第49話 対面と本音
「よぉ、月城」
「来てくれたんだな」
「この話はまた今度って言ったのは俺だしな」
翌日の昼頃、奏太は間宮と対面した。先に到着した奏太は、間宮を迎え入れる形で待っていた。場所は高校から少し離れた広場のような所。
カフェやどこかのお店で話す間柄でもないし、内容が内容なので、あまり人が寄って来ないここを選んだ。
昨晩奏太が送ったメッセージに対して『分かった』の一言だけの返信だったし、集合場所を送った時も既読しかつかなかったので、来てくれるかは半信半疑だった。
こうして来ているという事は、間宮も奏太との話にケリをつけたかったのだろう。
「まず聞くけど、琴葉から離れる気はないのか?」
「この前の話を聞いてたのなら分かるかもだけど、別にお近づきになりたいわけじゃない」
「………じゃあなんだよ」
「あと1回だけでいいからヤらして欲しいだけだよ」
何事もなく離れてくれるかもしれないと、少しでも期待していた自分が馬鹿ばかしかった。
悪そびれた表情の1つも見せない間宮は、何?とこちらを窺うように首を傾げた。
「そんな信憑性の低い発言を信じると思うか、どうせそれがエンドレスに続くんだろ?」
「勝手な妄想はやめてくれ」
そう。これはあくまで憶測でしかない。だが、こんな奴の言う事を信じる方もどうかしている。
クラス内では良いポジションを陣取っている間宮も、結局の所は男だという事だ。
「それに、月城はずっと俺が悪いみたいな言い方をしてるけど、向こうにも非はあるだろ?」
話は前回の途中から始まる。
「……それは認める。でも、非があったら何をしても良いという訳じゃない」
「……だからー、言ったろ?発言をした方にも責任はあるんだって」
間宮が度々口にしている責任という言葉。そんなものに囚われる必要なんて一切ないが、それが原因で今の間宮を行動させているので、避けようにも避けれない事案。
奏太が初めて琴葉と出会った時に、もっと気づいてあげられれば、こんな事態は起きもしなかった。自分の事だけを考えているのは奏太も同じだ。
そうなると、その責任は奏太にもあると言っても過言ではない。
「だったら尚更、お前と琴葉を近づけさせるわけにはいかないな」
「……お前は彼女にとって何なんだ?なんでそこまでして俺を彼女から離れさせようとするんだ?」
間宮も、ここまで熱心に引き離そうとする奏太に単純な疑問を抱いていた。
琴葉は奏太にとっての何か、という質問の答えは答えられる。
「………友達。守ってあげたくなるような瞳をした、1人の少女の友達だ」
「友達、ね」
間宮には腑に落ちない点があったようだが、とりあえず奏太の返答に納得の表情を見せた後、変わらず話は振り出しに戻った。
「離れてやってもいいけど、南沢琴葉は複数の男と経験を持つ女だと拡散してもいいか?」
「お前…」
どちらにせよ、無事に事態を終わらせる気はないみたいだ。こちらの顔を見ながらニヤニヤと楽しそうに話をする間宮には、一発拳を入れてやりたい。
しかし、そうなると噂は拡散されるだけなので、拳を握って力一杯に堪えた。
そんな噂を流しても信じるか信じないかは学校の人が決める事。もしかすると、デマ情報と流れる可能性だってある。
だが、琴葉に今以上の悪影響を与えてしまうかもしれないのが、最悪の展開だ。
「拡散もさせないし、お前には離れてもらう。本当に友達になりたいってなら大歓迎だが、お前からはそんな気が微塵も感じない」
「……ふーん、だからと言って引くほど俺はお人好しじゃない」
「知ってる」
そんな事は百も承知だ。そう簡単に離れてくれるとは最初から思っていない。
「だからお前が琴葉を諦めるまで、俺はしつこくお前に付け回ってやる。雨の日も風の日も、お前からもう近づかないと聞くまで毎日だ」
「は?めんどくさ…」
「嫌なら今すぐ諦めろ」
決して冗談ではない。間宮からその言葉を聞き出すまでは、本当に付け回してやるつもりだ。もう琴葉には悲しい顔をして欲しくないから。
「……たかが女のために何でそこまでするんだよ!」
何で、か。今までは親切心や同情と言い訳して来たが、自分の本当の気持ちに、もうとっくに気づいているのかもしれない。
最初こそ、親切心や同情で動いていたのは大マジだったが、ここ最近に見られる保護欲はそんなものじゃない。
好き、とそう感じているのだ。琴葉が見せてくれる優しい笑み、自分も辛いはずなのに奏太に見せてくれた頼れる表情。
意外と純情で、実は甘えたい所も、その全てに気づけば惹かれていたのだ。なら、奏太の口から出す答えは決まっている。
「好きだから。お前とは違って、たった1人の少女として琴葉が好きだから」
自覚してから口に出すのに随分と日が経った。自分の過去から逃げていたから、今の今まで認めないようにしていたのかもしれない。
あの日の水族館で励まされて以来、守りたいと強く意識するようになったのも、琴葉からもう一度やり直そうと勇気を貰えたからだ。
「好きな女のためにそこまですんのか?」
すっかり興奮気味になった間宮は、勢いを上げ声を高らかにして奏太にそう問う。
「……それの何が悪い」
悪い事なんて1つもない。ただ言うとするならば愛が重いという点か。
「だから俺は、その責任を果たすためにお前と話してる。琴葉を、守ると約束したからな」
語尾を強くし、睨むようにして間宮に言葉を放った。
「………そーかいそーかい」
「間宮?」
さっきまでとは違い、気の抜けたような声が返ってきた。
「その様子だと、彼女もお前の事が好きそうだな」
「それは分からないけど、」
「分かったよ。お前の言う通りに離れるし、拡散もしない」
「どうしたんだよ急に」
奏太としては本望のはずなのに、数秒前とは打って変わったので、思わずそう返してしまった。
「どうしたっていうか、そこまで思ってるやつの女とヤっても後味が悪そうだ」
「そうかよ」
「それに…」
後味が悪いというのだけが理由だと思ったが、まだ理由はあるそうだ。
「純粋にお前の熱量に負けた。1人の女性をそこまで好きになれる月城を尊敬する」
「………間宮、」
彼も彼で、何やら悲しい過去を持っているのかもしれない。琴葉などと似た、そんな目をした。
その寂しさを埋めるために琴葉を利用しようとしたり、クラス内では明るいキャラを演じたりしていそうだ。
琴葉を利用したのは良い事ではないし、間宮の詳しい事情には興味なんてないが、少し同情した。
「もう月城にも関わらないよ」
「…………そうか」
下を向き、微かに落ち込んでいる間宮は、なんだか可哀想に見えた。
「じゃ、俺帰るな。月城、南沢さんにごめんって言っておいて」
「分かったよ」
そう言い、足を重そうにして一歩前へ進んでいった。
「おいおい、これはあん時のクソガキじゃないか」
いつぶりだろうか。どこかで聞いた事のある声が奏太の耳に届く。
後ろを振り向いてみれば、あの時の男が姿を表していた。
----あとがき----
・間宮くんは、過去に女性に二股された経験があります。当時純粋だった間宮くんにとっては、それが苦となり、大きく歪ませてしまったようです。
歪んだ心が、琴葉を体で独占しようとする気持ちがリアルに露わになったのではないでしょうか。最後は奏太の熱量に負けましたけど…。
似た過去を持つ奏太と比べると、人によって感じ方や受け取り方、変わり方も大きく異なります。これも、思春期という心の移り変わりの激しい時期にはよくある事ではないでしょうか。
さてさて、次話もお楽しみに〜!
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