第106話 おやすみの少し前
*奏太が歯磨きをしてもらったという程で、物語は始まります。
「電気、消しますよ?」
「おう。ありがと」
琴葉に歯を磨いてもらった後、奏太達はすぐに布団の方へと行った。何でも添い寝をする事になっているので、同じ布団で寝なければならないのだ。
今現在は雷は鳴っていないが、2人はそれに気づく事なく時を進める。時間的にも少し遅めだが寝るには十分なタイミングなので、濡れた事や明日の事を考えるとちょうど良いくらいだろう。
「カチッ」と電気を消した音がなれば、部屋は一気に暗闇に包まれた。
「奏太くん?どこにいますか?」
琴葉のいた電気のボタンがある場所は、奏太達が布団を敷いた所から少しだけ離れていた。琴葉は暗くなったせいで足元が見えなくなったようで、手を前に出しておそるおそると一歩を進む。
「俺はここ。琴葉、手掴んで」
「これ奏太くんの手ですか、、」
お互いに暗闇の中で手を振り回し、ようやく手を握る。細くて冷たい指先は、琴葉のものだった。
「部屋の中とはいえ暗いから足元には気をつけて。なんなら俺の背中を掴んでいいから」
「それじゃ奏太くんが転ぶ気が……」
「男は怪我した数だけ成長するから」
「出ました。奏太くんの暴論」
「嫌か?」
「いいえ。私からしたら、とても良いと思います」
落ち着いた声のトーンで奏太の耳を和ませ、そのままゆっくりと歩く。たかが数歩なので、布団の場所まではあっという間にたどり着いた。
敷き布団の上に奏太が立ち止まれば、琴葉は奏太の背中の服を掴んだまま、ジトーっと顔を見上げた。奏太の目はすぐに暗闇の中に慣れ、うっすらとだが琴葉の顔を視認できるようになる。
「どうかしたか?」
「どうかしました。」
「どうしたんだよ」
「………その、頼りになるなぁって」
「暗い所の先頭を歩くだけで頼りにされても、それはそれで困る」
「そうだけどそれだけじゃないんですよ、」
「そうなの?」
「奏太くんには分からないでしょうね!」
ベーっと、舌をちょこんと出して可愛らしい表情を浮かべる琴葉は、掴む場所を変えて奏太の裾の部分をぎゅっと握り、そっと引っ張る。
「もうっ、、早く寝ましょう?」
「そ、そうだな」
それがどこか悪戯っぽくて、年相応の女の子という印象が強く、奏太の心臓に大打撃を与えた。
「奏太くんが先に寝転んでください。私は後から寝転びます」
「………はい」
今も尚バクバク鳴り続けている心臓を抑えながらも、奏太は琴葉が言った通り、先に体を横に倒す。それにどんは意味があるのかは分からないが、順番に大した差はないだろうと楽観視して、布団に横たわった。
順番は大切だと思ったのは、その後すぐの事だった。
「奏太くん?寝転びました?」
「おーおー。寝転んだ寝転んだ」
「私も寝転びますね………あ、私が良いって言うまで目は閉じてください」
「何で」
「乙女の事情です」
「分かった。目を閉じる」
琴葉にたんたんと流されていき、奏太はすぐさま瞼を下ろす。元々視界は暗いので、目を閉じた所で大差はない。それはあくまで視野の話だが。
奏太が瞳を閉じれば、ゴソゴソと琴葉が動く音が聞こえてくる。奏太が横たわっている布団が少し動いて、琴葉も寝転ぶために動いているのだというのが伝わってくる。
視界が制限される分、聴力がいつもよりも研ぎ澄まされており、一つ一つの音を過剰に聞き取った。足か手を床につけたであろう音や、布団と浴衣が擦れる音。
それらが抵抗する事も出来ずに耳を通ってきて、健全な男子高校生の居心地を悪くさせた。
「目、開けていいですよ?」
「………開けるぞ?」
そう聞こえたので、奏太は下ろしていた瞼を上に上げた。暗闇に慣れたはずの視界は、目を閉じていたからか、ちょっとだけ暗く見える。
パチパチと瞬きを繰り返して、再び目が慣れた頃には、琴葉が何で後から寝転んだのかを理解した。
「 やっと目が合いましたね 」
奏太の顔と琴葉の顔の隙間は僅か数センチで、少しだけでも動いてみようものなら、唇と唇が触れてしまいそうな距離だった。
そこに映った琴葉の顔が、暗闇の中でも存在感を残すくらいに明るい表情だったので、奏太は全身に熱が昇るのを感じた。
(やられた……)
奏太が後に寝転んでいたら、ある程度は距離を空ける。きっと琴葉はそれを分かった上で、自分が後からと言ったのだろう。
どんな悪人でさえも心を入れ替えそうなほどに神聖さが漂っているその表情には、いくら奏太でも直視する事が出来なかった。
「びっくりしましたか?」
「そりゃな。俺は琴葉が雷が怖いって言ってたから、てっきり泣いてるのかと思った」
「そっ、そのくらいじゃ泣きませんよ。怖いけど、、」
奏太の心臓に配慮してくれたのか、琴葉は数センチだった距離をちょっとだけ広げて、慌てふためいた。一瞬ドキッとしたものの、いつもの琴葉の姿を見れば冷静さを取り戻した。
(まだ体が暑いな……)
精神的には落ち着いたが、肉体的にはまた余韻が残っていた。体は熱でもあるかのごとく熱く、冷を求めた。
「顔、赤いですよ?」
挙動不審になりつつあった奏太を観察していた琴葉は、熱の溜まった頬を冷たい手の平で覆った。
「冷たくて気持ちいい」
「え?そうですか、、、。それはありがたいですけど……。」
言葉を詰まらせた琴葉は、視線をあちこちに散らしながら、ボソッと呟く。
「そういうつもりで触ったんじゃないですよ……。」
その言葉で奏太の体にまた熱が集まったのは、言うまでもなかった。
【あとがき】
・皆様お久しぶりです。
またこの作品を毎日投稿していけたらと思っていますので、応援お願いします!!
追記:キャッチコピー変えたので、良ければ見てみてください!
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