第三章第四話〜第六話

第四話


 交差点事故の聴取を終えてアパートに戻った2人。

 部屋に入って来る。


 「普段と違うコースで帰るつもりだったけど、まさか待ち合わせの交差点で事故とはね。」


 「私も思った。で、ノートの文面だと、帰る途中って書いてあるじゃん。てっきりアパート迄の何処どこかだとばかり思ってた。」


 「しかし、あの2台のぶつかり方、かなりひどかったんだろうね。凛に見せたくないからって抱き寄せちゃったよ……。」


 「でも私、チラッと見えてしまった。直進車の運転手。……不謹慎ふきんしんだけど、雪村ありがとうって思っちゃった。」


 「これで8月4回目の正夢……か……。あまり考えたくなかったけど、今日は結果こうなっちゃった。何か辛い……。」


 「知ってたところで、防ぎようが無い場合も有る。それは雪村が言った事でしょ。割り切るしかないよ。」

 

 22日。

朝から大雨とひどい雷だった。雪村、凛は2人共バイト。この雨の中の出勤は気が重い。


 雨は2人のバイトが終わる時間には止んで、晴れ間が見えている。東の遠方を見ると、薄っすらと虹が見えた。


 翌日23日……。

 昨日の雷が学校に落ちたらしいと噂が流れてきた。

避雷針ひらいしんはもちろん有ったが、それにも増しての雷で、電気関係に影響が出た様だ。


 コンセントに繋がれていた一部電化製品、パソコン、モニター用液晶テレビ等が雷被害を受けたそうだ。


 8月5回目の正夢となってしまった。


 「これ位だったら、前もってコンセントを外したりの対応は出来たはずだけど。でも、その場で話したところで、ただただ不審に思われるだけ。それが何か辛いんだよなぁ……。」


 ベッドに横たわる雪村が呟いたのだった。



第五話


 29日朝。遠くで雷の音。

 それで目が覚めた凛。外の天気を確認するのに窓に向かって歩く。

 

 「雨は降ってない。雷は西の方?……。」


 次第に雷の音が近付く。空が光ってから、音がするまでの時間が徐々に縮まってきた。


 「そろそろこの辺も降り始めるのかな?良かった、今日はバイト無し。このまま家に篭ってよーっと。」


 一方バイトが始まっている雪村。

 「雷の音がだんだん近くなってるなぁ……。帰る時は雨、降らなきゃいいんだけど……。」


 空が光ってから音がするまでの時間が、刻一刻こくいっこく短くなっている。

 一般に、稲光いなびかりの後の音の聞こえた時間で、雷雲の遠い近いを判断出来る。


 ついには光って直ぐに音がした。

 地響じひびきの様な振動が有った。

 

 しばらくして、消防車の走っていく音が聞こえてきた。


 雪村の部屋の窓から、オレンジ色に明るく光る場所が見えた。

 

 かなりの数の消防車が走り去るのが分かる。

 空がオレンジ色に染まったのは……夢のノートの通り、近所のゴルフ場だろう。

 ゴルフ場に雷が落ち、植林した木が燃えて、まるで山火事みたいになり、オレンジ色に明るくなっているのだった。


同じ29日は、もう一つの夢がノートには書き留められていたが、昼を過ぎても、その内容の騒ぎは起こらなかった。


「同じ日に2回は起こらない……って事がこれで決まりだな。」



第六話

 

 8月は合計6回。しかも全てでノートと同じ内容。更には、同じ日に2回は起こらないと言う実証にもなった。


 8月31日。凛は雪村の部屋にいた。


 「ねー雪村。結局全部正夢になった。9月に入ってもあるんだよね?」


 「う、うん。有るけど、やっぱ俺達には何にも出来ないよ。」


 ノートを確認する凛。


 「2035年9月15日。近所の家が突然崩壊ほうかいするだって。どんな夢だよって感じ。でも、年が書かれてるし、実際起こるんだよね。近所の家ってどこだろう……。」


 「凛。それがどこであれ、静観するしかないんだよ。起こるのが分かってても……黙って見てるしか……。」


 肩を落とし、うつむく雪村。


 「15日だと、学校も始まってるし私達は、バイトで気を紛らわそう!」


 「そうだな……。」



9月15日午後2時頃。

 前日に降った雨の影響かある家の土台が削られていた。

 レスキューが出動、消防も対応に当たっていた。


 すると、遂に家が傾き始め、倒れていく。直ぐ下の家におおかぶさる様にくずれてしまった。当然、下の家もろとも倒壊した。


 (雪村、家が倒壊した。また正夢になったね。)


 (バイト仲間に聞いたよ。昨日の雨のせいで地盤が緩くなってて、崩れたらしい。)


 (雪村の夢は確実。次は何日?)


 (今月はもう無いよ。10月に入ってから。)


 (りょ。またノート見にそっち行くからさー。)


 (あぁ分かった。じゃ、また。)


 2人のいつものLINEだった。他愛も無い事のやり取りが主な内容なのだった。


雪村は、その後もいくつか夢の内容をノートに書き留めている。


 そして、9月末日。

 雪村はある夢を見てしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る