第3話 再会

「今日から高校生か」



色々あった春休みも昨日で終わり、今日は入学式だ。大事な会議が緊急きんきゅうで行われているのだとかで両親は来ない。



重い足を運びながら、入学の準備をする。準備と言っても制服に着替えて、その他必要なものを学校指定のかばんに突っ込むだけだ。



受付開始時刻うけつけかいしじこくまでまだ時間があるが、家に居てもする事がないので学校に向かう。徒歩10分と歩いてすぐの所にあるので、遅刻する事はなさそうだ。



見慣れた街の風景ふうけいといつもよりも強い春風によそよそしいさを見せながらもゆっくりと学校まで歩く。



(あの後ろ姿は……)



そんなはずはない。まさか同じ高校だなんてあるはずもない。そう思うのだが、高校からの家の近さといい否定も出来ない。



重い足を前に出しながらも、あしでその後ろ姿の女性のもとに向かう。



(あれ?こっちに曲がったような気がしたんだけどな)



最後に見えたのはかなりはなれた距離きょりだったので見失みうしなった。日本人にしてはめずらしい髪色なので見間違えるはずもないが、顔を見ないと断言出来だんげんできない。



制服はうちの高校の女子と同じだったので、もしあの女性がれいの彼女なら同じ高校という事になる。



見間違いかな?そう思う事にした。同じ高校ならとても気まずい。出会ったばかりなのに最後までした人と、どう接すれば良いかなんて分かるわけもない。



少しだけ時間を無駄むだにしたが、受付開始時刻まで時間をつぶすにはちょうど良かった。




「受付は終わりです。今渡した封筒ふうとうの中に自分のクラスが書いてある紙があるので、確認したら教室に向かってください」

「分かりました。ありがとうございます」



受付を済ませ、渡された封筒の中をのぞく。受付の人が言っていた紙を取り出し、自分のクラスを確認する。




「俺は、1年3組か」




クラスの人の名前が書かれた紙も入っていたので、ついでに確認した。



南沢琴葉みなさわことははいないな、そう確認した後ホッとする。同じ高校だとしても別のクラスなら会う事もないし、安心だ。



重かった足も少し軽くなり、3階にある教室へ行くために階段をのぼった。




「あ、キミおはよう。同じクラスの間宮翔まみやしょうだ。これからよろしく!」

「俺は月城奏太つきしろそうた、よろしく」



教室に入った途端とたん、フレンドリーなやつにからまれながらも挨拶あいさつを返す。



自分の席に座ると、俺の左隣ひだりどなりに間宮がいた。




「席そこなの?」

「違うよ」

「なんでそこに居るんだよ」

「キミ、童貞じゃないでしょ?」

「は?なんだいきなり」



初対面のやつに、男子中学生みたいなノリをされては対応に困る。そして、事実なのでさらに対応に困る。




「俺さ、そういうの分かるんだよね」

「なんだそれ」

「ま、仲良くやろうな!」

「あぁ、そうだな」



何が言いたかったのか、俺にダルがらみをした後、本来の自分の席に戻っていった。



ひまだな」



一人つぶき、かばんの中に暇を潰せそうなものがないか探す。鞄の中には、俺が暇な時のために一応入れておいた本があったので、それを取り出して読んだ。



集中して読んでいたのもあり、何人か教室に入っていくのが視界に入っていたが、気がついたらほとんど全員そろっていた。




「おぉすげぇ」

「え、可愛い」

「あんなの本当にいるんだな」



周りの声がガヤガヤと音量がドンドン上がっていくので、周囲の視線の先を辿ると、いないと確認したはずの彼女がいた。



再度確認する。クラス名簿めいぼを見直すが、彼女の名前はない。クラスを間違えたのか?そう思ったが、そのプリントの裏には米印で書かれた文章があった。




「*特別入学により、もう一名生徒が増えます。(正規せいきの入試試験を受けています)」




裏口入学じゃない特別入学とくべつにゅうがくって何だ。転校とかなら説明がつくが、今日は入学式だ。転校はありえない、それでいて特別入学。何か謎があるが、極力接触きょくりょくせっしょくは避けたいので気にしない。



もう二度と会うことはないと思っていたが、家の近さ的に可能性が0ではないという事を最初に考えておくべきだった。



そう後悔してももう遅い。今日からは大変な生活になりそうな、そんな気がした。



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