5話 助言
ロイヤル平原からベグリムの都に戻ってきた俺と【深紅の絆】パーティーは、依頼を受けるべくその足で冒険者ギルドへと向かうことになった。
まもなく目的地に到着したわけだが、特に依頼スペースは恐ろしいほどの賑わいを見せていて、どこを見ても冒険者の姿があって足の踏み場もないくらいだった。
依頼については、最下級のG級パーティーであっても高ランクのものを受けられるようになっている。
「――よしっ、私はこのB級の依頼を受けようと思うのだが、貴様らはどう思うだろうか!?」
「ん-、却下だ、ちとランクが高い」
「ダメですね。僕たちは一回も失敗できない状況なんですよ」
「そ、そうか。ならばやめておくか……」
「……」
リーダーのグロリアが、ガムランとワドルの意見を聞いてあっさり引き下がったので、俺は驚いていた。グロリアたちの実力からすれば、B級でもやれないことはないと思っていただけに。
それに彼女の普段の言動から、もっと強引なタイプかと思ってたんだがどうやらそうじゃないらしい。むしろみんなの意見に耳を傾けて慎重に決めるタイプみたいだ。
これでどうしてG級まで降格したのか不思議に思えてくる。口は悪いが、素行だってそこまで悪いようには見えないし……。
「うーむ……それならば、これだったらどうだ!」
「「「……」」」
次にグロリアがズバッと指差したのはC級の依頼だった。
何々……これから五日以内に、ウォルテム山の中腹付近に発生するコカトリスを討伐してほしいというものだ。
馬車がよく通る道に出没して人を襲って荷物を荒らすらしいし、定期的にこういう依頼が発生するんだ。
倒したことを証明する品としては、コカトリスの爪や翼の一部等だとか。なんの用途に使うか不明だが、俺の知り合いの道具屋が珍獣の爪を欲しがってたし、討伐できれば一石二鳥だろう。
早速俺たちは食料やテント等、準備を整えたあと、馬車でウォルテム山の麓まで向かうことになったわけだが、その間グロリアたちが挙ってアドバイスを求めてきたので正直びっくりしていた。
以前のパーティーではこっちから助言するようなことはあったが、求められることはなかったからな。戦闘勘にはそこそこ自信があるので、喜んで教えることにした。
「――つ、つまり、私の剣術は、斬る瞬間に少し感情を抑えるだけで見違えるのか!」
「あぁ、グロリアの動きはかなり力みがあるように見えたから」
「なるほど……」
本当は無心になるのが一番なんだが、いきなりそこまでやらせるのは難しいと思ったんだ。
何故俺みたいな黒魔導士が専門外の剣術についてアドバイスできるのかっていうと、魔力が低い分、パーティーに貢献するために普段から周りをよく観察することが多かったから、それでなんとなくだがほかの分野のこともわかるようになったんだ。
「――適当に狙う!? そんなのありえるのかよ?」
「ガムランの場合、むしろ今まで真剣にやりすぎてたんじゃないかな」
「た、確かにそうかもしれねえ。ほかの部分が適当なだけに……」
既に当てる技術が身についてるだけに、彼についても気持ちの部分が大きいと感じた。元所属パーティーに狩人はいなかったが、狩場で戦ってるところを見かけることはよくあったからな。
「――ご、ごっそり捨てるんですか……!?」
「あぁ、俺がワドルにアドバイスするなら、それしかないかと……」
ワドルの白魔導士としての技術は相当なもので、この中で一番といってもいい。そんな彼に対する助言は、まとめて補助魔法をかける際に、色々省いたほうがいいということくらいだ。
「グロリアの身体能力UP、ガムランの集中力UP、ワドルと俺の魔力UP――補助魔法はこの3点に絞って、さらに維持力を減らしてもらえれば、詠唱スピードも上がるし効果も強くなるかと」
「で、でも、それだとイレギュラーに対応し辛くますよね……」
ワドルの言うイレギュラーとは、本来なら出るはずのないモンスターが出てきたり、ほかのパーティーが襲ってきたり等、予測不能な事態が起こることだ。確かに色々な補助魔法を一度にかけておいたほうが、様々な事件に対処しやすくなる。
「言ってることはわかるが、それは稀なことだ。もしそういうことが起きても俺が対応するから」
「……わ、わかりました……」
ワドルはまだ何か言いたそうだったが、俺のアドバイスを受け入れてくれた様子。前のパーティーでも、やり方を変えたほうがいいと何度か助言したが、あまり受け入れてはくれなかっただけに、こういうところでも差を凄く感じる。
やがて麓に到着した【深紅の絆】パーティーと俺は、うだるような暑さの中、中腹を目指して山を登り始める。
ここから先はコカトリスがいつ現れてもおかしくないってことで、馬車での移動はここまでなんだ。コカトリスの咆哮を聞いた馬は、恐怖心から激しく暴れるそうだからな。
徒歩だと中腹までは一日ほどかかるとのことだが、コカトリス討伐の時間を含めても期限の五日以内にはカタがつくはずだ。
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