第二章第一話〜第六話

第一話


 「もしもし、代わりました。学園祭担当で2年A組担任の磯山いそやまと言います。……はい。……キャンセルですか……。はい。あ、いえいえ。代わり何てとんでもありません。スケジュールが合わなければ仕方がないですから。……え⁉︎あの芸人の方に来て頂けるんですか?……はい。こちらは構いません。楽屋がくやといっても教室ですが、準備は出来ていますので。……はい、はい。……はい、では明日はその様に致します。ありがとうございます。はい、では明日。」


 芸能事務所Sから学校への電話だった。

学園祭実行委員会顧問こもんの磯山先生が連絡を取り合った。


 サプライズ出演のタレントは、同じ事務所の芸人に変更になったが、サプライズの講堂こうどうイベントは変更無かった。



 そして場面は変わって、雪村の部屋。

明日があの日だからか、凛が学校帰りに寄っている。


 「雪村、いよいよ明日だよ。さてどっちが起こる?それとも両方とも?」

 

 「俺には判断出来ないなぁ。でも、どっちも起こる様な気がするよ。明日は予告メールが来る前に学校行く?」


 「私。明日、7時前に職員室に来てる先生に伝えようかなぁ……。雪村、一緒に来て。」


 「朝早いってー。起きれないよぅ。」


 「じゃ私1人で職員室で張ってる。雪村は朝起きたら直ぐ学校来てよ。じゃ、帰るね。」


 

 翌朝……。

 凛は雪村に話した通り、早く起きてから学校にやって来ていた。

もちろん職員室に1番に来る先生に予告メールの話をするつもりだった。

 

 時刻はAM6:15。

 学校の正門から入った付近は、生徒で作る露店ろてんが並び、すでに一部の生徒は準備に余念がない。


 講堂イベントの開始は、AM9:30〜とプログラムに書いてある。


凛はプログラムを鞄にしまうと、職員室の前を歩き出す。

2ヶ所有る入口を行ったり来たり。いくら学園祭当日とはいえ、先生が出勤するには早過ぎる……と、凛は思った。

 

 (爆破予告ってのはイタズラだよね……。余計な事しないで雪村みたいに静観してた方がいいのかなぁ……。)


 結局、凛は学校を出て雪村のアパートに足を向けた。



第二話


 なるべく音を立てない様に、ドアの鍵を開ける凛。


 別に時間的にも、普通に鍵を開けて中へ入ればいいのだが、もう少し寝かせておこうという凛の優しさだった。


 ……のだが、凛の優しさは無に終わった……。


 「凛、おはよう。」

歯磨きしながら、入ってくる凛を迎える雪村。

 

 「なーんだ起きてんじゃん。せっかく起こさない様に入って来たのにさっ。おはよ、雪村。」


 「凛が学校行って職員室の前に張ってるって言うから、俺も少しは早く行かなきゃと思って……。」

顔をきながら部屋に戻ってきた雪村。


 「爆破予告なんてイタズラだろうし、何か余計なお世話的な気持ちになっちゃってさ。雪村みたいに静観してようかなって。」

 

 「俺は、静観も何も、起こったら起こったでいいと思ってるよ。……でも、この間起こった北海道の地震は少し考えさせられるね。……例えば、大勢の人の命に関わるなら、知らせなきゃ、とかさ……。」


 「そんな事言ったら爆破予告だって同じじゃん。」


 「あぁ、そうか……。SNSに呟いても、結局はからかわれて終わり。でも実際に起こった……。何のリツイートも無し。……あれこれ気を使ったところで誰も聞く耳持たず。」


 「雪村!私は信じるよって言ったでしょ!」


 「じゃあ凛は何で学校から戻った?やっぱどうでもいいと思ったからじゃない?」


 「確かに余計なお世話かなとは思った。……まだ雪村の正夢を信じきってないのかも……ごめん。」


 「謝る事ないって。今日だって、どうなる事やらって感じなんだしさ。」


 「難しいね。静観かどこかに知らせるか。雪村がクラスの友達に聞いた気持ちが分かる。ノートの内容は必ず起こるのも分かる。……今日、2つの夢が同じ日に重なってる。でもこのまま静観するよ。」


 時刻はAM7:00になろうとしていた。


 「凛、7時だ。学校に行こ。確認しなきゃ。」


 雪村と凛は、学校に向かった。



第三話


 学校に着くと、真っ先に職員室に向かう2人。


 学園祭顧問の磯山先生が出勤していて、自分の机に向かっている。


 職員室のドアをノックするなり開ける凛。磯山先生と目が合ってしまう2人。


 雪村があわてて先生に話しかける。

 「お、おはようございます先生。あの、3年A組の伊丹です。」

 「おはようございます。3年B組新川です。」


 「おはよう。3年生がこんなに朝早くどうしたの?クラスの出し物も、外の露店も3年生には負担にならない様運営するのが恒例だから、もっと遅くに登校してかまわないのよ。」


 「あ、いえ、その……。学校宛に、変なメール、不審なメール来ませんでしたか?」

 雪村は凛をおさえる様に慌てて尋ねた。


 「メール?学校宛に?……特にメールは入ってなかったわよ。何か有ったの?」

怪訝けげんな表情の磯山先生。雪村は更に慌てて凛を抑えながら、

 「あ、いえ。何でもありません。最近、変なツイートが多くて、それで気になってて……。」


言い訳っぽいが言い訳になっていない雪村。


凛が口を開いた。

「あ、磯山先生。話は違うんですが、講堂イベントの件、実行委員の後輩に聞きました。サプライズの出し物とか……。」


「ちょっとー。それはホントにサプライズの企画なのにぃ……。全くしょうがないわねぇ……。でも、サプライズは実行するのよ。」


「タレントさんが来るとかって話でしたが。ホントなんですね。」


「それが昨日、芸能事務所から電話が来てね。予定のタレントさんのスケジュールが合わなくて、芸人さんが来る事になったの。でも、お二人さんには誰とは話しませんよ。イベントまでのお楽しみにしてね。」


「朝早くから磯山先生も大変ですね。頑張ってください。俺達もイベント見に行きますから、じゃ、これで失礼しますっ。」


雪村は凛を引っ張り、職員室を出た。


 「凛、メールは来てない。って事は夢の内容は起こらなかったって事になる……。」


 「雪村、一旦部屋に戻ろうよ。それから考える。」


 講堂イベントの夢の方は現実になった。しかし、予告メールの夢の方は来なかった……と言う事だが……。


 凛は歩きながら考えていた。雪村のノートを信じたが、今日の結果に動揺している。


 「凛、先に部屋に行ってて。俺、コンビニ行ってくる。」


 「雪村、朝ご飯だったら作るから、食材買ってきて。」


 「分かったー。」


 部屋に向かう凛と、コンビニに向かう雪村が交差点で分かれた。



第四話


 雪村の部屋に戻って、ベッドにもたれて考えている凛。

 (今日の2つの夢の内、1つは起こらなかった事になるけど、どうしてかな?どっちも年まで書き留めてあるのに……)


 ノートを開いて、にらめっこ状態の凛。

(年まで書かれてるんだから、どっちも信憑性は有ったはず。……なのに何で?同じ日のAM7:00とAM9:30……。)


 コンビニで買い物して戻って来た雪村。

凛の表情に感想を述べる。

 「どしたの?凛。そんなおっかない顔して。途中何か有った?」


 「違う。ノート見て考えてた。」


 「やっぱりさ、俺の思ってた通り、飛び越したから片方は起こらなかったんじゃないかなぁ……。」


 「この赤いバッテンの間のヤツと同じなのかな?……年の記入が無いけど、月日は同じ。時間がずれて、片方の夢が飛び越した。今日みたいに。」


 「俺はそうとしか思えないんだけど、凛はどう思う?」


 凛はしばらくノートを見て考えていた。


 結果がどうあれ、起こるであろう出来事が、詳細に掴めているだけでも凄い事だ。


 「雪村、同じ日にちの夢。これって別々に見てるんでしょ?」


 「うん、そう。凛とノートをまとめるまでは気にしてなかったんだ。でも、日にちまで同じ夢は少ないよね。残りは単独のばっかで。」


 「そだね、ほとんどが年まで記入されてる。年が無いのはー……

数えたら少ないよ。」


 「年が書かれて無いって言うけど、年を分からせる様な話の流れの夢も有るんだ。それはそれで現実に起こってるよ、凛。」


 「今日の2つの夢は、7時と9時半。9時半の出来事が前日に起こってしまい、それによって7時のは飛ばされたって事でいいのかな。雪村はそう感じてるんでしょ?」


 「そうだと思うよ。今日はそれで決着が付く。あとはこの先新たに見た夢が同じ年月日のだったりするかもだし。年が分からなくても起こるものは起こる。」


 約6年の中で書き留められた夢はノート3冊。730の夢が書かれていた。

雪村は、3日に1度は夢を見てはノートに書いていた事になる。


最初に凛とノートまとめをしてからも、3回追加(?)の夢が有った。その都度年月日を照らし合わせて、並び替えている。


「来月7月末までは何も無い。それまで落ち着いてて良いって事かな雪村?」


「うん。次のは、2035年7月29日。台風通過と、小貝川こかいがわ氾濫はんらん。時間が書いてない……。」


「時間は、29日近くになれば分かってくるんじゃない?」


「そうだね。もう夏休みに入ってるし、時間有るから、ニュースを見てれば分かるだろうね。」


 「雪村の夢って現実的過ぎない?何で地元の川が氾濫する夢なんか見るかなぁ……。」


 「仕方ないよ。見たんだから。それは地元も何も関係無いよ。そもそも身近な夢のが多いと思う。」


 「確かに雪村の言う通り。赤いバッテンの夢を読んでれば地元中心なのが良く分かるって。」


 「凛は大学進学するんでしょ?俺は進学する余裕は無いから就職だけど、夏休み、受験勉強はいいの?」


 「私、大学は行かないと思う。姉さんを見てると行っても無駄な気がして……。将来有望なハイスペック男子探しに、大学行ってる様な姉みたいにはなりたくない。」


 「言っとくけど、俺はハイスペック男子にはなれない。凛と一緒にいて楽しいけど、俺の将来は当てにならないよ。」


 「はいはい。それは分かってる。雪村みたいにそばで見守ってくれてるってのが1番居心地が良くて、それで付き合ってるんだし。よく同棲どうせいしてるの?とか聞かれるけど、それも無い。」


 「居心地ねー。俺と居て居心地が良いなら、それは凛の勝手だし、俺もバイトで居ない時有ったりしてすれ違うけど、それはそれでTVドラマみたいで良いなとか思ったりして……。」


 「えー、夢ノートの話が、2人でこくり合いっこしてるみたいになってきてるんだけどー。」


 「ごめんごめん。俺が大学進学の話したから。……さて、朝ご飯、サンドイッチとおにぎり、どっちにする?」


 「だから食材って言ったじゃん。料理すれば安く済むのに。」

 「広いキッチンなら良いけど、朝っぱらから料理ってのはどうなの?大変じゃん?」


 「私に気を使ってくれてるのか、それとも気まぐれなのか……。しょっちゅう作らされてるのは私ですがー……何か問題ありましたかー?」


 「凛らしい意見。そこが好きなんだけどね。ありがとう。」


 あ、2人、距離が近くなったと思ったら……Kiss……。

まぁ、この2人の距離感では当たり前っちゃー当たり前なのだが。それに、もう、1度や2度ではなくなっている。



第五話


 学園祭が終わって5日。今日6月12日に新たな夢の追加が有った。7月29日の前の事案になる。


 夢の内容はこうだった。

(2035年6月14日。ある大企業の株が大暴落だいぼうらく。13日付けで多額の取引を行ったぼう芸能人。暴落のショックで自殺。)と書き留めてある。


 新しいノートに、見た夢を書き留める。また並び替えるのは面倒なので、日付を確認して、割り込む夢がある時にチェックを入れた。今回見た夢は割り込みどころか、直近の夢に該当する。

 

 雪村は、登校前に凛にLINEを入れておいた。


 (凛、14日の夢を見た。これが日付が1番近い。どう思う?)


 (直近の夢って事かぁ。学校で話聞くね。)


 (りょ)


 高校の門を入った辺りで凛が後ろから声を掛けてきた。


 「雪村―。おはよー。」


 「凛。おはよ、年月日が分かる夢だった。どう思う?」


 「どんな内容だったの?」


 「明日付けで、多額の株取引をする芸能人のTなんだけど、明後日になって、買った銘柄が大暴落するんだ。それにショックを受けて自殺する。」


 「Tって芸能人、資産運用の本出してたりするよね。豪邸購入の話題もある金の亡者もうじゃでしょ?。私ら高校生が明日の取引を中止させるなんて出来ないでしょ。」


 「じゃあ、またSNSに呟いとくよ。どうせまともなリツイートは無いだろうけどね。」


 雪村は、北海道の時と同じ様にSNSで呟いた。

 芸能人Tと同じ銘柄に焦点を合わせ、同じく明日の取引を予定している人からひどいリツイートが返ってくる。


 数時間で100人近いリツイートが来た。その内容から、おそらくは明日の株取引を考えている人達だろう。銘柄まで出さないものの、明日の取引をにおわせる様なリツイートも有った。


 株取引が行われた13日晩。バイトから帰ってきた雪村。ベッドに寄りかかりながらスマホを手にする。


 凛からのLINEは無かった。SNSのリツイートはもう入っていない。雪村は深くため息をついた。


 「どれだけの人が取引してようと俺には関係無い。いつもの事だし気にする事じゃない……。」



 翌日14日夕方のTVニュース……。

「……タレントで俳優のTさんが、8階の自宅マンションベランダから飛び降り、自殺しました。駆けつけた救急隊の話によると、搬送時はんそうじには既に心肺停止状態だったとの事です。詳しい情報が入り次第お伝えしていきます。えー、続きまして、この話題……。」


 TVを見ていた凛。

「やっぱり起こった。雪村の年まで分かる夢は正夢になるんだ。……雪村まだバイトだろうな……。LINEで教えとこ。」

 そう呟くと、雪村にLINEを送った。


 (割り込みの夢、正夢になった。T自殺報道でTVの臨時ニュース凄い事になってる。)


 当然バイト中の雪村だったので既読にはならなかった。



第六話


 バイトが終わって、凛からのLINEの受信を見た雪村。内容を確認した。

 

 (また起こっちゃったんだ……。何とも複雑な心境。)

 (バイト終わってこれから帰る。)


 (おつ。夕方のニュース番組は大変な事になってたよ。)

 (帰り、気を付けて。)


 (戻ったらTVとネット、確認するよ。)


 アパートに帰ってきた雪村は、自転車置き場に自転車を急いで置くと、部屋に小走りに戻った。


 ベッドに寄りかかり、TVを点けて、国営放送のニュースを映す。別の内容のニュース報道を横目で見ながら、スマホのニュースアプリを開いた。


 「元々暴落の気配が有った銘柄だった?芸能人Tは、それを買わされたのかな?全財産を投じたらしいのかぁ……。SNSでもトレンド1位だし。大騒ぎだね。夕方の臨時ニュースが想像つくよ。」


 呟きながら凛にLINEを送った。


 (アパートに戻って確認した。可哀想な話だけど、夢と同じ事になってる。)


 (今はTVよりネットが騒がしい。)


 (うん。SNSのトレンド1位になってる。)


 (Tに興味は無いから、私には関係無い。深く考え過ぎない様にしとく。)


 (あぁ、凛の言う通り。気にしてたら頭おかしくなるって。)


 (7月末までに何度か夢見るんだろうね雪村は。)


 (分からない。見ない時は全然見ないから。)


 (ふうん、そうなんだ。)


 (やっぱり凛に話さない方が良かったかなとか、最近思う。ノートの内容を気にしないでいた方がいいよ。)


 (別に気にしないから大丈夫。でもノートのチェックはするよ。)


 (うん、チェックだけね。凛が考え過ぎない程度でいいよ。大した出来事ではないんだしさ。)

 (今日はもう風呂入って寝るー。おやすみぃ。)


 (うん、おやすみ。)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る