第7.5話 コンビニと帰り道


*5話、少しだけ付け足しました。





「これが、新しいモンブランか」



コンビニのスイーツが置いてあるコーナーに行き、目的の商品を手に取る。在庫が、今手に取ったのを含めて2個だったので、2個とも購入した。これだけのためにコンビニにくるのは無駄な労力かもしれないが、他に買うものもないのでレジに向かう。



「ぶっぶー」



スマホの通知音が鳴った。スマホを取り出し画面を確認すると、拓哉からのjineが来ていた。




「奏太から相談された件なんだけど」



拓哉に相談した内容の続きが送られてくると思い、次のメッセージを待った。




「やっぱり自分で考えろ」

「は?いや教えてくれ」



俺は慌ててそう送る。このメッセージからヒントを得ようと思っていたのに、これすらなかったら何の進展もない。



「そういうのは自分で考えるから意味があるんだ。じゃあな」

「おい、まて」



俺が送ったメッセージがその後しばらく既読になる事はなかった。



(なんなんだあいつは……)



結構真面目に考えてくれていたから、どんな名案が送られてくるのかと思ったら、『自分で考えろ』だそうだ。




「はぁ……」



ため息をこぼしながらも、レジで商品の支払いを行った。



   ぽつぽつ………ザァァ!!



スーパーの帰りに雲行きが怪しいと思ったが、このタイミングで土砂降りになった。その時俺はすでにコンビニから出ていたので、雨宿りも兼ねてあの公園に行った。



屋根付きベンチのある場所に人影が見えるが、そんなのを気にしている場合ではないので、急いでに駆け込む。




「急な土砂降りで災難でしたねって………もしかして南沢さん?」

「へ?月城さん?」



人影は見えたが、まさか彼女だとは思いもしない。それに何故こんな時間にここにいるのだろうか。時刻はもうすぐ9時になろうとしている。



目元は髪で隠れているし暗くてよく見えないが、彼女が死んだ目をしているのは何となく分かった。




「何でここにいるの?」

「月城さんには関係ないです」



この女は口を開けば、『関係ない』としか言わない。しかし今の彼女からは覇気すら感じられない。




「関係あるだろ、こんな時間にここにいたら誰でも気になる」

「……そういう月城さんだって、何してるんですか?」



俺がこの質問に答えれば、彼女も俺の質問に答えてくれるのか……。そんな保証はないが、何もしないよりはマシなので答える。




「俺はこのモンブランを買いに行ったんだ」

「そうだったんですね」



俺は袋の中のモンブランを見せた。彼女は、自分から聞いてきたくせに全く興味を持っていない。




「それで、何してるの?ここで」

  


奏太は、『この時間に何をしているか』よりかは『ここで何をしているのか』が知りたかった。




「………スーパーの帰りにたまたま雨が降ったので、雨宿りをしてます」



彼女の身の近くには、スーパーで買ったであろうビニール袋が置いてあった。中身が少しだけ見えたが、やはりゼリー飲料等の補助食品ばかりだった。




「嘘はいいんだよ」



彼女がスーパーに来店した時刻は知らないが、俺がスーパーに向かったのが6時だ。その時には彼女と会っているので、もしスーパーの帰りだとしたら約3時間近くスーパーにいた事になる。



どれだけ長い時間買い物をしようと3時間はかからないし、普通の人ならせいぜい減らせても1時間だろう。彼女はゼリー飲料と補助食品しか買っていないので1時間もかからない。



なのでここに来たのなら、何かしらの理由がある筈だ。



そんな彼女の近くには、スーパーの袋ともう一つ、バキバキに画面が割れたスマホが置いてあった。




「バレましたか。けど、話した所で何も変わらないですし、もう誰からも………」

「なんだ?」



肝心なそこが分からないのに、中々話そうともしない。無音の時間が流れたが、向こうから口を開いた。



「再度お聞きしますけど、何で心配してくださるんですか?私に近づくなと言っておきながら……」

「何でって……」




少しずつ暗闇に目が慣れてくる。俺にそう問いかける彼女の瞳はよく見ると充血していて、目の周りは涙をたくさん流したのか腫れ上がっていた。



ゲームセンターの近くで会った時は俺が誤魔化して答えなかったので、今回はちゃんと答える。




「……同情だよ」

「同情?……私がそこまで愚かに見えるのですか?」



彼女はブルブルと震えながら下を向く。愚かとは何の事だろう。彼女の考えている事は何も分からないが、俺の伝えたい事はまだ言い終わってないので、続けた。




「……似てるんだよ過去の俺と。それと、同情からくる親切心だ。だから心配になった」

「似てる?」



拓哉が言っていた、俺と彼女は似ているというのもあながち間違いではない。現に、こうして俺が認めてしまっている。




「そんなの………」

「確かにそんなのと思うかもしれない、けどそんなものだから心配だった」




俺は本当の事を素直に話した。これだけで彼女が心を開くとは思えないが、何か変化があるはずだ。




「……それと、接触は避けようという発言なんだが」

「それがどうかしました?」

「やっぱり取り消させてくれないか?」



俺から頼んでおいて身勝手なお願いというのは分かっている。だけど実際、彼女の中でこの言葉が何か影響しているし、この発言が残っていると心配という言葉に説得力がない。



それは彼女も感じていたようで、二度俺に尋ねてきている。しかも踏み込んだ質問がしづらいので、彼女の事を心配するのならこの発言は取り消すべきだ。




「それは月城さんのお願いですし、取り消すも取り消さないも月城さんが決めるべきでは?」

「取り消させていただきます」



思ったよりも軽かったが、これで心置きなく質問が出来る。




「また質問しても良いか?」

「…………ええ」



許可を得た後、今いくつか頭に浮かんでいる事と言再確認を含めた質問をする。




「南沢さんは、セックスが好きという訳ではないんだよな?」

「はい。今までも好きではなかったですが、大嫌い・・・になりました」

「俺以外とはヤったのか?」

「……1人だけ」



次々と色々な事が明るみになっていくが、まだその発端が見えてこない。




「その1人というのは、今日の男じゃないよな?」

「はい、違います。あの人には触られただけです」




その事は見ていた俺が1番分かっている。そうだとすると、その1人を探し出すのは難しそうだ。




「これ食うか?」

「いえ大丈夫です」

「食べてみて」



コンビニで買ったモンブランとプラスチックのフォークを一つ渡す。俺も自分の分をテーブルの上に置いた。




「心配もおかけしたのに、スイーツも貰うなんて悪いです。」

「俺の自己満だからいいよ。受け取って」

「そこまで言うのでしたら……」



渋々受け取ってくれた。彼女の表情は、いつもよりも明るくなっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る