第15話 ラーメンを食べる

「超激辛ラーメンのお客様〜」

「はい、」

「前の方、失礼しますね」



ようやく俺の頼んだラーメンが届いた。ラーメンというにはおびただしい量の唐辛子が目に入る。汁は真っ赤で、見ているだけで喉が渇いた。



琴葉は何だこれという目で見ていて、自分の頼んだ品を心配しながら待っていた。




「醤油ラーメンのお客様〜」

「はい、私です」




初めての外食で、初めて頼んだ品が来た事に感動の色を顔で表現していた。それが新鮮だったので、ついつい琴葉の顔を眺めてしまった。




「あ、写真です。奏太くん携帯を貸してください」

「……はい」



今回は写真に残したくなる気持ちも分かるので、大人しくスマホを差し出した。



まだ人の少ない店内にパシャっとカメラ音が鳴る。店内のBGMや店員の声と共に響くその音は、数回鳴った後に消えた。




「これも送信ですね」

「早く自分のスマホで見れるといいな」

「そうですね」



そんな会話をしながらも、あまり長い時間話していては折角の熱々のラーメンが冷めてしまうので、割り箸を取って彼女に渡した。




「食べるか、」

「食べます」



そう言って、割り箸を割る。初めはスープをお手並み拝見するべく、レンゲにスープを入れた。黒の容器に入っていたスープは、白のレンゲに入れると一層赤みを感じた。



(これは凄そうだ)



そんな事を考えながら、レンゲを口に入れる。ピリッと舌に辛さが来た後、口の中全体に広がる。その勢いは止まる事を知らず、一気に水を欲しさせた。



口に入れたら激辛、後味に超激辛がきていて、辛いもの好きの奏太でさえ驚きの辛さだった。これに麺を絡めて食べるとどんな味なのだろうと、想像しながら唾を飲み込んだ。




「奏太くん、これ美味しいんですね」



すでに麺を食べていた琴葉がそう声をかけてきた。




「そうか、美味しいか。良かったな」

「良かったです」

「それが醤油だぞ。さっき言ったように他にも種類は沢山あって、全部美味い」

「………全部食べたいです」




自ら進んでラーメンを食べたいと言う琴葉は、ラーメン以外の料理にも興味を示しそうだった。




「奏太くんは、辛くないんですか?」

「辛いっちゃ辛いが、普通に美味いぞ」



麺とスープを絡めて食べる。腰があってモチモチの麺はスープを吸っていて、噛めば噛むほど味が出てきた。



そこにチャーシューを組み合わせれば、スープ、麺、チャーシューの三つを楽しむ事ができ、至福の一時を感じる事が出来た。琴葉も俺の真似をしてチャーシューと麺を同時に食べていた。




「奏太くんのやつ、一口もらってもいいですか?」

「辛いぞ?病み上がりに大丈夫なのか?」

「大丈夫です」




好奇心なのかなんなのか、俺のラーメンを食べたいらしい。ぜひ食べて欲しいので、容器ごと渡した。




「俺も琴葉のやつもらっていいか?」

「交換ってやつですね」



共に頼んだラーメンを交換した。自分の割り箸を取り忘れたが、激辛とこちらのラーメンの味が混ざる可能性もあるので自分の箸は使わない方が良い。



俺の手元には琴葉の割り箸が回ってきて、琴葉には俺の割り箸が回ったのだが、彼女はそんな事気にも留めていなかった。



このまま食べれば関節キスになるが、俺一人が気にするわけにもいかない。それに、それ以上の事をした仲なので今更どうという事はない。普通のキスすらせずに、いきなり本番だったので、間接キスというのに僅かながら緊張している。




「いただきます」

「いただきます」



琴葉の醤油ラーメンを食べる。俺の好きな味のラーメンで美味しいのだが、ここはあくまで激辛に力を入れているラーメン屋なんだと分かる味だった。




「か、かりゃい……」

「……ん?かりゃい?」



前の方からそんな言葉が聞こえてきた。その方向を向いてみると、琴葉が涙目になりながらラーメンをすすっていた。



その手もいつの間にか止まって、ラーメンを口に入れたまま静止していた。



(何これ、可愛い……)



素直にそう思った。それくらいに可愛らしい顔をしていた。




「だから言ったろ?辛いって」

「………からふらいれふ(辛くないです)」

「何て?」




ラーメンをなんとか噛み切った後、水を一気に飲み込んだがそれでも足りなかったらしく、何杯も飲んでようやく落ち着いた。子供と一緒にご飯を食べている気持ちになりながら、琴葉に話しかけた。




「まだ早かったか」

「早くないれふ。美味しかったでふ」

「……そうか」



溢れた涙を拭くためにも、琴葉にハンカチを渡した。俺は、世の男達が女の子をイジりたくなる理由が分かった気がする。



純粋に可愛い反応をしてくれるからなんだと理解した。もう少し超激辛ラーメンを食べさせようと思うくらいに、イジリたくなる衝動に襲われた。




「だったらスープも飲んでみたら」

「………飲んでみます」



ゴクリっと喉を鳴らし、覚悟を決めたようだった。恐る恐るレンゲを持ってスープを入れていた。顔の前まで持ち上げて、数秒眺めた後に飲み込んだ。




「ひぃぃーーかりゃいぃぃーーー!」

「落ち着けよ。ほら水だ」

「はらわわいれくらわい(笑わないでください)」

「うん、何て?」



解読すら出来ない日本語に可笑しさを感じながらも、俺自身笑みをこぼしていた。またも何杯も水を飲んで、舌を落ち着かせていた。




「よくこんなの食べれますね。凄いです」



数分経って落ち着いた琴葉が、俺に感心していた。




「こういうのを好きな人もいるからな」

「なるほど…」

「もう一口食べるか?」

「………遠慮しておきます」




初めは美味しいと言った彼女も、流石に三度も同じ目にうのはコリゴリしたようだ。




「このラーメンも美味かった。ありがとう」

「私も美味し………良い経験が出来ました」



また交換し、自分の注文したラーメンが戻ってきた。美味しいと言わずに良い経験という言葉選びにセンスを感じながらも、残りのラーメンを全て食べた。



今でも舌がピリピリするが、それが激辛ラーメンの良さの一つでもあると思う。




「そろそろ店出るか」

「お会計は私ですからね」

「昨日そう話したけど、俺が払ってもいいし、割り勘でもいいんだぞ」




こういうのは男が奢った方が良いと聞くが、昨日奢ってもらうと約束した手前、俺からは名乗り出づらかった。




「だめです。私が払うんです」

「分かった。ご馳走になるよ」

「最初からそういう約束でしたし」



満足そうな顔で立ち上がってレジまで向かうが、大事なものを机の上に忘れていってる。




「琴葉、伝票も持っていかないと会計できないぞ」

「…………すみません」

「そんなに落ち込むなよ。初めてなんだからしょうがない」




本当に初めての外食なんだと納得してしまう。琴葉はミスしてしまった自分にしょんぼりしていたが、スーパーやコンビニでしか会計をしていないので知らなくても仕方がない。




「俺も一緒にレジ行くから待ってて」

「……分かりました」



待ってきた少ない荷物をまとめて、彼女と一緒にレジに並んだ。




「無知ですみません」

「……頼ればいんだよ」

「はい?」

「分からない事があったら、いつでも頼ってくれていいんだよ」



自分で言いながら恥ずかしさを覚えつつ、彼女の顔を見る。嬉しそうな満足そうな顔で、ほんのりと頬を上気させていた。




「私も頼っていんですね」

「迷惑もかけていいし、頼ってもいいぞ」

「……遠慮なくそうさせてもらいますね」

「お客さん、レジの前でイチャつかねぇでくださいよぉ」



レジにいた店員に揶揄からかわれながら会計に取り掛かる。




「イ、イチャつく?」

「琴葉、気にしなくていいからな」

「兄ちゃん、可愛い彼女だね」

「彼女じゃないですよ……」



フレンドリーな店員との会話をし、琴葉が会計をした。会計を済ませたら店を出た。彼女と言われて動揺していた琴葉は、隣を歩きながら俺の顔を見上げていた。




「私たち、付き合ってるように見えてたんですかね」

「どちらかというと、兄と妹だろ」

「……私の事を妹扱いしてたんですか?」



身長差も店でのやり取りもあり、付き合っている男女というよりかは、兄弟 と言ったほうが相応しかった。




「気にせず、スマホショップに行くか」

「話を逸らしましたね」



妹と認識しているわけではない。例えとして兄弟の方が近いと言っただけで、琴葉の事を妹のような存在と思った事はない。



そんな事を考えながら、琴葉のスマホを変えるべく、スマホショップへと向かった。








*いつもこの作品を読んでくださる読者様へ



もうすぐ夏休みが終わり、明後日からは学校が始まります。それに伴い実力テストがあるので、しばらく作品の投稿が出来ないかもしれないです。



作品を楽しみにしてくださる読者様には申し訳ないですが、ご理解の程よろしくお願いします。



(普通に投稿する可能性もあります)



次話もお楽しみしていただけると幸いです。





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