3話 初対面
翌日、俺は安ホテルをあとにすると、懐中時計を握りしめて冒険者ギルドへと向かっていた。
今日の正午に、ギルドのパーティー掲示板で【深紅の絆】パーティーと待ち合わせすることになってるんだ。
どんなパーティーなのか楽しみだが、その反面問題行動が多い連中と聞くし、果たして上手くやっていけるかどうか不安もあった。
目印になるのは、そのパーティー名が示すように赤い装具らしい。
所持金もほぼなくなってしまったし、おそらくこれが最後のチャンスなんじゃないかな。臨時メンバーとして、一つの依頼に一度だけパーティーに同行するっていうスタンダードな契約内容だ。
もしダメだったら大人しく故郷の村に帰って仕事を探すか、都にいる知り合いの道具屋でも手伝おうかと思っている。いくら戦闘勘があるといっても、俺の魔力は黒魔導士の中じゃ最弱といってもいいし、ソロでやれることには限界があるだろうから。
「――あ……」
血気盛んな冒険者たちでごった返す中、赤い装具という目印を頼りに探していると、それらしいものを身に着けたパーティーがいるのがわかった。
眼帯をつけた長髪の少女、バンダナを巻いた髭面の厳つい顔の男、スカーフをつけた細目の青年の三人組だ。
いずれも赤い装具だし、三人って聞いてたからほぼ間違いない。問題行動が多いっていうから、挨拶代わりに遅刻してくるんじゃないかって思ってたが、約束の時間よりずっと早く来ていた。意外と真面目な連中なんだろうか? 早速話しかけてみよう。
「あの、【深紅の絆】の方々ですよね……?」
「ん、そうだが……って、まさか貴様が例のモンドとかいう黒魔導士か!?」
やや距離を置いて話しかけると、飛び掛かるように眼帯の少女が迫ってきて面食らう。初対面の人間に向かって貴様呼ばわりって、なんとも変わってるな……。
「ど、どうも、臨時メンバーとして入ることになった黒魔導士のモンドっていいます。よろしく」
「やはりか! 私は【深紅の絆】のリーダー、剣士のグロリアと申す者! 歓迎するぞ! ほらほら、どうした、貴様らも早く自己紹介しないか!」
眼帯の少女に促され、バンダナの男が気まずそうに笑いながら前に出てきた。
「どうも。俺は狩人のガムラン。ご覧の通り、アホのリーダーをどうかよろしく」
「はあ!? クソじじいのくせに貴様、アホとはなんだ、アホとは!」
「こいつ、まだ50代なのに俺をじじい扱いするなとあれほど言っただろうが! わからせてやろうか、メスガキ!」
「き、貴様っ、上等だ、ぶっ殺す!」
「……」
おいおい、急に取っ組み合いの喧嘩を始めてしまった。周りの冒険者がドン引きした様子で離れていってるし、やはり悪い意味で有名パーティーっぽい……。
「まあまあ、二人とも、やめてくださいよ、本当に……」
今度はスカーフを首に巻いた気弱な感じの青年が二人を宥めたかと思うと、こちらに会釈してきた。
「モンドさん、お騒がせして申し訳ありません。えっと、僕はですね、白魔導士のワドルといって――」
「「――このおぉっ!」」
「うわっ!?」
ワドルと名乗った青年がグロリアとガムランの二人に押されて倒れてしまった。
ん、すぐに起き上がったわけだが、何かそれまでと雰囲気が全然違う。身震いするほど恐ろしい形相だ……。
「いい加減に……してくださいよ……二人とも……」
「「イ、インテリオーガ……」」
目を見開いたワドルに凄まれ、二人とも青い顔で争うのをピタリとやめてしまった。
インテリオーガか、なるほど。彼は大人しそうに見えて怒らせたら一番怖いタイプか。
「これからよろしく頼む、モンドとやら!」
「頼むぜ、モンド!」
「頼みますね、モンドさん」
「あ、あぁ、こちらこそ頼みます。それで、これからどうしましょうか?」
「そうだな……モンド、その前に一つ、私から言わせてもらう」
「はい、なんでしょう?」
「貴様の噂は聞いているぞ。A級パーティーから追放されたばかりで、その理由は実力がまったくない寄生虫、詐欺師だったからだそうだ。それは本当なのか?」
「おいグロリア、やめろって」
「そうですよ、グロリアさん。過去のことをほじくり返すのはいかがなものかと……」
「いや、ガムラン、ワドル! 臨時メンバーとはいえ背中を預ける関係になるんだから、そこははっきりすべきだろう! もう一つも依頼を失敗できない状況なんだからな! で、本当なのか?」
「……」
俺は迷ったが、正直に打ち明けることにした。噂を聞いた上で契約してくれたんだし、話がわかる人だと思ったからだ。
「追放されたのは本当ですが、嫌がらせでそういう噂を流されたってだけで、個人的には役立っていたっていう自負はあります」
「なるほど。よく話してくれた! 嫌な思いをしただろうが、これは行動をともにするゆえ、仕方ないことだ。許せ!」
「いえいえ、俺としても、そっちがG級パーティーってことで警戒してるんでお互い様ってことで」
「お、言ってくれるな、貴様ー。正直耳が痛いぞ! だが、それくらい正直に言ってくれたほうが私たちとしても気楽だ。だろう、貴様ら!?」
「ま、確かにそれは一理あるな」
「僕も同感です。それなら、お互いに失敗できない立場ですから、まずは自分たちの力量を披露し合って、それからどんな依頼を受けるか話し合って決めるべきかと」
ワドルの冷静な言葉に対し、俺たちは深々とうなずき合った。
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