巣立ち
▽▽▽
この部屋ともお別れか・・・・。
2年半、暮らしていた空虚なアパートの一室をざっと見渡した。
本当に色々あった・・・。
過去の出来事がめくるめくる頭の中で映画のダイジェストのように思い出す。
はやりその中で一番鮮明に覚えているのは、
ベットに腰掛けて、手首に刃を触れさせている時のことだ。
当時の自分には何もなかった。
何もできなかった。
どこか切なさをおぼえた。
携帯の時刻を確認すると、そろそろ立ち合いの人たちが来る。
最後にもう一度だけ部屋を見渡す。
(もう見ることはないのか・・・)
真面目は深呼吸して、心の中で感謝を述べた。
(ありがとう・・・・・・・)
♢♦︎♢
無事アパートを引き払い、公園のベンチに座り、パンを頬張りながらこれからの予定を確認する。
今日は近くの簡易ホテルで一泊して、翌日の早朝に倉庭市の新しい住居へ引っ越すことになっている。
手配は全て蒜山がやってくれた。
実はそこで初めて彼女と顔合わせになる。
顔も知らない人を全面的に信頼することは奇妙だが、それが真面目の出した答えであった。
あの悪夢との戦いで、自分にしかできないことがあると悟り、蒜山とある契約を交わした。
それは呪いと戦う、ということだ。
非現実的でまだ全てが嘘のようにも思えるが、この失った右手がそれを思い出させてくれる。
彼女は一体どんな人なのか・・・。
夏のじめりとした暑さの中、一人の男が巣立とうとしていた。
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