第14話 翌日のラーメンの注文

「ピンポーン」



エントランスから呼び出しをする。翌朝、約束していた11時ごろに琴葉の家に着いた。女子と遊びに行くのが初めてな俺は、昨日の夜から緊張している。



今も平然を装っているが、とても緊張していた。




「すぅーー」



大きく深呼吸をして自分を落ち着かせる。もうすぐお昼だからか、腹を空かせながら彼女が降りてくるのを待った。



エレベーターが彼女の階まで上がり、数秒後に一階ずつ下がってくる。




「おはようございます」




その言葉と共にエレベーターから出てきたのは天使だった。そう思わせるくらいに目を奪われる。白のタートネックに黒のワンショルダージャンパースカートというシンプルな組み合わせだが、女の子っぽい可愛らしさをかもし出している。



肩にはショルダーバックをかけており、女子高生と呼ぶに相応しいファッションをしていた。



女子はオシャレやメイクをしたら綺麗になるというが、元々美少女というステータスを持った女子がオシャレをしたら、さらに綺麗になるという事を実感した。




「お、おはよう」



予想以上の破壊力に口ごもったような返し方をしてしまう。女子がオシャレをしたら褒めるべきと、昨日調べたネットの記事には書いてあったので、どう切り出すか迷う。




「どうかされました?」



気がつくと、頭のてっぺんから足の先まで見渡していたらしく、キョトンとした顔をしながら俺の顔を覗いていた。




「似合ってるな、その服」



彼女が切り出してくれたおかげで、絶妙なタイミングで褒めることが出来た。




「ありがとうございます」

「いえいえ」



出会って挨拶の次に褒めの言葉が出てくる事は予測していなかった琴葉は、恥ずかしそうにしながら俺の目を見た。




「奏太くんも、似合ってますね」

「そうか、ありがとう」



俺も褒められ返される事は予測していなかったが、素直に言われると嬉しく感じるとところもある。まだ5月の僅かに寒さの残った時期なので、白のTシャツの上に灰色の少し長めのカーディガンを羽織り、パンツに黒のスキニーという無難な格好をしていた。



奏太自身があまり華美な色は好まないので、大抵は黒と白の色を基調とした服装だった。




「熱は?」

「36.6度です」

「良い感じだな」



だいぶ熱も下がり、平均体温と同じくらいにまでなっていた。下がりはしたが、まだ一日しか経っていないので無理はさせないようにする。




「行くか」

「そうですね」

「忘れ物はないな?」

「ないです」



そう話した後に、エントランスを抜けた。最初はラーメンを食べに行く事になっているので、昨日のうちから良さそうな店はある程度調べていた。



どこに行くかは彼女の趣味や気分に任せてたいのだが、ラーメンを食べた事のない人に聞いても分かるはずないので、行き先はこちらで決めている。




「俺がずっと行きたかった店があるんだけど、そこでいい?」

「はい。私はどこでも構わないです」



ラーメンを知らない人に聞いても何も分からないので、この対応は当たり前だった。今向かっている店は、この町で有名な辛いラーメンを出している店だ。



辛いものも好き奏太には、たまらなく行きたい場所の一つだった。




「出会った時も思いましたけど、奏太くんって結構背高いですよね」

「まぁそうだな。クラスの中では結構高い方だし」

「ですよね。今並んで歩いていると分かります」




身長を気にしているっぽい琴葉は、ふと俺にそう話しかけた。隣にいる琴葉は、奏太の肩にギリギリ満たないくらいなので、二人の身長差は兄弟と言ってもバレないくらいあった。




「俺が高いのもあるけど、琴葉もそれなりに低いよな」

「低くないですよ。平均程度です」

「程度って事は、ちょっと平均に足りないのか」

「細かい部分まで追求しないでください」



平和な会話をしながら、琴葉の家から近めにある店なので、すぐに着いた。




「ここですか?」

「そうだな」

「かなり近いところにありますね。私に遠慮してますか?遠い所でも良かったんですよ?」

「ここには来たかったんだ」




そう疑われるのも仕方がないくらいに近いが、ここは本当に行きたかった店だ。




「えっ、激辛らーめん?」

「辛いのは苦手か?」



初めてのラーメンで激辛というのも変な思い出になりそうだが、どうしても来てみたかった。琴葉が辛いのが苦手なら別の店に変えるつもりではいる。




「……得意です」

「怪しいな」

「……本当に得意です」



真偽は分からないが、店の前に立っているだけでは邪魔だし、時間の無駄なので店内に入った。




「お客様何名ですか?」

「2名です」

「カウンターとテーブルとありますが、どちらにされますか?」



お昼にしては早めの時間に来たので、どちらも空いていた。




「カウ…、テーブルでお願いします」

「はい、2名様テーブルに入りまーす!」

「あい!」



ラーメン屋だとたまに見る、掛け声大きめ系の店員達に琴葉はビクッと驚いていた。カウンターだと小柄な彼女が食べづらいかと思ってテーブル席にしたが、正解だった。




「これがらーめん屋ですか…」

「さっそく頼むか」



メニュー表を取り、一応どんな品があるかを見る。どうやら普通の豚骨や醤油ラーメンもあるようだった。奏太は、注目を集めている超激辛ラーメンを頼むつもりでここに来ている。




「琴葉、ここのラーメンめっちゃ辛いから普通のにすれば?」

「そうします。もう匂いでやばそうなのが分かります」



病み上がりの彼女を気遣って言ったが、確かに席に座っているだけで辛そうな雰囲気が伝わってくる。




「普通のと言っても、どれが良いんですか?」

「豚骨とか醤油、塩、味噌が定番だな。ここにあるのは豚骨と醤油だけだけど」

「この二つですか……」



メニュー表と睨めっこをしている琴葉が妙に面白い。豚骨と醤油にも好き嫌いは分かれるが、やはり最初はこの二つのどちらからかを食べるべきだ。



俺的には塩ほどあっさりしてなく、豚骨ほどこってりしていない醤油ラーメンが好きだった。豚骨のこってり感が好きという人もいるので、こっちを食べろと強制する事は出来ない。




「私は……醤油らーめんにします」

「気があうな。俺も醤油ラーメンが好きだ」



二人とも注文が決まった所で店員を呼んだ。




「ご注文をお聞きします」

「超激辛ラーメン1つと醤油ラーメンを1つください」

「以上でよろしいですか?」

「はい」



注文をしている最中に視線を感じると思ったら、琴葉はジーっと俺を眺めていた。




「どうかしたか?」

「あんな風に注文するんですね」

「えっ、もしかして外食も初めて?」

「初めてですよ。一人でお店に入る勇気なんてないです」




ラーメンやモンブランを食べた事がないと言っていた時点で何となく察しはついていたが、今日が初めての外食だったらしい。



一人で行くのが心配という気持ちは、まだ当時中学生の孤独を感じていた時だったからだろう。彼女と関われば関わるほどに暗い過去が明らかになる。



その度に琴葉は平然な顔をするが、実は悲しい気持ちを我慢しているのも知っている。




「琴葉、大事なのはこれからだからな」

「何の事です?らーめんの事ですか?」

「内緒だ」



過去に何度か琴葉に内緒にされた事があるので、今度は俺が内緒にした。『大事なのはこれから』俺がこの言葉を貰ったあの時みたいに、琴葉も自分のやりたい事ををさらけ出せる日が来るのだろうか。




「らーめん楽しみです。どんな味がするのですかね」

「美味いぞ」



雑談をしながらも、注文が届くまでのワクワク感を出している琴葉を眺めながら、俺も注文を待った。







*次回はらーめん実食となっておりますので、お楽しみにしておいてください!

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