第182話 動き出す
「……つか、一人しか思い浮かばねぇな」
「い、いやいや、でも、いくら『あの人』でもそんなことする理由が……」
「理由が無い……と? そうだろうか?」
「確かにのう。理由ならあるではないか」
四人は同時に同じ人間が思い浮かび、そして理由も何となく理解できた。
「そ、そう言われたら僕も何となく分っちゃったかもなんで……」
「くはははは、だろ? なら、試しに仮に『あいつ』の仕業だったとして、『何で』あいつがこんなことをしたのか、『いっせーのせ』で言ってみようぜ?」
そして、ジオたちは互いに顔を見合って……
「「「「いっせーのっ、『面白そう』だから」」」」
と、理由も四人とも全く同じことを思い浮かんだのだった。
「くははは……だろうな」
「やっぱ……あの人……」
「理解できない男の動機を当ててしまったというのも複雑だ……」
「ぬわはははは、まぁ、なかなかイカれた男じゃったからのう」
そもそも、オシリスとて元を辿れば『あの男』と繋がりがあった。ひょっとしたら、昨晩のオシリスの暴露も全てが今回のことに繋がっているとしたら?
「フェイリヤは……あいつの妹なのに……な~んも知らなそうだな」
「そりゃ、お嬢なんで……」
「セクも知らなそうだな。元々、興味ないのかもしれないが」
「恋する乙女は盲目というからのう」
今もジオやチューニを探して街中を走り回っているフェイリヤとセク。
しかし、二人の様子を見る限り、明らかに今回のことを知らなそうであり、あまりにも能天気な二人に、ジオも溜息を吐いた。
「ワッツ? どういうことだ?」
「俺たちの知り合いに……一人居るんだよ。五大魔殺界に余計な情報を与えてこの状況を作り出した、アホな人間。その容疑者がな……」
「ッ!?」
「まぁ、まだ疑惑ではあるし、何か確証があるわけでもねーが……ハッキリ言って明らかに黒に近い黒幕ってやつだな」
そんなジオたちのやりとりに一人首を傾げるキオウに、ジオは苦笑しながら教える。
まだ、「疑惑」でしかないと前置きをする。
だが、それでも四人はどこか確信めいていた。
「フィクサ……あの野郎……」
全てがあの男の考えなのだろう、と。
「ぬわはははは、とはいえ、今この場で本当にあやつかどうかの話をしても仕方なかろう? 問題は、これからワシらはどうするか、ではないかのう? 話を聞く限り、その五大魔殺界はいつ動き出してもおかしくないのじゃろう?」
そう言って、ガイゼンは一旦その話は置いておき、まずは自分たちの今後についての話を口にした。
それはジオたちも納得しており、各々の考えがある。
「五大魔殺界ねぇ……。まぁ、今更ハウレイムがどうなろうと、地上が戦争になろうと、どうでもいいっちゃいいんだけどな」
「いやいや、リーダー!? 地上が戦争になったら一体どうなっ……でも、五大魔殺界と関わりたくないよー!」
「ハウレイムが滅ぶ……か……」
考えはバラバラ。しかし、前向きにこの件に関わろうという意見は出なかった。
するとそのとき、ジオがあることに気づいてキオウに尋ねた。
「そういや、キオウ。そもそも、お前の妹……魔王軍の元将軍って言ってたが……誰なんだ? 名のある将軍なら、俺も知っているんだがな」
そもそも、今回の「妹を救って欲しい」という依頼の要因となった、キオウの妹とはそもそも誰なのか?
「ああ、まだ言ってなかったな。ミーの妹は……元・七天大魔将軍……クッコローセ!」
「「「「……おぉ……」」」」
こちらもまた、五大魔殺界に負けないほどのネームバリューだった。
「よ、よりにもよって、あの『運命反逆者』がお前の妹かよ……つか、やっぱお前は只者じゃなかったんだな」
「なんで、僕でも知ってる大物ばかり……」
「オーライのやつは、クッコローセも口説いていたのか……」
「ぬわはははは、七天か。ワシの後輩がそんな悲劇に巻き込まれておるとはのう」
もはや、事態は「一人の男の妹を救う」のレベルを遥かに超え、魔界や地上の今後の命運を左右させるほどの大物たちが関わっていたのだった。
「そういや、ポルノヴィーチたちが言ってたな。クッコローセは戦後に地上と魔界の間を取り持つための大使になったって。なら、勇者の嫁になるってのもおかしな話じゃねーわけか」
「イエス。戦争に敗れたとはいえ、それでも結婚というものに憧れていた妹にはハッピーな話でもあった。しかし……」
「まあ、俺らの所為でダメになったかと言われたら微妙なところだが……無関係かとも確かに言えないっちゃ言えないかもしれねーな」
大まかな状況を把握したジオたち。その上でどうするべきなのか?
「ただ、そうなると魔界に行くってわけか……そういや、俺も魔界には行ったことねーんだよな。戦争はどうでもいいが……興味はあるな」
「僕みたいな人間が魔界に行ったらすぐに殺されちゃうと思うんで、やっぱり反対!」
「オーライをああしてしまったのは、自分の責任でもある……」
「ぬわははは……魔界か……血ィ沸くわい。ましてや、ワシらが原因で一人のオナゴが不幸になると言われてしまえばのう」
一人だけ乗り気なガイゼン以外はまだ答えは出ない。しかし、それでもジオとマシンは何となく気分は前向きになっていた。
すると、その時だった。
「……むっ」
キオウが何かに反応。突如服の内側を漁り出して何かを取り出した。
それは、掌に収まるぐらいの大きさの水晶だった。
そして、その水晶は何かに反応しているのか、点滅して光っていた。
「……へい、ミーだ」
『お~、しもしも~、キオウくん。私だよ~♪』
「「「「ッ!!??」」」」
水晶に向かっていきなりキオウが喋りだすと、水晶から声が返って来た。
それも、女の声である。
「……通信を兼ねた魔水晶か……」
魔力を使って遠くに居る者と話が出来るマジックアイテム。
突如目の前で何者かと会話を始めたキオウに、ジオたちが黙って見ていると……
『ねえ、昨日……地上でなんかあったの? 今、ちょっと『例のチーム』が慌しく動き出してんだけど』
「イエス。ビッグトラブルが……」
『マジでぇ? いや~、『新政府』の方も慌しいみたいだよ? なんか、危なくなりそうだし、巻き込まれないうちに地上に帰ろうっかな~って思ってるんだけど……ひょっとしたら、今日明日にでも、『例のチーム』が動いて、君の妹ちゃんや新政府に……』
会話からして、キオウの友人であると同時に、魔界の状況にも精通している相手というのは伺えた。
そして、キオウは少し唇を噛み締めながら……
「オーケー。……ミーもすぐにでも動く。『フリーダ』、ユーもこれ以上のデンジャラスに巻き込まれる前に、エスケープしろ」
『もちのろん』
その会話を最後に、通信が切れた。キオウは一度溜息を吐きながら魔水晶を服に戻して、ジオたちに顔を向ける。
「今のはミーのフレンド。先ほど話した、魔界に居るミーのフレンドだ」
「魔界に?」
「イエス。彼女は人間だが……魔界にある遺跡調査のために魔界に滞在している……名は、『フリーダ・ボヤージュ』。ミーと同じ、十賢者の一人にして、序列九位だ」
「十賢者!? 魔界に居る友達って、人間だったのかよ! しかも、十賢者?」
「イエス。ミーは魔界に居るフレンドを一言も魔族とは言ってない」
そういえばと、ジオとチューニも互いに見合い、自分たちは今日まで十賢者の九人まで会ったが、まだ最後の一人は会っていないことに気づいた。
その一人がまさか魔界に居て、今回の話をキオウに伝えていた人物とは思っていなかった。
「ったく……で、ひょっとして今の女が言っていた、『例のチーム』ってのは……」
「イエス。五大魔殺界の者が率いるチームのこと……」
そして、ついに明かされる、この世の行く末を左右させようという五大魔殺界。
それは……
「五大魔殺界……『禁断異端児・ジャレンゴク』の率いる……『邪気眼魔竜冥獄団』だ……」
ジオたちは当然、その五大魔殺界の人物については名前を聞いても知らない。
だから、チーム名を聞いても分らない。
だが、それでも思った。
「「「なんだ? そのチューニが好きそうなチーム名は?」」」
「か、カッコいい! な、なんてカッコいいチーム名!?」
呆れるジオたちの傍らで、これまで涙目で騒いでばかりだったチューニが、初めて目をキラキラと輝かせていた。
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