4話 腕試し
俺と【深紅の絆】パーティーはお互いの力量を見せ合うことになり、そのために都から少し離れたロイヤル平原まで来ていた。
この場所はただ広いだけではなく、雑魚モンスターのスライムやゴブリン、ビッグマウスがよく単体で発生するので、冒険者にとっては現在の力量を試せるもってこいの場所なんだ。
ちなみに、ここに来るまでにリーダーのグロリアから敬語を使うのはやめてほしいと言われたのでそうすることに。敬語だとメンバーのワドルとキャラが被っててややこしいからなんだそうだ。
「――では……まず私から行かせてもらう! はああぁぁっ!」
『ギギッ!?』
発生したばかりのゴブリンに対し、グロリアが猛然と突っ込みつつ剣を振るうも、動きに稚拙さが目立つためにあっさりかわされてしまっている。
だが、常に体全体で斬りかかってるところにセンスを感じるし、一発の威力が尋常じゃなく高そうだ。
G級という、超底辺パーティー所属の剣士とは思えないぞ、これは。元所属パーティー【風の紋章】の剣士ゴートより明らかに素質は上だ……。
「メスガキ、やたらと空振りしてるが、敵は空気じゃなくてゴブリンだぞ!」
「だ、黙らんか、クソじじい! ゴブリンの次は貴様の首を刎ねてやるからな!」
「ケッ、その前に自分の心配でもしてやがれってんだ!」
狩人のガムランが唾を吐きつつ、弓を構えて少し離れた場所を歩くスライムに狙いを定めたわけだが、台詞とは裏腹に慎重なのか中々撃とうとしない。
『――プギュッ!?』
「いっちょあがりっ!」
それでも、しばらく経ってから一発で倒してみせたのでさすがだ。
スライムは体の中心にある小さな青い心臓を砕かないと何度も再生するので倒せないわけだが、見事にファーストアタックで射抜いている。
雑魚モンスター相手とはいえ、底辺パーティーにいる狩人の腕とは到底思えない。
「まったくもう……グロリアさんもガムランさんも、焦らずにまずは僕の補助魔法を受けてくださいよ!」
「「あっ……」」
確かに、呆れ顔をした白魔導士ワドルの言う通りだ。バフ要員がいる状況なら、まず支援を受けて戦うのがパーティーの基本だからな。
ただ、未だにゴブリンを倒せてないグロリアを見てもわかるように、バフを受けてるはずなのにほとんど何も変わってない。
それでも、よく見ると身体能力や集中力だけでなく、物理と魔法の防御力までも微妙に向上させているのが見て取れる。
こんな平和な場所でも強いモンスターが発生することは稀にあり、そんな不測の事態に備えてか、これだけの補助を幾つも、しかも二人に対して同時にかけたわけだ。
バフの威力は弱いが、維持力に関しては高いのが見て取れるし、上級パーティーにいてもおかしくない器用さだと思えた。
「――はああぁぁっ!」
『グガッ!』
「はぁ、はぁ……やっとか! すばしっこいゴブリンめえぇ……」
グロリアの一撃によってゴブリンの首がようやく飛び、【深紅の絆】の腕試しが終わった。よし、今度は俺の番だな。
「行け……!」
俺は掌の上に小さな火球を作り出し、何もないはずの場所に投げてやる。
すると、直後に投げた場所からビッグマウスが発生するのがわかった。そこに何かが生じる予感がしたんだ。
『モッ……!? モギュウウウゥッ!』
この世に生まれ落ちてすぐ顔に火傷を負ってしまったビッグマウスが、怒り狂った様子でこっちに突進してくる。
俺は黒魔導士なだけに、ここまで威力が弱いと周りからは手加減したように見えるだろうが、実はこれが精一杯なんだ。
『ウギャッ!?』
続けて詠唱しておいた地魔法が発動し、ビッグマウスが目前まで迫ってきたタイミングでその頭上に小さめの岩が降ってくる。
致命傷にはいたらなかったが、立ち止まらせるには充分な効果だった。
これはただの岩に見えるが、れっきとした魔法の岩だ。小さくても物理、精神ともにダメージを受けるため、普通の岩が落ちてくるよりも効き目がある。
俺は風魔法で跳躍するとともに、氷魔法で生み出した
『モギャアアアァッ!』
絶命するビッグマウス。この間、およそ1.5秒。これが戦闘勘というやつで、どんな場面であっても臨機応変な戦い方やアドバイスができる。
ただ、弱点もある。大魔法的な派手さがまったくないことだ。つまり、平凡どころか雑魚の黒魔導士だと思われる可能性もあるわけで……。
「モ、モンド……貴様ああぁぁっ……!」
「……」
血相を変えた【深紅の絆】のリーダー、グロリアから俺は詰め寄られる羽目になった。
この様子だと、俺の腕がしょぼすぎるから激怒してる感じか。あーあ、やっぱりこれじゃ認めてもらえないよな。魔力の低さを補って余る程度には役立てる自信があるんだが……。
結成当時みんな弱かった元所属パーティーと違い、グロリアたちは粗さがあるもののそこそこ実力者なため、俺に対して物足りなく見えたんだろう。素行さえよければG級まで降格しなかったはずだから。
「期待に添えられなくて申し訳ない。そっちの能力については申し分なかったから、すぐに良い仲間が見つかるはずだ。健闘を祈る」
俺はそう言い残し、自ら立ち去ることにした。磨けば光る部分も多いと感じただけに名残惜しいが仕方ない。
「いや、待て、モンド、何を言ってる! 私は感動しただけだ。貴様は素晴らしかったぞ……!」
「え……?」
「魔力は低かったが、あの動きは只者ではなかった! 寄生虫なんて呼ばれてたのが信じられん……。さすがA級パーティーにいた黒魔導士なだけある! なあ、ガムラン、ワドル、貴様らもそう思うだろう!?」
「確かになぁ。地味に見えるけど、やってることはどう考えても尋常じゃなかった。こんな達人を追放するとかありえねえだろ……」
「僕も同感です。方向性は意外ですが、これほどまでに優れた黒魔導士がいるとは……」
「……」
まさか認めてくれるとは。しかしこの大仰な褒め方は、いくらなんでも買い被りすぎだと思うが……。
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