第76話 集合とワンピース
「見てあの子。めっちゃ可愛いくない?」
「モデルさんかな?」
「足細くて顔小さい…」
月日は流れ、いよいよ夏休みが始まった。夏休みが始まれば、すぐに約束していた拓哉達とのお泊まり旅行はやってきた。
期間は2泊3日と、友人間の旅行にしてはそれなりに長い。
母から送られてきた荷物や自分の着替え、その他必要そうな物を持ち、近くの駅に集合する事になっている。
琴葉と2人一緒に集合場所まで向かい、約束の時間よりも早く駅に着く。時間まで拓也達を待っていれば、チラホラと琴葉を眺める人達が視界に入った。
今の駅の中で一番目立っているのは紛れもなく琴葉だろう。
実際にそうなってしまうのは仕方ないと、誰もが頷いてしまうのが今の琴葉の格好だ。
白のオフショルダーのワンピースに、夏を感じる麦わら帽子。ただそれだけなのに、見事に着こなしている。
奏太は、かつてこれ程までに麦わら帽子が似合う人を見た事がなかった。
それにオフショルダーのワンピースを選択したのは、奏太が以前オフショルダーが好きと言ったからか。
かといって露出が抑えめなのは、彼氏としては安心出来る。
清楚さをアピールする真っ白なワンピースに、琴葉の薄水色混じりの銀髪は、華があってとても良く似合っている。
結んだりせずに下ろしているだけの髪型だが、風に靡かれて揺れる銀髪は、琴葉の周りにだけフィルターがかかっているかのようだ。
華奢な手足に雪のような微かに見えるデコルテ。そこにワンピースが加われば、琴葉のよさを際立たせるのは当たり前の事だった。
いつもは小柄な体の割に目立っている果実も、着痩せしているのか目立っていない。
「………可愛い」
素直に口から溢れてしまうほどに、奏太の心にクリーンヒットした。服装だけでなく琴葉の表情も明るくて、少し緊張しているのかあちこちを眺めている。
「あ、ありがとうございます」
琴葉が照れたような表情を見せれば、周りからは黄色い声が聞こえてきた。
「……奏太くん、いよいよですね!」
「そうだな。何度も聞くが、忘れ物はないな?」
「ありませんよ。もしあっても、奏太くんなら何とかしてくれそうですし」
琴葉が奏太に信頼を寄せてくれているのは嬉しいが、奏太にだって出来ない事はある。
琴葉が持ってきた荷物は、駅に来る前に奏太が代わりに持ったトラベルバック一つだが、替えの着替えを持って来るだけなので大荷物にはならない。
水着は七瀬と一緒に買いに行ったらしいので、準備し忘れた物はないはずだ。
それに比べて奏太は、キャリーバックを持って来ている。母からの荷物が思ったよりも多く、キャリーバッグしか入れられるものがなかったのだ。
何を持ってきたのかは琴葉のお楽しみに取っておくが、奏太的には気乗りしないものだった。
「おっ!お2人さん早いねぇ〜」
「ちょっと待って!琴やばすぎ!!何それめっちゃ可愛い」
「七瀬さんも可愛いですよ!」
集合して早々に褒め合いするのは流石女子高生と言うべきだ。男2人は外野からにこやかに微笑みを向けている。
客観的に見てみれば、琴葉も奏太以外に自分を出してきているような気がする。
学校でもそうなる未来が近いと考えると、自分だけの知る琴葉が居なくなってしまうと独占欲を曝け出す。
「奏太くん!どうですかこの子!めっちゃ可愛でしょ?」
「知ってる」
「奏太もストレートだなぁ」
「……嘘をつくのが嫌いなんだよ」
七瀬と拓哉と奏太の3人そんな会話をすれば、琴葉は恥ずかしそうに体を揺らした。
「奏太、琴の水着やばいよ?」
「あぁ、そういえば今日だったな」
「………奏太くん忘れてたんですか?」
「いや覚えてたよ」
水着姿なんて見たいに決まっている。琴葉ならどんな物でも似合うのだろうが、実物の破壊力は想像を絶する。
少し前の夕食の時に、あの時の姿を思い出してしまったが、今の方がよっぽど可愛い。
「差やばいだろうな……」
「たっくん、ちょっとお話ししようか」
「拓哉、お前はバカだよ」
拓哉は言っていた。七瀬は決して大きくないが、だからこそ良い、と。
それを本人に伝えるわけにもいかないので、こうして罰を受けているのだが。
「奏太くんは海に行くの楽しみですか?」
「そりゃな。夏といえば海だろ」
「…………じゃあ、私の水着は楽しみですか?」
首を傾げながら小動物のように麗しい瞳を奏太に向ける。撫でたくなるような衝動に一瞬我を忘れてしまいそうになるが、何とか堪える。
ここ最近琴葉の表情の攻撃力が増しているので、油断も隙もない。気を抜いてしまえば最後、一気にライフを削られる。
「………楽しみ、だ」
「そ、そうですか。なら良かったです」
人の目がたくさんある分、家よりも羞恥心を大きく擽られる。
琴葉は奏太よりも前からこれを体感しているとなると、すぐに顔を赤くするのも納得だ。
外であろうと家であろうと、琴葉の顔を赤く染めるスピードに大差はない。
「ねぇたっくん、あの2人さ」
「あぁ」
「もう付き合ってるとかのレベル超えてない?」
「だよな」
場所を気にせずイチャつく七瀬と拓哉でさえ、奏太と琴葉の関係に驚いている。今では、奏太達の方がイチャつきそうなくるいまである。
「間もなく、電車が到着します……」
駅のホームに大きく鳴り響くアナウンス。それを聞いた4人は、一つの場所に集まった。列に並んで数分待てば、4人が乗る電車はすぐにやって来た。
「行こうか、」
「はい!」
「琴葉、乗るときは危ないから気をつけろよ?」
「この後に及んで子供扱いはよしてください!」
そんな賑やかな会話をしながらも、夏休みの思い出づくりの一つであるこの旅行が、いよいよ始まった。
-----あとがき-----
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