オリガミバトラー異聞録
けにい
Ep.0
オリガミ……それは一枚の紙に命を宿す神秘の御業。
古来より彼らは人とともにあり、共に歩み、力を与えてきた。
紙を愛し愛される折り目正しき者達……人は彼らを、オリガミバトラーと呼ぶ。
しかし。
永きに渡るオリガミの歴史の中には、"そうでない"者たちもまた在った。
ここに語られるのは、そのように折り目正しくなかった者たちの暗闘の物語。
日向をゆくものたちの目には映らぬ、もうひとつのオリガミバトラーたちの戦いの記録。
すなわち、異聞録である。
「はあ、はあ……ッ!」
ミフネは警視庁オリガミ犯罪課へ新たに配属となった新人の刑事である。
彼女は今、オリガミを悪用した麻薬販売組織を追う特務の真っ只中であった。
その内容は――"夜の埠頭で行われる麻薬受け渡し現場への突入と関係者の確保"。
むろん、犯人グループはこちらの動きを警戒して備えているはずだ。おそらく、
しかし、である。
「……あの男……、ッ!」
夜の風に紛れて匂う血腥さにミフネは気付いたのだ。
――――あの男、またやらかした!
「……イゾウさんッ!!」
「おうカツミぃ。遅かったのう。かはは! もう解決しちゅうぞ」
倉庫の影を走り抜け、埠頭へと踏み込んだミフネの目に飛び込んできたのは――警視庁オリガミ犯罪課の"備品"であるオリガミ使い、イゾウによって血の海にされた現場であった。
「あなたはッ!! 何をッ!!」
酸鼻きわまる有り様であった。
血に沈みながら呻く男たち。イゾウに"斬られた"とおぼしきオリガミの破片。そして、その中に一人返り血を浴びながら佇むイゾウと、その手に光るオリガミカタナ・"タダヒロ"。
何があったか、など問いただすまでもあるまい。イゾウ本人の言葉を借りれば――『誅した』のだろう。指示を待たずに!
「殺しちょらん!! 言われたとおりじゃ!! 全員生きちゅうがや!!」
「そういう問題じゃありませんッ!! 言いましたよね!? 私から合図を出すまで!! 待機って!! 言いましたよね!!」
言い訳を並べ立てようとするイゾウを制し、ミフネはほとんど絶叫していた。激昂しながらずかずかと大股で歩いて距離を詰めたミフネはイゾウに掴みかかり、感情的になりながらがくがくと揺さぶる。「何か!! あったとき!! 誰が!! 責任を!! 取ると!! 思ってるん!! ですか!!」
「うおおおおおっ!! お、落ち着け! 落ち着けっちゅう! な、なんもなかったんじゃからええじゃろうが!!」
「そういう問題じゃありませんッ!!」
すぱん、と威勢のいい音が響き渡る。はっ倒されたイゾウが、ぐえ、と声を漏らしながら地面に転がった。
ぜぇ、っ。一度大きく息を吐き出してミフネは強引に平静さを取り戻す。それから素早く連絡用の無線機を手に取ると、手早く関係各所への伝達へと移った。
「……非合法バトラーは?」
「斬った。そこに転がっちゅうがそいじゃ」
訊ねるミフネに、まるで『夕飯の下拵えはしといたぞ』とでも言いたげな顔でイゾウは答える。
「見掛け倒しもええとこじゃ。わしの方がよっぽど骨が通っちゅう」
「アアーッもう、まずは救急車……。それから松平室長に報告入れて、それから……」
「いやあ、大変そうじゃのう」
「誰のせいだと思ってるんですかッ!!」
ミフネの絶叫が、再び埠頭へと響き渡った。
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オリガミ。
それは、一枚の紙から無限のカタチを折りなす創造のチカラである。
古来より人々はそこに神を見出し、そして折り上げた紙へと神力を降ろすことで一種の擬似神性を創り出し、それを用いてさまざまな儀式を行ってきた。
そこに生み出されるカミを、
時は巡り、現代。
オリガミの力はその神秘性を保ちながらも、うつろい続ける人の歴史の中で次第にその権勢を緩やかに手放していった。
超常の力やまじないに頼るまつりごとはもはや遠く、今やオリガミは文化やあそびのひとつとして世界に根付いている。
オリガミバトル、と呼ばれるオリガミ使い同士の戦いを見世物としたエンタメは、現在のオリガミ文化のもっとも大きな部分を担っているといえるだろう。
――しかして、である。
重ねて言うが、
歴史を振り返れば、オリガミの力を己が暴威として用いた者の記録も少なくない。戦国の時代に覇を唱えた
そして現代においては、その力を暴力として我欲を満たしために行使する者を、違法オリガミ使い――
ミフネが所属する警視庁オリガミ犯罪対策課は、近年になって大きく増加した
彼らの任務は、社会の裏側で蠢く闇の中に生まれた
オリガミバトラー異聞録 けにい @kennykennyky
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