第73話 夏の訪れ
「奏太、夏休みに俺の祖父母が経営してる旅館行かね?」
弁当を食べ終えた昼休み、拓哉からそんな誘いを受けた。日菜さんと遊園地に行った日から月日は流れ、期末テストも無事に終わった。
そうなってくれば学生達の目の前に現れたのは夏休み。その夏休みがいよいよ来週という所まで迫っていた。
「旅館ねぇ……」
「俺の友達なら金はいいって言われてるし、もちろん南沢さんも一緒に」
「なら行くか、」
「………奏太は本当に南沢さんに甘いな」
拓哉達には、付き合ったという事を知らせていた。間宮の件に対しても色々と心配してくれたので、報告するのは当たり前だった。
「そりゃ彼女だし」
「俺はてっきり、あの時家に行った時から付き合ってるんだと思ってたけどな」
「何度も言ったろ?違う、」
「ここだけの話、そん時のお前の目は優しさに溢れてたぞ」
今になってそういう事を言われるとなんだか恥ずかしいが、行動には移さなかっただけで、当時からその自覚はあった。
「………そんな事より、いつだよ」
「あー、向こうはいつでも来ていいって言ってる。奏太はいつがいいとか希望あるか?」
「俺らもお邪魔するわけだし、拓哉が決めてくれ」
お邪魔しておいて日付まで決めるというのは、流石におこがましいような気がするので、日付の設定は任せた。
奏太も夏休みにこれといって予定があるわけでもないので、いつになっても特別問題はない。琴葉に関しても聞いてみないと分からないが、おそらく予定は空いているはずだ。
「じゃあ夏休みが始まって3日後でいいか?その時にあっちで祭りとかあるらしいからさ、」
「祭りか……決定だな」
琴葉にとって友達と旅行に行く事も、祭りに行く事も初めての経験のはずだ。それを奏太が見逃すはずもない。
琴葉にこの事を報告したら、どんな表情をするのか楽しみだった。
「………いつだったか、お前に枯れてるとか言った俺が馬鹿みたいだ」
「俺は枯れてないと言った」
口文句を言いながらも、顔には笑みを浮かべる拓哉に悪い気を浮かばなかった。今の所、拓哉からの提案は全て奏太にとっては得しかないもので、本当にいいのかと疑いつつある。
「そこって星とか見えるのか?」
「星?なんで?」
「なんとなく気になっただけ、」
琴葉に星を見ようと提案したのを思い出したので、単刀直入に聞いてみた。琴葉の悲しい過去の中にある数少ない思い出の一つなので、出来れば満点の星空を見せてあげたい。
祭りと旅行という楽しい思い出の中に、星空についても刻んであげたいのだ。
「………確か、運が良ければ絶景を観れるらしい」
「そうか、」
「また南沢さん関連か?」
「………否定はしない」
「惚気てくれるねぇ〜」
「お前ら程じゃないし、俺と琴葉の関係を知ってる人も指で数えられる」
これは惚気ているわけではない。琴葉のために何か出来る事をしてあげたいだけであって、決してイチャイチャが目的ではない。
「何だよその顔は」
「いやー、別に〜」
あからさまにニマニマと笑みを浮かべる拓哉に、変わらず蹴りをいれてやる。最近では拓哉も慣れてきたのかリアクションを取らなくなってきた。
「とにかく、南沢さんにも色々と確認してみて」
「分かった」
まだどうなるかは分からない夏休みが少しずつ近づいてる事を実感し、琴葉がより笑顔になれる夏休みを期待するのだった。
-----あとがき-----
・夏休みイベントの始まりですね。
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