出会い
▽▽▽
翌日、朝早くにホテルをチェックアウトし、いくつもの電車を乗り換えて、約7時間ほど電車に揺れていた。
道中、駅を出てから3時間ほどしてから、電車賃をケチらないで特急指定席に乗っとけばよかったと後悔した。
というものの、季節は夏。駅のホームは休暇をとって地方へ旅行する人たちに溢れてごった返し、夏の暑さとその人の熱気に立ちくらみしそうになったからだ。
しかし、それも都心から離れるほど人気は少なくなり、座れなかった席にも座れるようになっていた。
ようやく足を楽にできると座席に座った途端、気が抜けてしまったのか、窓から零れるひだまりと、電車の振動によって、揺り籠に眠る赤子のように熟睡してしまった。
目が覚めると、そこは終点であった───。
窓越しに
普段海から遠い生活していたので、海を見るのは随分と久方ぶりであった。
寝ぼけ眼のまま、深く考えず、ただなんとなく電車を降りてしまっていた。
車内と外を遮る扉がゆっくり開かれ、ホームに降りると瞬く間に熱気が体中を襲う。
冷房の効いた車内で冷えた体は、外気の熱によって蒸され、額や背中から汗がじわりと滲み出した。
「ふー」
肺に溜まった熱を外に放熱するように、息を吐いた。
そして、駅のホームをキャリーバックを引きながら、通路を渡り、階段を降り、改札口を抜けると───いよいよ外へ出た。
手を額に上げて
ギラギラと照りつける太陽を阻む雲はひとつなく、地上にあまねく光が降り注いでいた。
まるでグリルされるチキンのようだ。
「あちー」
額から溢れる汗を手で拭い、ペットボトルの水を快活に飲む。
今、自分が立っている駅は海から小高い丘の上に位置し、海からのびる道路の直線上にある。
またこの道路はオレンジロードと呼ばれ、海に沈む西日がアスファルトの道を赤く染めることからそう名付けられている。
そのままオレンジロードを下っていくと、波が反射してキラキラと輝く海が広らけていく。
通り抜ける潮風の香りが、自然と高揚感に包まれ、重い足も自然の海の方へ向かっていった。
オレンジロードを下ると、大きく開けた国道に出る。その国道沿いにコンビニやレストランなど軒並みに立ち並び、横切ると海岸に沿った遊歩道が敷かれていた。
行き交う車の姿を見送りながら、信号が青になるのを待つ。
そして青になると、まるで童心に還ったかのようにはしゃぎたい気持ちを抑えて、横断歩道を渡った。
そして・・・・。
カモメの鳴き声が聞こえる。
さざなみの音が聞こえる。
海に遊びにきた子供の声が聞こえる。
太陽のみなぎる晴天の大空とその光を余すことなく浴びた青々とした海原、その蒼さに挟まれた世界が広がっていた───。
胸の奥がぐっと締め付けられるような気持ちになった。
久々に五感で感じる海を堪能しながら、気の向くままに遊歩道を歩いている。
ビーチにはチラホラと海水浴を楽しむ人たちがいた。
浮き輪で泳いでいる子供や、マリンスポーツをしている大人など、海の風物詩となっているものだ。
はやり、海に来て正解だった。
目をそっと閉じ、深く息を吸い込み、吐く───。
五感だけではだけでは足らないと言わんばかりに、細胞に神経に、魂にまで感応する。
それから道のりを進むと、数メートル先に堤防の石垣に乗り出して立ってる少女が見えた。
何やら海を覗き込むようにじっと見つめている───。
珍しい魚でも見つけたのか、不思議に思うも特に気にすることなく歩いていると───
───ドボン!!!───
その少女が海に向かって飛び降りた。
「なっ!!?」
キャリバックを置いて、急いで飛び込んだ場所まで走り、下を覗く───
「大丈夫か!!?」
幸い波は穏やかでその少女は海面からひょこっと顔を出して、笑顔でこちらに手を振っている。
そしてその手には先程は持っていなかった麦わら帽子を持っていた。
「ぷっは、ごきげんよーーー!!!」
波に煽られながら少女の透き通る声が、数メートル先の海から聞こえてくる。
「ご、ごきげんよう?」
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