第90話 祭りの浴衣
「琴葉ーどうだ?」
「もう少し待っててください」
「七瀬に変な事されたらすぐ言えよ」
「すぐ言います」
「私の信用はゼロなのかな?」
昨日は夜に星空を眺めてから、その後は特に何もなく部屋に戻った。奏太も拓哉も、部屋に戻ればこれといって話す事もなく、すぐに寝てしまった。
そして迎えた翌日、旅館で朝食をいただき、その後は近くのショップモールに行って買い物をしたりした。
友人との遊び感がとても出ており、琴葉だけでなく奏太もしっかりと楽しめた。お昼はそのままモール内で済ました。
その後も少しだけ買い物をして、荷物を置きに旅館に戻ってきた。そして今に至る。
今からは祭りに行く事になっており、琴葉が午前中からうきうきしていた。なんでも、祭りには行く事自体が初めてらしく、今日行けるのがとても楽しみなんだとか。
なんの偶然か、何故か奏太の母から色々と荷物が送られてきた。今回の奏太の荷物が多いのはそれが原因だった。
どこで入手したのか、母は女性の浴衣を奏太に送ってきていた。『奏太が彼女(琴葉ちゃん)と一緒に着られるように』と、丁寧に奏太の分まで添えられて。
折角なので琴葉に着てもらおうと話をした所、なんなく了承を得た。どうせなら奏太も一緒にとの事なので、奏太も浴衣を着る事になった。
「別にゆっくりでいいからな」
「そう言ってもらえると助かります」
浴衣などの着付けが大変なのは知っているし、そもそも奏太はこの待つ時間が嫌いではない。どんな姿で出てくるのか、それを想像していれば、時間はあっという間に過ぎていく。
一つ扉の向こうで着替えていると考えるとさらに想像がふくらんだ。
「七瀬さん上手いですね」
「でしょー」
着付けだけでなく髪型も整えるようで、そちらは七瀬に手伝ってもらっているらしい。琴葉くらい長い髪だと色々な髪型に出来るので、いつもと違う髪型には結構期待していた。
お祭りなのでポニーテールか三つ編みか、お団子ヘアーなんかも可愛らしさが出て良い。どれであれ、楽しみな事に違いはなかった。
「こんなに纏まるんですね」
「そうだよー、琴の髪っていじりがいあるよー」
「変なのにしないのなら、またやってもいいですよ?」
「本当!?」
「本当です。嘘はつきません」
部屋の中では、琴葉と七瀬が微笑ましい会話をする。外にいる奏太達に聞こえる事はないが、女性同士、かなり仲が良くなってきていた。
「さて、もう髪の毛も終わったし、見せておいで」
「………はい」
「行こっか!」
鏡で細かな部分も整え終われば、ようやく琴葉達も部屋から出る。
「お待たせ、しました」
扉を開けてすぐの所で待っていた奏太と拓哉は、琴葉と七瀬を迎え入れる。
「お、おう、、意外と早かったな」
「七瀬さんが手伝ってくれたので」
左手には巾着を持ち、左右に一本ずつある触覚のうち右側を指に巻き付けながら、奏太に上目遣いをして見せた。
「そういえばなっちゃん、俺らも浴衣あるらしい」
「えー、そうなの?もっと早く言ってよー!」
「さっき婆ちゃんから連絡きたからさ」
「でも時間がないしー」
浴衣姿で出てきた琴葉を眺めていれば、拓哉達の会話が聞こえてくる。聞こえてきた直後、琴葉はすぐに口を開いた。
「私たちは時間気にしないですよ?折角なら七瀬さんも来た方が良いと思います」
「琴がそういうなら、着よっかな〜、」
「俺もお前らに着て欲しい」
「奏太がそう言うのも珍しいし、俺らも着るか」
「そうだね!」
時間的にはまだ早い方だし、どうせなら拓哉達にも良い形で記憶に残って欲しい。それに、琴葉も七瀬と一緒に浴衣で祭りを回ってみたいはずだ。
どう転がっても、拓哉達が浴衣を着るのにはメリットしかない。
「七瀬さん、私手伝いますよ」
「いや〜、私は髪短いから1人で出来るよー」
「で、でも……」
「また今度やってもらうから、今は、ね?」
「……それなら分かりました」
自分も七瀬に手伝ってもらったからか、琴葉も七瀬の事を手伝いたかったようだ。七瀬が琴葉からの申し出を断った理由は分からないが、その表情は明らかに悪戯心が満載だった。
それを証明するかのように、七瀬は琴葉の近くに来て耳打ちをした。
「ほら、今のうちに感想聞きなよ!」
「七瀬さん!」
「逃げろー」
小声で耳打ちした声は奏太の耳には届かなかったが、琴葉の表情を見れば、ある程度は予想出来た。
七瀬と拓哉が離れて2人きりになれば、琴葉はまた触覚を指に巻き付けて、モジモジとし始めた。
「…………奏太くん、その、、どうですか?」
奏太は琴葉から感想を聞かれる前に、すでに解析し終えていた。というよりも、扉から出てきた時点でかなりインパクトを受けた。
それもそのはずで、第一に髪型が抜群に似合っていた。予想していたお団子ヘアーと呼ばれる髪型で、想像よりも遥かに似合った出来に言葉が出ない。
ピンなどで髪を纏めているのだが、それがまた普段とは違った印象をしていて良い。幼めである琴葉の顔を、さらなる可愛らしさへと高めていた。
奏太からの感想を待っている時にじっとしていられず、両手で巾着の紐を握ったり、髪を指先でいじったりする仕草が、小動物のようで見ていて癒される。
纏まった銀髪を映やすような真っ白な浴衣は、やはり清楚さがあった。白の生地に赤や青の花柄などが描かれており、こちらに明るい印象を与える。
浴衣で抑えられていてスタイルの良さは隠れているものの、恥じらう姿を見れば、隠れていようが関係なかった。
「………似合ってるし、その髪型も良いと思う。あと、、可愛い」
「っ!?………あ、ありがとうございます」
「事実だし、感謝を言われるほどでは」
一度そういう関係にあったのに、たったこれだけのやり取りで2人は照れてしまう。これが愛という物の強さなのか、それを身をもって実感した。
「奏太くんも、その、、、似合ってますよ?それに……カッコいいです、」
奏太は琴葉とは真反対の黒色の浴衣を着ており、拓哉からしつこく言われたので髪もあげていた。
『その方が絶対南沢さんも喜ぶ!』と言うので仕方なくあげたのだが、正解だったようだ。
奏太も奏太で背丈があって身長も高いので、浴衣が映えて見える。それに髪型も整っているので、雰囲気がカッコよくなるのかもしれない。
今の奏太は客観的意見はどうでも良く、自分の彼女からカッコいいと言われる事が、とても嬉しかった。
まだ旅館でこの有様なのに、祭りに行って心臓がもつのか不安になりながらも、拓哉達の帰りを待つのだった。
-----あとがき-----
・投稿遅れてすみません!!!言い訳すると、ちょっと忙しくて……。まだしばらくは投稿頻度悪いかもです。すみません。
ツインテールにしようか、お団子にしようか迷ったのは内緒……。
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