第94話 キス未遂
「……お面、付け終わりましたよ」
「ありがと」
今度はふらつかないように、最初からしゃがんでお面をつけてもらう。奏太がつけても意味はないのだが、琴葉がつけると注目を集めてしまうので仕方ない。
「その、お面付け終わったので……キス、やり直してください」
さっきは不意な事故で唇が重なってしまったので、もう一度ちゃんとキスをして欲しいらしかった。
それが分かるように、琴葉はお面を付け終わり次第、目を瞑り始めた。長い睫毛をピクピクと動かしながら、唇を求めるような顔をする。
一切嫌がるそぶりを見せないその表情は、艶かしさがどんどん増してゆく。
「………屋台とか見てからでもいいか?」
「へ?」
「今でもいいけど、もう少ししてから、………花火の時にちゃんとしよ」
「花火の時ですか?」
「駄目か?」
奏太は土壇場に来て日和ってしまった。琴葉の表情があまりに色っぽくて愛らしいので、一度冷静にならないと自分を抑えられなくなってしまいそうだった。
今更ヘタレる必要はないのだが、折角の琴葉の要求を先延ばしにしてしまう。それも全部琴葉の事を本当に大切に思っているからか。
流れに任せて事を進めたくない、と。
「奏太くんがそういうなら、私は別にいいですけど、、、」
「ごめん」
「謝る事ではないですよ。これは私のお願いですし」
口ではそう言う琴葉だが、目の前に姿を見てみれば、少ししょんぼりとしているような気がする。
それもそのはずで、自分の彼氏に直前でキスを先延ばしにしようと言われれば、誰であっても良い思いはしない。
琴葉はよりそういう事に対して敏感なので、本当なら先延ばしになんてするものではない。
しかし、ほとんどの人が流れに任せてしまうこのタイミングで、未だに自分の意思を貫ける奏太は、琴葉の事を第一に思っているからだろう。
「別にキスするのが嫌なわけじゃないぞ。ただ、キスとかは繊細で鮮明だから、ちゃんとした所でしたいんだよ」
「………ロマンチスト」
「え?」
「奏太くんは、意外とロマンチストさんなんですね」
流れに任せるべきではなく、きちんと綺麗な形で記憶に残したい。そう考えるのはロマンチストなのだろうか。
「奏太くんとなら、いつだってキラキラしてますのに……」
「琴葉?」
「いえ、嫌がられたわけじゃないのならいいんです!屋台行きましょ!」
「お、おう」
琴葉が先頭に立って早歩きをする。また手を繋げば、琴葉が奏太を引っ張るようにして屋台の方へと向かう。
奏太と琴葉の上がった熱は、まだしばらくは冷めそうになかった。
-----あとがき-----
・今話でこんな事を言ってる2人ですが、次話でキスします。しかも花火の時じゃないです。
本当は続けて書きたかったんですけど、時間が……。お許しください。
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