まぁ事実になるだろうから構わないけどさ。」


 「私、ノートを読んでで気が付いたんだけど、同じ日に2回は無いっぽいよ。あと、年が書いてなくて更に時間も分からない夢も起こらない事が有るみたい。8月は全部年は書かれてるから、雪村の言う通り、事実に変わるだろうなぁ……。」


 ノートを机の上に置く凛。窓の外が薄暗くなってきていた。


 「あ、もうこんな時間。ねぇ雪村晩ご飯は?」


 「んー?残り食材で作る。」


 「そか、じゃあ私も食べる。今度は私が作るから。」


 凛はキッチンに行き、炊飯器の準備を終えると冷蔵庫をのぞく。

 「肉は食べちゃったから、野菜炒めね。」


 そう言うと、野菜の仕込みに取り掛かった。


 サッカー部マネージャーの友達からの返信が来ているようだったが、凛はそのまま放っておいた。



 8月3日。

みらい平学園高校サッカー部は、相手校の辞退により優勝が決まったと凛の友達からLINEが入った。


 (凛!うちの部、優勝したよ!……何で不戦勝だって分かってたの?不思議。それでね、生徒会が約束してくれてて、駅に横断幕が張られるの。見にいってみてね。)


 (私も、ただなんとなくよ。ぬか喜びじゃなくて良かったね。おめでと〜〜〜。)


 これで8月1回目の夢は実現してしまった。また正夢になったと凛は感心した。


 

 8月7日。

夏休み中のバイトの2人を尻目に、夢は正夢となっていく。


正午近く、先月の堤防決壊の様子を取材に向かうTV報道のヘリコプターが、エンジントラブルを起こし、常磐自動車道に沿って低く飛んでいた。……が、守谷市からつくばみらい市に入って直ぐの場所で、ヘリコプターが不時着を試みるも失敗炎上した。

この事故で、常磐自動車道下り線が4時間ほど通行止めなってしまった。


……8月2回目の夢もまた、正夢となってしまった。


 (凛。もうバイト終わった?)

 

 (今終わって帰るとこ。)


 (今日、8月2回目のが起こった。スマホのニュースにも出る様になったから記事読んでみて。夏休み中バイト続くけど、お互い頑張ろうね。)


 (ありがとう。ニュースは帰ったら見る。雪村もバイト頑張ってね。)



13日AM10時。8月3回目の正夢となった。

凛がクラスメートの松居まつい美智子みちこを連れて俺の部屋にやって来た。

夕べ親と大喧嘩の末、凛に泣きついたらしい。凛にしても実家にいる手前、気不味きまずくて俺の所を頼った様だ。

 

バイトが休みだったし、凛と美智子には、部屋で自由にさせた。


俺はと言えば、今日もう一つの夢の検証。

部屋を凛に明け渡し、3時過ぎまで戻らないのを伝えて、何の目的も無く自転車で近所を走り回った。


凛がノートを読みながら言っていた。同じ日に2回は無いっぽいと……。今日は既に午前中に1つ起こってしまい、果たして2回目が起こるものかを考えていた。


(同じ13日、PM3:00。某有名人が結婚記者会見。噂が有っての結婚にあまり騒がれない。)


果たして起こるのか……。雪村は、2回目の正夢は起こらないのを確かめたかった。



第二話


13日の2回目は、PM4:00、4:30になっても何も無く、雪村は部屋に戻ることにした。


まだ凛と美智子が居る。

凛は色々と美智子の家出の事情を聞き出した様だ。同じ部屋に居ながらも、LINEを送ってきた。


(ごめんね雪村。晩ご飯、美智子と一緒に食べようかと思って。2人で買い物行ってくる。)


(りょ。買い物気を付けて行っておいでー。)


凛は友達と2人で、少し離れたカスミスーパーまで買い物に来た。友達の家はここから近い。

友達に家を思い起こして欲しい作戦の様だ。

何気なく、家では晩ご飯の時間は何時だったのか?とか、食卓にはどんな料理が主に並んでたの?とか……。


先ずは、あからさまに家の事をリサーチする凛。美智子は素っ気ない返事。


「あ、ごめん。ここはご飯じゃなく、たこ焼きパーティーにしよう!タコ以外に入れたい食材決めてー。私はちびウインナー。美智子は何にするー?」


結局は凛の好きなタコパに決まった。


同じ日の夢は2回目は正夢にならない。これが今日の検証と結果だった。凛の察する通りになった。


その後、夕方を過ぎ、3人でタコパが始まった。

いつも凛が仕切って、たこ焼きを焼いてくれる。さすが関西出身の両親の家庭生まれだ。


雪村は美智子とはあまり話さなかったが、それなりに3人のタコパは盛り上がり、皆んな満腹まんぷくになり終わった。


片付け物まで終わらせると、美智子は2人に言った。

「2人共ありがとう。何か目が覚めた。……親にはちゃんと謝らなきゃ。私が一方的にキレて、勝手な事言ってた。帰って反省しなきゃだよね。」


雪村と凛は顔を見合わせ、目配せした。

「じゃ、美智子。近くまで送るよ。」


凛と松居美智子は部屋を出た。



第三話


 (凛、バイト終わったら、いつもの交差点で待ってるよ。)


 雪村は凛にLINEを送ると、バイト先からいつも待ち合わせる交差点に向かった。普段なら雪村の方がバイト終わりは遅いのだが、今日は凛と同じ時間のシフトだったので、待ち合わせて帰る事になっていた。


 そして、今日は20日。8月4回目の正夢の検証のつもりで、2人は待ち合わせたのだった。


(20日、バイト帰り、凛と待ち合わせて部屋に帰る途中、交通事故を目撃。直ぐに110番する。通報者としてその場で事情聴取。)


 ノートに書かれた内容からすると、待ち合わせの後で事故を目撃する事になる。


 待ち合わせの交差点から雪村のアパートまでの間で起こる事故なんだろうが、帰るコースを変えたりしても夢の通りになるものなのか。凛とはこの事は話していた。


 偶然は無いと言う証明にもなる。2人はいつもの交差点で落ち合った。

 

 「お疲れ雪村。」


 「うんお疲れ。凛、今日はアパート寄ってく?」


 「うん、明日バイト無いから寄ってくー。」


 いつもの交差点で立ち話していた2人。

 そこへ車のタイヤが鳴る音と共に、ドンッ、ガシャリと音が聞こえた。


 2人は音のする方を見た。

 右折車と直進車の事故の様だ。


 雪村はスマホを取り出し、緊急時連絡に繋いだ。


 警察が到着するまでその場に居られるか尋ねられ、来るまで待てる旨を伝えて電話を終えた雪村。


 「ねぇ、雪村。車から誰も出て来ないよ。近くに行こうよ。」

 「あぁ、そうしよう。」


 交差点内、強引に右折をしようとした車に直進車が突っ込む典型的な事故であった。

 右折車は横転、直進車はブレーキが間に合わず、前面バンパーやボンネットが大破している。


 2人は横断歩道を渡り、近くまで歩いてきた。


 雪村は、横転している車の運転手の血だらけの姿を見て、凛に見せない様に肩を抱き向きを変えた。

 凛に気を使ったつもりの雪村だったが、向き直った方向には、直進して突っ込んだ車が。

 運転手はシートベルトをしていなかったのか、エアバックを押しのける形でフロントガラスに頭から激突げきとつした様で、肩の辺りまでガラスの外に出ている。


 慌てて雪村は凛の目線を遮ると、首を横に振った。

 手をつないでいた凛は震えていたが、ゆっくり抱き寄せる雪村。


 「凛、もう見ない方がいい。もうすぐ警察が来る。すみっこで待ってよう。」


 パトカーが3台やって来た。その内の1台から出て来た警察官に呼び止められる2人。


 「通報者の伊丹雪村さんでしょうか?」


 「はい。そうです。」

凛はしゃがみ込んでいる。


 「事故があった時の様子を聞かせてくださいね。時間は大丈夫ですか?」


 「はい、問題無いです、構いません。」


 雪村と凛が、横断歩道を渡った方で事故を見かけ、緊急連絡したのを伝え、当時の様子を聞かれた。


 2台の事故を見たのではなく、音でその方を見たら事故ってた事を伝える雪村。うなずく凛。


 タイヤの鳴る音から衝突音までどの位だったかとか、目を向けてからの2台の車の様子、緊急連絡はどのタイミングだったかとか、いくつもの質問に答えていく2人。


 救急車が2台、レスキューの消防車が1台到着した。


 連絡先を聞かれ、確認で連絡が来るかも知れないと言われ、聴取が終わった。


 赤い警告灯の反射があちこちの建物に映る中、雪村と凛はアパートに足を向けた。

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