6話 規格外
『『『『『グガアアァッ……!』』』』』
ウォルテム山の山腹へ向かう途中、俺たちに襲いかかってきたワーウルフの群れを、剣士グロリアが物凄い勢いでなぎ倒していく。
「凄いっ、凄いぞっ!」
グロリアが感動した様子で叫ぶのを見てもわかるように、彼女の動きはそれまでとは別次元だった。
俺のアドバイスのおかげもあるかもしれないが、ワドルの最適化された支援を受けた影響のほうが大きいはずだ。
『ガッ!?』
『ゴッ!』
『ゲッ!?』
「うぉおっ! やべえ、はかどるっ! はかどるぜえっ!」
狩人のガムランの弓矢もテンポよく放たれ、そのたびにワーウルフの額に面白いように命中していった。
正直、俺も驚いている。まさか、ここまで劇的に変化するとは……。前のパーティーでは渋々聞いてくれることはあったが、変化速度は緩やかだった。これは助言を積極的に求めてくる姿勢と決して無関係じゃないだろう。
「いやぁ、モンドさん、あなたのおかげで僕たちは最高の気分で戦えますよ!」
「い、いや、俺の助力なんて微細なもんだよ。ほとんどはグロリアたちの力だから……」
興奮した様子で白魔導士のワドルが声を弾ませている。
彼もそうだが、グロリアもガムランも凄く楽しそうに戦ってるので、見ていてつい口元が緩んでしまう。
蓋を開けてみたら、怖いくらい良いパーティーだった……って、追放されたばかりだっていうのに俺も単純なやつだな。
こんな優良パーティーがどうしてG級まで落ちたのかが不可解すぎるし、もう少し見極めないと。完全に信用するのはそれからでも遅くない……。
お、モンスターが俺の近くに複数、同時に発生する気配がする。よーし、俺もはりきってやってみるか。
『『『オオンッ!』』』
まもなく三匹のワーウルフが周囲に現れると、立て続けに飛び掛かってきた。凄い跳躍力だ。
「「「モンドッ!?」」」
「大丈夫だ」
俺は地魔法で周囲の木々の枝を一斉に伸ばし始める。
『『『グゲッ!?』』』
まもなく、三匹のワーウルフが魔法の枝で頭を強打し、仲良く落ちてきたところで、氷魔法で地面に作っておいた氷柱によって串刺しになった。
ワドルのおかげで魔力が向上してるから、俺にしては少々派手な倒し方を披露することができたってわけだ。
それにしても、なんかお腹が空いてきたな。串刺しを見たせいもあるだろうが、気付けば日が暮れ始めてるし、当然か……。
「「「「――ワハハッ!」」」」
俺たちは木々を切り倒して開けた場所を作り、そこでテントを張ってからみんなと火を囲んで夕食を取ることにした。
ちなみにこのテント、見た目は小さいが中は広いという魔道具だから、仮に外からモンスターに襲われてもワンテンポ間を置けるので安心なんだ。
「うぃー……モンド、貴様の戦い方はいくらなんでも凄すぎだ!」
「まったくだぜ……おえっぷ……モンドなら、ソロでも充分やれるんじゃねえの?」
「正直、モンドさんのような人が襲ってきたらと思うとゾッとしますよ……」
「いやいや、みんなも凄かったし……」
周囲はすっかり暗くなったが、薪が照らし出すグロリアたちの顔は赤く染まっていて、機嫌が良さそうな表情も相俟って一際明るさを放っていた。
酒が少々入ってるとはいえ、ソロでやれるだなんていくらなんでも褒めすぎだ。正直、考えたこともなかった。
お前の魔力は最低だ、ゴミだ、カスだ――周りからそんなことばかり言われてきた黒魔導士が、たった一人でやろうなんて思うはずもない。
今こうして褒められているのは、自分の魔力が極小な分、どうすればパーティーで役に立てるか極限まで考えてきた成果なのかもしれないな。
「なあ、グロリア……」
「ん、なんだ、ガムラン? 酒ならもうないぞ? 私がぜーんぶ飲んでしまったからな。ハハハッ!」
「いや、ちげーよ! この依頼が終わったらよ、モンドを正式なメンバーとしてパーティーに迎え入れるってのはどうだ?」
「え……」
ガムランがとんでもないことを切り出した。正式なメンバーって……。いや、そりゃみんないい人だし嬉しいんだが、まだ心の準備が……。
「……そ、それは……ダ、ダメだ!」
「……」
リーダーのグロリアは、若干間があったがしっかり否定してきた。まあそりゃそうだろう。俺みたいな素性のわからないやつをいきなり正式メンバーに加えるのはためらうはずだ。
「というわけだ、私はもう寝る! 貴様ら、おやすみ!」
グロリアが地べたで大の字になったかと思うと、すぐにいびきをかき始めた。
え、もう寝ちゃったのか。しかもテントにも入らずにこんな場所で。ヤバすぎるくらい豪快な人だな……。
「本当は、リーダーが一番モンドさんを加入させたいんだと思いますよ」
「え……?」
ワドルが意外なことをさらっと言ってのける。
「俺もワドルに同意だ。グロリアのやつ、明らかにモンドを気に入ってるくせに、相変わらず素直じゃねえなあ」
「ガムランまで……。なんで二人とも、そんなことがわかる……?」
「ちらちらとモンドさんのほうに熱い視線を向けてたんですよ、リーダーは」
「そうそう。こいつは強いやつが大好きだからな。それでモンドに興味津々なんだ」
「……で、でも、正式なパーティーに加えるつもりはないみたいだし、ただの誤解じゃ……?」
俺の言葉に対し、ガムランとワドルがいかにも意味ありげに神妙な顔を見合わせた。何か深い理由でもありそうだな。
「どうする? ワドル、例の件、話してもいいよな……?」
「まあいいんじゃないかと思いますよ。モンドさんには今まで色んなことをアドバイスしてもらって、有意義な時間を過ごさせてもらっているわけですから」
そのあと、俺はガムランとワドルの二人から例の件について聞くことになるのだった……。
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