第6話 謎
「普段からあんな事をしてるの?」
「……いえ、
何か含みのある言い方だが、今はそこには触れず、他にも聞きたいことがあるのでそちらを優先した。
「あの人との出会いは?」
「街の本屋に向かっていたら、ヤらない?って声をかけられて……」
彼女は途中で話すのをやめた。
「何で、貴方が……月城さんがそんな事を聞くんですか?」
「何でって、心配だからだよ」
「私に極力近づくなと言っておきながら、心配するのですか?」
痛い所を突かれる。近づくなと言われた人に、心配されては疑問を抱くのも当然だ。
「とりあえず、事情を教えて」
「……声をかけられたから許可をしたら、ここまで連れてこられたんです」
「ここ外だぞ?」
「私もここでしようとしたのには驚きましたけど、ゴムは持ってますし、人通りも少ないから大丈夫かな?って」
何が彼女の事をそこまでおかしくしたのだろう。普通の高校生なら、外でしようとも、知らない大人の人としようとも思わないし、抵抗する筈だ。
同級生とはいえ、知らない女の人としたのは俺も同じなので、やはり説得力はないが、彼女の事が本気で心配になる。
あの時にほっといてはいけない気がしたが、一声掛けておくべきだったのかもしれない。
「また聞くが、南沢さんはヤリマンなの?」
「違いますよ。それに好きでもないです」
ただ一つ納得出来る案なので聞くが、否定されたので他に理由があるはずだ。出会った頃も違うとは言っていたが、今この状況に遭遇しては信じようにも信じられない。
「そう思っているのに、何で許可を出したんだ?」
素直な疑問だった。否定もして、好きでもないに許可を出す理由が俺には全く分からない。
「それは貴方には関係ないです」
「関係はある」
「もしかして、またしたいんですか?」
何でそうなる!俺は本当に心配なんだ!そう思うが、伝える事は出来なかった。このままだと彼女が救われない、そんな気がしてならない。
顔に笑みを浮かべているが、それが作り笑いなのは見ていて分かる。
「そんなんじゃない」
「………貴方が近づくなと言ったから近づいてもいないし、話しかけてもいない。他に不満でもあるのですか?」
彼女は苛立っているのか、悲しんでいるのか分からない表情を一瞬浮かべたが、すぐに仏頂面に戻った。
「不満もないけど……」
「でしたら、もう良いですか?帰りますね」
「ちょっと……」
俺の呼びかけを無視して、前に進んでいく。
「他の人としたら駄目だぞ?」
そう言っても返答はなかったが、彼女の雰囲気が少し変わったような気がした。入学式前まで冷たかった春風が、ちょっとだけ暖かくなったのを肌で感じた。
「おい、おせぇよ………その怪我どうしたんだ?」
「ちょっとやられたよ、けど痛くないし心配しなくていい」
彼女と別れた後、拓哉と約束していたゲーセンに戻った。顔面を思いっきり殴られたので、跡になっていたようだ。
「そいつ誰?俺がボコしてこようか?」
「やめとけやめとけ、内申に響くぞ」
「そうだな。ボコすのは良くないな、ぶっ飛ばす」
そういう事を伝えたいのではないが、心配してくれる友を持った事を実感できたので素直に嬉しい。
「奏太が来た所悪いが、もう目的の品は取った」
「帰るか?」
「奏太はいいのか?寄っていかなくても」
「俺はお前の付き添いで来たからな」
俺は店内に入る事なく、その店の前から立ち去った。
「拓哉、相談いいか?」
「得意分野だぜ」
自信満々にそう言うので、なんだか
「女の子の心を開く方法ってなんだ?」
「お前…恋してんのか?」
「違う、これは、その……親切心だ」
そう。これは決して恋じゃない。今、琴葉を見捨てたら今度こそやばい気がしたから、親切心で助けてあげるのだ。
そうは言っても俺に出来ることは限られているので、こうして拓哉に相談に乗ってもらっている。
「心を開く方法ねぇ」
「得意分野なんだろ?」
「そう慌てるな」
ふざけた回答が返ってくると思っていたが、かなり真面目に考えてくれているようだった。
「一番は、ウザくない程度に明るく接するのが良いんだろうが、奏太には無理だな」
「なんでだよ」
「その返答の時点で明るくは無理だな」
俺が反論出来ない返しをされる。一つ目は否定されたが、まだ案はあるようだった。
「心を閉ざしている原因が分かっているのなら、それについて触れて励ます、とかは無難な方法だよな」
「なるほどな」
残念ながらその原因が分かっていない。勘づいてはいるのだが、まだ確証がない。
「原因が分からないなら、ちょっとずつ仲を縮めていって、その原因についてを聞き出すとかしかないな」
「お前、経験者なのか?」
「ちげーよ」
今言っていた方法を試すしかないのか。接触は避けようと言ったのに、俺から話しかけないといけないのか。プライドやら約束やらで頭がゴチャゴチャになる。
「俺バイトだからもう行くけど、一度頭を整理した方が良いぞ。他の案とかは後でjineで送っとくから」
「ん?あぁ、分かった。じゃあな」
「おう、じゃあな」
拓哉と別れ、一人で自宅まで帰る。その道中に、拓哉に言われた通り、頭を整理してみた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます