第194話 地獄へ
ガイゼンすら見たことがないと口にした、ジャレンゴクの特殊な瞳。
その名は『冥獄眼』。
「め、めいごく……? 聞いたことねえぞ、そんな眼……」
だが、それはジオも聞いたことが無く、更には……
「……ワシもないのう。少なくとも、ワシの居た時代には無かった眼じゃ……新種か?」
大きな地響きを立てながら、床に着地するガイゼン。
鋭い眼光をジャレンゴクにぶつけ続けている……が!
「アハ、見せちゃった。恥ずかしいな~……でも、友達に隠し事はなしだもんね」
不気味に照れたような様子でおどけるジャレンゴク。
「まったく、変なガキじゃわい。しかし、そう簡単に友と言ってくれるな? 語らいも、拳の交わりも……酒も飲み交わしてないのじゃからな」
「酒はダメなんでオレンジジュースくれる?」
その様子に、ガイゼンも流石に引きつるしかなかった。
しかし、そんなおどける一方で、ジャレンゴクの瞳は床で震えるオジウサに向けられ……
「ところで、そこのウサ耳おじさん……友達でもないのに、僕を呼び捨てしたね?」
「ッ!?」
「針山地獄!」
ジャレンゴクが床に両手を置く。すると、この酒場全体の床に伝わるように魔力が流れ、次の瞬間、足元がジャレンゴク、そしてチューニだけを避けるように鋭い針山となって床を貫いて伸びた。
「ッ、うおっ!?」
「針じゃと!?」
「こ、これは……」
鋼鉄のように強固で、そして鋭さのあるデカく太い針山が床から出現し、ジオ、ガイゼン、マシンの表皮も切り裂く。
咄嗟に体を捩じらせて直撃や貫通は避けたものの、完全には回避できなかった。
なら、当然……
「か、は……」
「い、だ……うわああああああ、い、いだいい、いだいいいいい!」
「た、こほっ、……たすけ……」
その場にいた、酒場の客たち、そして若い魔族たちも女であろうと関係なく、痛々しい針が手足や胴体を貫通し、辺り一面に血だまりができていた。
「な……なんてこと……を……」
唯一、チューニの床だけは避けるように伸びた針山。
しかし、それでも自分の周囲に起こった地獄絵図にチューニは言葉を失うしかなかった。
「て……テメエッ! ちっと、シャレにならねえぞゴラぁ!」
「ふんぬっ!」
「針を除去する!」
直撃を避けたジオたちがすぐさま床から伸びた針山を砕いていき、血まみれになった魔族たちを介抱する。
幸い、誰もが急所をさけているために命は大丈夫そうだが、それでも体に複数貫通する穴を開けられて、激痛でのたうち回っている。
「い、いだ、いたい、ひ、血……なんで! いや、たす、いや、死にたくない!」
「ッ、ひどい……う、れ、レンピンくん! お願い、た、たすけ、て!」
「カハ……れ、ん、ぴ、く……ひぐ、い、たいよぉ……」
「ゆ、ゆるしてくれ、ひ、た、たすけてくれよ、な、なお、レンピン……くん……なあ、レンピンくん!」
意識があるために、痛みと涙が入り混じりながらも必死に助けを懇願する若い魔族たち。
特に、女たちは自分たちにすら容赦なく肉体を貫く攻撃をされたことで、もはや勇ましさの欠片も失っていた。
どんな手を使ってでも助かりたいという必死の懇願。
だが、ジャレンゴクは……
「アハ、別にいいでしょ? 女として肝心なところは全員既に穴あきなんだから、今更増えてもさ♡」
「「「「ッッ!!??」」」」
「それに、安心していいよ。殺したりなんてしないから……大丈夫。僕ね……生まれてから一度も……人を殺したことがないんだぁ」
残酷な言葉はぶつけるも、命までは取らないと宣言するジャレンゴク。
その言葉に一瞬呆ける女たちだが、ジャレンゴクはニッコリと微笑みながら……
「ほら、人を殺したらさ、地獄行きでしょ? 僕、地獄には行きたくないんだ。天国に行くためには、どんなにムカついても、その人を……半殺しか、いっても九割殺しぐらいにとどめているんだ……」
「「「「ッッ!!??」」」」
「そして決めてたんだ……君たちは九割ぐらいにとどめてあげようって。だから、大丈夫。一割生きていられるから、良かったね♡」
それは、ある意味では死刑宣告にも似て、それよりも上回るほどの地獄かもしれない。
死んだ方がマシと思えるほど凄惨なことをする。
そう宣言しているようなものだったからだ。
だが……
「ジオインパクトッ!」
「ッ!?」
そんなジャレンゴクの言葉を黙らせるかのように、ジオの渾身の右拳がジャレンゴクの顔面を打ちぬいた。
酒場の壁を貫通するほどの勢いで外に殴り飛ばされ、そのまま地面を何度も転がっていく。
「ガハ……アハ♡ 歯が取れちゃった……アハ、歯抜けだ~♡」
突然酒場から勢いよく飛ばされてきたジャレンゴクに、通りに居た魔族たちもザワつき始めて周囲に人が集まっていく。
しかし、そんな中、ジャレンゴクは腫れた頬や、今の衝撃で砕けて地面に落ちた己の牙を手に取ったりして、機嫌よさそうに笑っていた。
「アハ♡ すごいね……君。イジメられる演技をしている時以外……ジャレンゴクで居るときの僕を殴れる奴って、そうは居ないよ?」
傷は負ってはいるが、痛みはあまり感じていないのか、ジャレンゴクはそのまま立ち上がりながら顔を上げる。
すると、酒場から出てきたジオは……
「殴られた回数が少ないってのは自慢じゃねえ。つまり、これまでよっぽど弱い奴としか戦ってねー、甘ったれな人生だったってことだろう? 楽勝と圧勝しかしてねー奴なんざ、怖くねえよ」
「へぇ……」
拳を握り、全身に魔力を漲らせ、そしてジャレンゴクを強く睨みつけ……
「とりあえず、安心しろ。人を殺す云々に関わらず……今から俺がテメエを地獄に送ってやるからよ」
「アハ♡ そんな過激なことを言われたのは初めて。やっぱり、友達って新鮮だな~♪」
今この場でジャレンゴクを……ジオはそう決めて、そのままジャレンゴクへ向かっていく。
――あとがき――
お世話になっております。
下記にて新作投稿しました。
『(仮題)ポンコツ正義の魔法蹴撃士は学園Fランク生徒縛りで青春満喫~「勉強不足」でSSSランク勇者パーティーをクビになったので力を制御されて勉強しなおす』
https://kakuyomu.jp/works/16816927862967571461
始まったばかりですので、よろしくお願いします。
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何卒ぉお~~~何卒ぉお~~~
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