第181話 悲劇の妹
「オジオさーーーん、どこですのー! 妻を放っておいて何をしていますのー!?」
「ジオ様! 放置プレイですか? それなら言ってください! 裸で排泄も我慢して部屋で待機しますから!」
「あらあら、本当にどこに行かれたのでしょう……」
「……あ、あたし、夕べはなんてことを……ジオチンに顔合わせらんねーし……」
「くんくんくんくん、マスター、どこ? マスター、私のマスター」
「チューニ……どうして? せっかく再会できたのに……チューニ……」
都市の外で行われた異種族大乱闘から一夜明け、目を覚ました乙女たちが街中を駆け回って愛しい男たちを探し回る。
だが、男たちの姿は見当たらず、朝から乙女たちの呼ぶ声ばかりが響いていた。
「朝からやかましいやつらだぜ」
「ぬわはははは、リーダーもチューニも行ってやらんのか?」
「認識阻害魔法……すごい便利なんで! 僕、今度からこれ、覚えようと思うんで!」
「……すこし、彼女たちが不憫な気もするが……確かにこれなら落ち着ける」
そんな乙女たちを高みの見物するかのようにとある建物の上から見下ろす男たち。
建物の上に隠れるぐらいなら、乙女たちも見つけられるのだが、今はそれにプラスされた力が加わって、ジオパーク冒険団の姿を誰も見つけられないでいた。
「ロックは常に自分の存在感をアピールするもの。つまり、音によっては存在感をコントロールすることもポッシブル」
そう言ってドヤ顔を浮かべる鬼。それは昨晩現れたキオウであった。
「それに、今からの話は誰にもディスターブされたくなかったのでね」
これで、余計な邪魔も入ることなく、ゆっくりと話が出来る。
それは、昨晩のことで色々とこりごりだったジオとチューニには願ってもないことであり、約束どおり今日はキオウの話を聞こうと、ジオパーク冒険団は屋根の上に腰を下ろし、皆で輪になって話をする。
「何でもアリな奴だな。ますます怪しく胡散臭い奴だぜ」
「お~、それはリグレッタブル。ミーは、ユーたちを騙そうとしたり、トラップに嵌めようとしたりはしないさ」
「どうだかな。あいにく、そういうので人生台無しにした奴らの集まりだから……もしそうなった場合は、死ぬほど容赦しねーけどな」
「ふふ……恐い怖い……では、まずはストレートに頼みたいことを先に言おう」
軽く牽制のつもりで威圧するジオ。
対してキオウは苦笑して頷きながらゆっくりと語りだす。
「ジオパーク冒険団。ミーと一緒に魔界へ行き、五大魔殺界に狙われているミーの妹を救い出して欲しい。マネーは当然ユーたちの望む額を――」
「はいいいい、もうお断りなんで! 断固、お断りなんで! ってか、論外すぎるんで!」
まずは、遠まわしな説明ではなく、依頼したいことをストレートに。だが、その内容があまりにも予想の範疇を超えていたこともあり、真っ先にチューニが拒否。胸の前で手を交差させて「×」を作りながら、断固として声を上げた。
「く、は、くははは……ま、魔界だと? しかも……ご、五大魔殺界?」
「五大魔殺界……あの、ポルノヴィーチ率いる女堤防(ウーマンダム)と並ぶ勢力……」
「ほう。なかなか刺激的じゃのう。しかも……魔界とはな」
そして、反応が遅れたとはいえ、ジオたちも予想外のキオウの依頼内容に少し動揺してしまった。
もっとも、ガイゼンだけは目をキラキラさせてワクワクしている様子だが。
「にしても、あまりにも唐突過ぎるな。魔界どころか、五大魔殺界なんてな……とりあえず、気になるから話の続きを……」
「いやいや、ダメだから! リーダー、ダメなんで! こういうのは聞いちゃったら最後、関わっちゃう流れになるから聞いちゃダメなんで!」
「ったく、ビビんな。お前はもう、生まれ変わったニューチューニだろ? 俺に向かって来た度胸はどうした」
「だからっていきなり五大魔殺界とか、色々とすっ飛ばしすぎなんで」
「つっても、あの狐ババアたちと同等ぐらいだろ? そこまでビビんなよ」
チューニは頑なに拒否し、昨日までの勇敢な姿は失せてしまったが、ジオは笑いながら押さえつけた。そう、ジオ自身も五大魔殺界には驚いたものの、ポルノヴィーチを想像して、そこまでビビるものでもないと思ったからだ。
「ふふふ、話を聞いてくれてサンキューだ。では、もう少しディティールを説明しよう」
「やめてえええええ!」
「話は少し……大魔王と勇者の最後の決戦まで遡る」
そして、唯一嫌がるチューニを無視して、キオウは依頼に至るまでの経緯を話し始めた。
「大魔王が勇者のシャイニングソードでデスった時……魔王軍のソルジャーたちは皆がショッキングだった。それほどまで大魔王とは魔界の偉大なるシンボルだった。だからこそ……その大魔王の死と同時に沢山のソルジャーたちは、復讐に燃えて決死隊となって最後の最後まで人類と戦おうとした。残り一兵になろうとも。だが……そうはならなかった」
戦は相手の大将を討ち取れば決する。だが、時には潔く降伏することなく、一人でも多くの敵を道連れにしようと、徹底抗戦しようとする者たちも居る。その気持ちは軍人経験のあるジオにも理解できた。
だが、キオウは言った。「そうはならなかった」と。
「当時、魔王軍の将軍だったミーの妹が……今後の魔界や魔族の未来を考え……多くの反対を押し切って魔王軍の敗北と降伏宣言をしたからだ」
もし、勇者に敗れたことで、魔族が殲滅されて魔界そのものが消滅するのなら、例え何があろうとも魔王軍は戦いの手を止めなかっただろう。
だが、それでも止めたということは……
「そう。ミーの妹は、勇者や人類と交渉し、魔族が戦時中に占有していた地上の領土や捕虜にしていた人間などの解放、その他諸々を条件に、和平条約を結んだ」
その部分だけはジオたちも話としては聞いていた。皆と出会ったすぐのとき、チューニからそんな説明を受けていた。
――勇者はお人よしにも魔族を皆殺しにしたりしないで、和平条約みたいのを結んで、魔界が地上の侵略を行わない限り、地上も魔界に攻め込んだり、既に地上で暮らしている魔族に危害を加えたりしないとかって話になったみたいす。
結果として、終わりの無い徹底抗戦や掃討戦などは避けられた。
だが、その裏ではまだ様々な問題が渦巻いていたようだ。
「しかし、その和平は魔族側としても反対意見がメニーメニーあった。いかに和平を結んでも、戦争で負けた魔族が今後不利益な立場に追いやられる懸念はどうしても拭えなかった。魔界のピープルは直ぐにでもネクストの大魔王を立てるべきだという意見もあった」
「まっ、だろうな。だからこそ、あの七天だったカイゾーだって勇者との和睦に反発したんだろ? まっ、その結果あいつは魔界に居られなくなっちまったが……」
そう言って、ジオはカイゾーのことを思い出した。勇者との和睦に最後の最後まで反発し、その結果魔界を追いやられて賞金首にまでなってしまった男のことを。
「つまり、お前の妹がその反対意見を抑えるために何かしたってことか?」
「イエス、ミーの妹が動いた」
そこで再び出てきたキオウの妹。人類との和平に多くの不平不満のあった魔界の民衆を抑えるために彼女が取った行動とは?
「ミーの妹と勇者オーライの……結婚だ。マリッジだ」
「「「「ッッ!!??」」」」
「妹が勇者のワイフになることで、権限を得て、魔族と魔界の立場を守ることを考えた。そうすることで、ミーの妹は近々、勇者と結婚するはずだったが……」
正に勇者の身内になることで、多くのものを守るための政略結婚。
それは、いつの時代でもありふれたものである。
しかし、今回はそれが裏目に出た。
「あ~、なるほど。そういうこと」
「……関わるの嫌だけど……確かに泣ける……」
「……確かに……自分たちに何の関係もないとは……言いにくいな」
「ぬわははは、そりゃ、ウヌの妹には悪いことをしいたのう」
そこで、ようやくジオたちは事態を把握した。
そう、多くの魔界の民や魔王軍残党を押さえ込むためにその身を犠牲にしようとした、キオウの妹。
勇者オーライと結婚することでそれが叶うはず……であった。
「そう、もし今回のことで勇者オーライが地上での信頼を大きく落として失脚してしまったら……次の大魔王を目指す五大魔殺界にとっては、正にチャンスタイム……というわけだ」
全ては勇者オーライの過去に地上で行った許されざる罪。故意に地上世界で天変地異を起こして他国に食糧危機を引き起こして、自身の国と貿易させることで故郷を潤わせた。そして、先日のワイーロ王国でも似たようなことを起こした。
そのことを、ジオパーク冒険団によって明るみにされ、オーライは失脚し、今も投獄されている身。それは地上の混乱を避けるために未だに明るみにされていなかったのだが、昨晩のオシリスによって世界中にそのことは知られてしまった。
「勿論、まだイエスタデイのオシリスドラゴンの言葉だけでは真実かどうかは不明。連合から報告しない限り、地上の民たちもまだ疑惑の段階だろうし、五大魔殺界とて疑惑の段階ではまだ動けるはずがない……のだが……」
そう、確かにオシリスによって世界に暴露されてしまったが、それだけで本当に勇者の犯してしまった罪が事実かどうかは誰にも分らない。ひょっとしたら、勇者を罠に嵌めようとする者たちの仕業かもしれないからだ。
現にこの都市でもまだそのことについては、それほど大騒ぎになっている様子はない。
地上の人間ですらそんな状況である以上、魔界とてその情報を簡単には鵜呑みにできないはず。
だが……
「これは……つい先日……魔界に居るミーのフレンドから聞いた話なのだが……」
キオウはそこで、予想外の話を持ち出した。
「勇者オーライの真実を……オシリスドラゴンが暴露する前から知っていた五大魔殺界が居る。その人物は、以前より『アンダーグラウンドな人間とビジネスを交わしており』、オーライの情報もその人間から入手していた。『勇者オーライが現在捕われている』、『勇者は大魔王を倒した力が使えなくなり無力である』ことも。だからこそ、虎視眈々と準備をしていた」
「「「「ッッ!!??」」」」
「その人物は他の五大魔殺界よりも先に動く。失脚した勇者の口車に乗ってしまったミーの妹を打倒し、そのうえで……すべての元凶でもある勇者オーライを打倒するために、ハウレイム王国を襲撃する。その時が……近づいている。現にミーが手に入れた情報では、その人物の組織の一部隊が既にハウレイム王国近辺に待機しているようだ」
オシリスが暴露する前から勇者オーライの真実を知っていた五大魔殺界。以前より準備をしてきて、来るべき日がくるまで機を伺っていた。
そして、その五大魔殺界は既にキオウの妹を倒した上で、ハウレイム王国を攻める準備までしているという。
「くはははは……そりゃ何とも……せっかちな奴らが居たもんだな」
「ちょおおおお! さ、サラッと地上を攻める準備って……それって、まさか戦争!?」
「ハウレイムを攻めるか……オーライが捕われて戦闘に参加できない以上……いや、そもそもオーライはもう衛星が使えず無力。さらに、今のハウレイムは恐らく他国からの信頼もないため援軍も……」
「なるほどのう。容易く落せそうじゃわい」
もし、キオウの言うとおり、その五大魔殺界が動き出せば、今のハウレイムも容易に滅ぼすことが出来るだろうと、ジオたちにも予想できた。
「そう。そしてそれらを手土産に、その者は新たなる大魔王となる……アンダースタンド?」
そうなってしまえば、再び人類と魔界の戦争が起こるというわけである。
つまり……
「ってか、あんたの妹を助けるとか助けないとかそういうレベルじゃないじゃん!」
そう、もはや事態は世界の今後を左右させるほどまでになっているのである。
それを理解してチューニは涙を流しながら叫んで、ジタバタのたうち回った。
「だいたい、誰なんで! そんな五大魔殺界に余計な情報を与えたっていう人間は! とんでもない奴だし! ……ん?」
「「「…………あっ……」」」
そして、チューニがそう叫んだ時、チューニはハッとし、そしてジオとマシンとガイゼンもあることに気づいた。
このとき、四人の脳裏には、ある人間の邪悪な笑みが思い浮かんだのである。
――あとがき――
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