第17話 スマホカバー
琴葉についていき、見知った街の中をどんどん歩いていく。気がつけばデパートの中へと入っていた。
「本当に場所分かってるの?」
「……分かっていますよ」
スマホを片手に画面をチラチラと見ながら進んでいるので、何かを調べているのは間違いなさそうだ。
「もうすぐのはずなんですけどね」
「お?もしかしてあれか?」
スマホケースっぽいものがたくさん飾られている店が遠くからだが見えた。きちんと確認したわけではないが、あのお店の可能性が高い。
「そうですね。あの店だと思います」
「中に入ってすぐの所にあるんだな」
「見えやすい場所にあって良かったです」
遠くから見えていた店も、少しずつ距離が近くなってきた。
「入りましょう?」
「なんか緊張するな」
「それは共感しかねますね」
店の中を覗くと女子しかいないので、緊張してしまう。場違い感といのか、本当に店に入っても良いのかと疑った。
店の前に立ち止まったまま、琴葉の方を向く。
「ここは男も入っていいのか?」
「入ってもいいでしょう。私はそういう機会がなかったですけど、彼氏とかと行くと聞いた事があります」
「……大丈夫そうならいいか」
店に入ろうとすると、今度は琴葉が店の前に立ち止まった。
「どうした?入らないのか?」
「………緊張してきました」
「共感しかねるんじゃなかったの?」
「それとはちょっと、また別の………」
動き始めるのを待っていると、後ろから噂するような声が聞こえてきた。
「あの人達ってカップル?」
「初心だねぇ〜」
「私も彼氏とか欲しいなぁ」
あぁこれのせいか、と納得する。俺が店の前に立ち止まっていた時にそう聞こえてきたのだろう。琴葉は周りの視線が気になっているのか、下を向いたまま動こうとしない。
「………店の前に立ってる方が視線を集めるぞ」
そう言うと、顔をパッと上げて周りを見渡した。
「……中に入った方が、視線とか気にしなくなりそうですね」
「ここにくる目的は大体がスマホケースの購入だからな」
ようやく店内に入る。店内には結構客数がいて、小さめのこの店には窮屈に感じた。辺りを散策しつつも、色々な機種の色々なケースがたくさん飾ってある。
自分達のスマホ以外のケースを眺めていても時間の無駄なので、俺たちの機種のケースが置かれている所を探す。目を離すと違う機種用に変わっていたりするので、目をこらしながら見ないと、気が付かずに通り過ぎてしまいそうだった。
俺たちのスマホは、出ているシリーズでは最新のやつなので比較的見つけやすそうではあるが、中々見つからない。
なんやかんやで店内を一周しそうなので、店員に聞いた方が早そうだ。
「奏太くん、見つけましたよ」
「本当だ」
スマホと同じブランドの機種名が書かれたスマホケースが並んでいた。他のスマホケースに比べて、品揃えや種類は豊富だった。
「なんか女子に人気ありそうなのばっかりだな」
「最近では男子もこういうの使ってるらしいですよ」
「なぁ……なんか詳しくない?」
何をするにも初めての事が多い琴葉は、スマホ事情に関してはよく知識が豊富だった。
「そ、そうですか?」
「詳しいと思うが、それが普通なのか?」
「………奏太くんが知らなすぎるだけだと思います」
俺が知らなすぎるだけらしいが、スマホケース事情について知る事なんてないので、知らなくても当然だ。
「……ちょっとトイレ行ってくる」
「私、ここら辺にいますね」
「了解」
他にも店があるデパートの中を一人歩き、トイレへと向かう。
「あれは……」
トイレに向かっている最中に、懐かしい面影をした人が見えたような気がしたが、こんな所にいるはずもない。
その人は奏太の恩人であったが、今年の春に海外へと留学したはずだ。こんな所にいるわけがない。そう自己解決した。
「奏太くん、これどうぞ」
トイレを済ませ、先程までいた店に戻ると琴葉から包装された物を渡された。それが何かは考える必要はない。
いわゆるプレゼントというやつで、渡した琴葉は恥ずかしそうにモジモジとしていた。もう一つ紙袋を持っていたが、それは自分用なのだろう。
いつまでも持っている訳にも行かないので、一声かける。
「これ、開けてもいい?」
「どうぞ……」
丁寧に包装された紙を丁寧に剥がす。中にはスマホケースが入っていた。スマホケース屋から出てきたのでそれ以外はありえないのだが、物を貰えるというのは嬉しく感じる。
水色のスマホケースに白のワンポイントという柄の、少し明るめのケースだった。
「ありがとう」
「いえいえ」
俺が中を取り出したと分かったら、琴葉も自分の袋からスマホケースを取り出した。
「……お揃いです」
「お、い、いいな……」
あまりに可愛らしい言い方だったので、キョドったような返し方をしてしまう。俺は水色で、琴葉はピンク色だった。
「昨日の感謝なんですから、お金払うとか言わないでくださいね」
「言わないよ」
俺だって人の誠意を無駄にするような発言はしたくない。ましてプレゼントのお金を返すなんて、プレゼントとしての意味がなくなる。
今はそんな事よりも、もっと重大な事が気になっていた。
「同じスマホにしたのって、もしかして…」
「それ以上は口に出すことを禁じます」
慌てて小さな手で俺の口元を押さえる。琴葉は、頬を真っ赤にして背伸びをしていた。
「やけにスマホ事情に詳しかったのも…」
「……もういいです」
拗ねたようにそう言うが、俺自身も頬に熱が上っているのを感じた。スマホを同じのにしたのも、お揃いのスマホカバーを買うため。そう考えると非常に嬉しい。
人にプレゼントを渡すのも恐らく初めてのはずだし、そのために色々と調べていたなんて、いくらなんでも可愛いすぎる。
プレゼントを渡す上でタイミングはとても大切なので、スマホショップで心配そうに俺を見つめていたのも、これが原因と考えれば頷けた。
「俺がトイレ行かなかったらどうしてたんだ?」
「何とかなるかなと思いまして……」
「ま、実際何とかなってるから俺から言えるのは感謝だけだしな」
もう一度貰ったプレゼントを見る。女子から貰ったプレゼントという事が口角を上げた。お揃いなんて彼氏彼女じゃないとしないと思うが、そこまで俺の事を友達と思ってくれている事が実感できた。
「喜んでもらえて良かったです」
「プレゼント貰って喜ばない訳がないだろ」
「それでも緊張するんです」
「俺は緊張しなかった」
「奏太くんは体温計ですもんね」
俺が琴葉にあげて物体として手に残っている物なんて体温計だけだ。体温計を上げるのに緊張する人なんているわけもない。
「でも、体温計以外にもたくさんもらってます」
「お、おう」
顔に笑顔を浮かべるが、その笑顔が綺麗すぎて周囲の視線を集めた。そんな事を目を合わせて言われるとこっちだって恥ずかしい。
話題を変えるためにも、スマホケースについて触れた。
「………これ、付けてもいいか?」
「付けてみてください」
水色のカバーに白のワンポイントが自分に似合う気がしない。人のスマホケースなんてそんなに見るものでもないから気にしてもあまり意味はないのだけど。
「いい感じだな」
「いい感じですね」
持ち主に似合うかどうかはさておき、スマホとの相性は当たり前だがバッチリだった。琴葉も自分のスマホに付けたようで、満足そうに眺めていた。
「お揃いですね」
再度そう言って微笑む。琴葉は笑顔の方があどけなさがある。この方が人も寄ってくるし、琴葉自身もそうあるべきなのだが、自分以外でのそれを拒もうとする自分もいた。
「お揃いってのはカップル達がやるんだけど、案外いいもんだな」
「えっ、そうなんですか?」
「知らずにやってたのか?」
「仲の良い友達に贈る物だと思ってました」
それ以外の事は完璧に調べてきたのに、肝心な点を抜かしていたらしい。
「カップル以外もやってる人もいるし、仲の良い友達に送るってのも合ってるんじゃないか?」
「それもそうですね」
最後に両者納得した後、今日一日の目的を全て終わらせたので、家まで帰宅した。
*今回の話ですが、もしかすると書き換える、書き加える可能性もあります。ご了承ください。
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