第177話 不吉な音

 鬼族。

 ジオは戦争で過去に何人かと戦った記憶はあった。

 しかし、過去に出会ったどの鬼たちとも異質な雰囲気を出すキオウという存在を、まだ推し量れずに居た。


「勇者のメッキを剥がしたか……確かにそれは俺たちがやった……そして……そうか。さっきの、オシリスのアホの所為でそのことが知られちまったんだな」


 ワイーロ王国にて明るみになった、勇者や過去の戦争での真実。

 あのことがついに世界に知られてしまったのだと、ジオたちはようやく理解した。

 だが、正直そのことについてあまりどうとも思わなかった。


「まあ、世界の奴らはビックリしただろうが……別にだから何だってんだ? 勇者が大魔王を倒したのは事実だし……そりゃ、天変地異を自作自演でやられた連中は怒るかもしれねーが……そんなもん、俺らが知ったことかよ」


 別に自分たちにはどうでもいいこと。そもそもが自業自得。


「全部勇者の自業自得だ。そんなもん、俺らに言われても関係ねーよ」


 そのことで、「責任を取れ」と言われたところで、ジオにとっては関係ないものであった。



「関係ない……か。なかなかクールなことを言う。最も……最近では何事にも無関心なだけでクールともてはやされるヤングマンが多くなり、辟易していたが……ふふふ、ユーはもっとホットでヒートな熱血ヤンキーだと思っていたが、見込み違いかな?」


「あ? 何に熱くなるかは自分で決めるさ。戦争だろうと喧嘩だろうと女遊びだろうとな。だが、勇者に関連するものはどうでもいいし、関わりたくもねえ。そういうことだ」


「ふふふ、そうか……」



 ジオの言葉が意外だったのか、キオウは大げさに両手を広げて笑った。


「まぁ、ミーも戦争にも関わらなかった身。あまりユーたちのことを強く言うことはできない。今回、ユーたちを助けたのも、面白いライブを見せてもらった礼であり……ユーたちが責任を取る気が無いのなら、仕方が無い……だが……」


 そして、ゆっくりとジオへと歩み寄りながら……


「だが、それでも全てはユーたちから始まった。マシン……そしてジオ……世界に明かさなければノープロブレムだったものを明かしてしまった」

「……んだと?」

「それにより、ある一人のウーマンが……バッドエンドを迎える……。その発端がユーたちだと思うと……ミーとしては複雑だ」


 掴みどころの無い、陽気で、そしてどこか謎めいた雰囲気を出していたキオウだったが、ジオの眼前に立った瞬間、その瞳の真っ黒いメガネを外した。

 そこにあったのは、鬼の瞳ではなく、どこか切なそうに苦悩し、そして何かに縋るかのような男の目……


「本音を言うなら……今から起こるカオスから……ミーのファミリーを救って欲しい……そう思った」

「……はぁ?」

「幼いとき……魔界のホームから飛び出して、フリーダムを求めて地上に旅立ったミーと違い……命と人生を費やして戦い続け、ようやくハッピーになるかと思えば……バッドエンドを迎えてしまう……ミーのシスター…………妹を……」


 妹。家族を助けて欲しい

 そう漏らしたキオウの言葉は、ジオにとってはまるで意味の分からないものであった。

 何故、勇者の真実を明かしてしまったことで、自分たちが責任を取らねばならないのか。

 何故、勇者の真実が明らかになったことで、キオウの妹が不幸になってしまうのか。

 まるで理解できなかったが、それでもキオウが本心で自分たちに助けを求めていることは理解できた。


「……よく分らねえな……キオウ……つったな? 何で俺らが手ぇ貸さねーといけないのかがまるで理解できねーが……そもそも……お前、結構強いだろ? そのお前が、今日初めて出会った俺らにまで助けを求めようなんて……どういうことだ?」


 そう。キオウは今、音の力でエイムやギヤルなどの魔導師を一瞬で眠らせた。

 その力に加え、単純に佇まいや身に纏う雰囲気から、ジオもキオウから底知れない、強者の気配を感じ取っていた。

 だが、それほどの存在でありながら、次の瞬間には切ない顔で助けを求めてくる。

 まるで意味が理解できないジオに対し、キオウが返した答えは……


「理由はシンプルだ。ミー一人では……どうしようもないパワーが相手だからだ」


 それは、本当に単純な理由で、しかし非常に重い言葉だった。


「うえ!? こ、この人が……どうしようもない敵? どういうことなんで! だってこの人、こんなに強いのに……」

「……そして、それほどの力を持ちながら、自分たちが原因でこの男の妹がこの男でも助けられない窮地に……ということか?」


 キオウの言葉に、チューニもマシンも驚きを隠せない。


「イエス。ベリーストロング……そして、ベリービッグな勢力……。新たなる魔界の支配者になるべく台頭した……」


 恐らくは強いはずのキオウですらどうしようもないというほどの力。

 それは……



「ほほう、なるほど。それは、ワシも興味が沸くのう」


「「「ッッッ!!!???」」」



 次の瞬間、圧倒的な野生と武の圧迫感が、辺り一面を包み込んだ。


「ようやくたどり着き、みんなで乱痴気騒ぎでもしているかと思えば、みんなおねむ……かと思いきや……圧倒的な強者の話題か……良いタイミングで間に合ったようじゃな」


 強烈なプレッシャーと共に、空気がビリビリと弾け飛ぶ。


「おー……アンビリーバブル……モンスター?」


 その圧倒的な存在に、思わず頬に汗をかいて呆れた表情を見せるキオウ。

 一方で……


「うわ……おま、……ちょ、待て。色々と待て」

「あああああ、来てくれた……って、ちょっと待って欲しいんで! 何を担いでるの!?」

「……孤児院を担ぎながら、予定よりも早い到着時間。流石だな……」


 その怪物を良く知るジオたち……だったが、ジオとチューニは現れたその怪物が頭上に担いでいるものに驚愕。

 そして、マシンも苦笑する。



「ぬわはははははははは、ようやく会えたな、リーダー、そしてチューニよ。なかなか愉快なことをしていたようじゃな。あっ、ワシが担いでいるコレか? コレは、今度この街に引っ越す予定の孤児院じゃ。道中偶然出会い、引越しの手伝いをしてやってるのじゃ」


「「いやいやいやいやいや!!??」」



 孤児院。正に建物丸ごと担いで現れたガイゼンに、キオウとの会話がすっかり頭から飛んでしまったジオとチューニ。 

 とはいえ、これで一週間ぶりに四人全員集合した、ジオパーク冒険団。

 そして……


「ったく、相変わらず訳の分らねえことをしやがって……一体……ん? ……ッ!?」


 ジオはガイゼンが担いでいる孤児院を見上げ……


「……どうした? リーダーよ……」

「……おい、ガイゼン……」

「ん?」

「この中に……誰か……居るのか?」


 ハッとしたようにジッと建物を見つめるジオ。

 すると、ガイゼンは何かを察したかのように目を細めて……



「おお、おるぞ。シスターたちに……孤児の子供たち……あと、シスターではないが、子供たちの面倒をみている……別嬪なオナゴが一人のう」


「…………ッ……」



 その言葉を聞いて、複雑な表情を浮かべるジオは舌打ちし、そのまま背を向ける。


「なんか……今日は色々と疲れちまった。せっかく集合したが……もう、今日は終いだ。帰って寝ようぜ」

「リーダー……ふん……そうか……」

「おい、キオウ。テメエの話も……まぁ、俺らには関係ねーが、明日暇だったら聞いてやる。それでいいな?」

「……ん? イエス……」


 ジオは頭を掻き毟り、今、何かを考えるのはもう嫌だと、考えることを放棄した。

 そんな今のジオの事情を知るのは……


「ぬわはははは、まあ、仕方ないのう……オナゴを抱けるようにはなっても……まだまだ、拗ねておるようじゃな」


 ガイゼン。

 そして……


「…………じ……お……」


 ガイゼンが担ぐ孤児院の中で、窓から外を覗き見ながら、大粒の涙を流して唇を噛み締める、一人の女だけだった。





――あとがき――

お世話になります。昨日も紹介いたしましたが、下記の短編もよろしくお願いします。



『神界から派遣されたチートの回収者』

https://kakuyomu.jp/works/16816700429644745450



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