第108話 ボスの責務

「でゅえへへへ、カイゾ~、相も変わらずわらわをイカせることができる……そう、イケる顔。すなわちイケメンなのだ! 鍛え抜かれたその鼻も、太くてデカくて硬くて長いのだ!」


 デレデレにいやらしい笑みを浮かべた奇怪な少女。しかもその身に漂う雰囲気は怪しさだけでなく、溢れる力は並々ならぬものだった。


「……変態的な容姿でも……なるほどなぁ。あの目はエロいだけじゃねえ。あらゆる自分の我儘を貫き通そうとする目だ」

「なるほどの~。五大魔殺界か……面白そうじゃな。酒でも飲み交わせば三日三晩猥談を続けられそうじゃ」

「……九つの尾……九尾か……」


 怪しく変態的ではあるが、それでも間違いなく強い。それはハッキリとジオたちも感じ取って、何が起きてもすぐに動き出せるように身構えた。

 だが、ポルノヴィーチはジオたちよりも、カイゾーに執心。そして、カイゾーから視線を逸らしたかと思えば、向けられた先には九覇亜の四人。


「でゅえへへへへへ、にしても、四人とも……使命は達成できなかったみたいだが……雌の顔つきをしておるのだ。ナニかイイコトあったのだ?」


 ニタニタとした怪しい笑みのまま四人に尋ねるポルノヴィーチ。

 すると、四人はビシッと正座。なんと、ジオの膝でだらけてたオシャマも尻の痛みに耐えながらコンたちと並んで正座してポルノヴィーチを見上げた。


「ボス……申し訳ないです、コンコン。ですが……私たち四人……イイ人が見つかったのです、こんこん!」

「ッ!? ……ぬわにいっ!?」

「だから、ぼ、ボスの使命を全うできず、男に走りました!」


 誠心誠意謝罪する。

 すると、ポルノヴィーチはコン、タマモ、オシャマを見渡した後、イキウォークレイを見てギョッとした顔を浮かべた。


 

「バカな!? コンたちならまだしも……イキウォークレイにイイ人だと!? それは……どんな聖人なのだ!? もしくは、結婚詐欺とかではないのだ? ひょっとして金を払ったりしてないのだ? もしくは……また妄想か!? わらわが魔界で週刊連載している瓦版、『中年モンスター娘の一人メシ』はどうなるのだ?」


「ボス。驚かないでください。ウチもついに念願叶って……って、あれを連載したのは、やっぱテメエかこのクソチビババア! おかげでウチはもう魔界で歩くだけでガキにからかわれたり、知らないおばさんに慰められたり、イジられまくってんだぞ、ゴラア!!」



 途端に体を伸ばして屋根の上に居るポルノヴィーチに詰め寄るイキウォークレイ。だが、ポルノヴィーチも身を乗り出してイキウォークレイの額に自身の額をぶつけるように睨みつけた。


「何を言うのだ! お前はもう彼氏も旦那もできないゆえにこれから一人で孤独に独身自慰人生を過ごすのだから、わらわがその人生に少しでも盛り上げられたらと思ってしてやったことなのだ!」

「余計なお世話だ! だが、残念だったな! ウチはもう旦那ができて、テメエが弄ることもできないハッピーライフ確約なんだからよ! ざまぁ!」

「んなにいいいいいっ!?」 


 組織のボス相手でありながらも、荒い発言をしていがみ合うイキウォークレイ。

 互いの殺気を滲ませた空気がぶつかり合っていた。

 すると、そんな二人を割って入るようにコンが……


「どちらにせよ、申し訳ありません。私たちは……殿方に……この坊やに溺れてしまいました!」

「うぅ……すみませんです、ボスぅ……マシンさんの超絶豪キンはバレないようにしないと……」

「ボス……オシャマのお婿さん紹介する……」


 どちらにせよ、自分たちはポルノヴィーチの期待に応えられなかった。そのことを土下座して頭を下げるコンたち。

 だが、その謝罪を受けたポルノヴィーチは、イキウォークレイの横をすり抜けて、コンたちの前に飛び降りたと同時に、


「いやいやいいのだ。オスが理由なら仕方ないのだ!」


 と、むしろどこか嬉しそうにしながら頷いた。


「わらわが常に言っておったであろう? 命長くも恋せよ乙女。よく人間は……魔族と違って寿命が短いから、その短い人生を後悔しないように全力で生きるとドヤ顔で言ったりする。しかし、そんなもの魔族も同じなのだ。寿命が一年でも千年でも、本気の想いは何を捨ててでも全力で貫くこと。むしろ殺されさえしなければ、果て無き永劫に続く人生。その人生を孤独な独身生活で過ごすという地獄にならぬよう、長い人生だからこそ全力で生きるべきなのだ!」


 腕を組み、笑顔を浮かべながらも、コンたちの謝罪に対して嬉しそうに涙を流しながらそう答えるポルノヴィーチ。

 その言葉にコンも涙腺を潤ませていた。


「……変な奴だけど、意外にいい奴か?」

「……どうしてだろう。恰好が全てを台無しにしているが……」

「うむ、まっとうなことを言っておるわい」

「何を言う、暴威! それに先輩も! あやつの恐ろしさを知らないからそんなことを言えるゾウ!」


 悪の組織のボスであり、かなり淫乱だという存在でありながらも、仲間に対して器の広い発言をするポルノヴィーチに、ジオたちも予想外で戸惑ってしまった。

 そして同時に、「これなら話し合いも通じるのでは?」という想いも抱いた。

 すると、ポルノヴィーチは突如あたりを見渡して、


「さてさて、そうは言ったものの……わらわのかわいい同胞たちには祝福送りたいものの、相手のオスが何者かを見極めるのもわらわのボスとしての務めなのだ。イキウォークレイを騙して金を巻き上げようとする輩やら、コンたちを篭絡した輩は……お前たちか?」


 そう言って、ジオ、マシン、ガイゼン、そして失神しているチューニを見た。


「……いや、お、俺は別に……つか、全力で拒否したいだだだだだだだだ、おま、クソガキ、噛むんじゃねえ!」

「自分はそういった関係を築く気はないが……」

「あっ、ワシは別に騙す気はないぞ? ラミアの娘ももらってやるわい。ただし、他にも嫁を作るがのう」


 そう言って、ポルノヴィーチに対して各々の反応を返すが、ポルノヴィーチはジオたちはジッと見つめたまま顎に手を当てた。



「ふっ、なかなか尖がった三人のようだの。だが、わらわは別にお前たちがイキウォークレイたちに対して真面目かとか、本気かとか、遊びかとか、体目当てとか、金目当てとか、そんなん正直どーでもいいのだ! ……って、正気か!? あんな中年ラミアを嫁にするとか、貴様はどこの聖人なのだ!?」 


「ババア、テメエウチに何か恨みでもあんのかこの野郎ううう!?」


「……コホン……あ~、まあ、イキウォークレイたちが「この人なら騙されても構わない」と思えるぐらい本気なのだとしたら、そこはわらわが口を挟むところではないのだ」



 ポルノヴィーチがジオたちを観察するようにジッと見つめ、ジオたちの意志ではなく、『何か』を見定めようとしている。


「長き不安定な情勢が続き、更には魔王軍崩壊からも魔界の更なる混乱や治安の悪化は不可避であり、その時に力無き女たちの辿る未来は悲惨なものなのだ。好いた男と結ばれる。自分の意志で相手を選ぶ。そんな乙女の願いを踏みにじるような鬼畜極まりないクソ共に傷つけられるオナゴを守るため、わらわは全てのオナゴの味方・ウーマンダムと、オナゴが安心して生活し、逞しく、そして幸せに生きられる。地上と魔界にそんな魔族のオナゴのための理想国家建国を目指したのだ。ゆえに、幸せな恋を見つけたのなら、わらわは全力でそれを応援するのだ」


 口に出されるポルノヴィーチの想いや考え。そこには、「なぜポルノヴィーチはこの国を支配した?」に通ずる答えもそこにあったことにジオたちは気付いた。


「女の友情よりも、恋を見つけて優先させたお前たちを、わらわはむしろ嬉しく思い、誇りに感じる。そんなお前たちだからこそ、これからの時代を生きる多くのオナゴたちの希望となれるのだ」


 この女は、本当に仲間の女たちのためを考えている、と。


「まっ、そのためにも……メムスは是非ともわらわの手元に置いておきたいが……今は、こっちの見極めが優先なのだ。こやつらに、わらわのかわいい同胞たちを預かるにふさわしい……最低限の幸せを与えられるかどうかの『あの資質』があるかどうか、なのだ!」


 そして、その想いからポルノヴィーチは真剣な表情になり、突如九つの尾を同時に逆立たせた。



「試してやるのだ。ウヌらのオスとしての資質をな。まぁ、約一名は試すまでもないと思うが……どりゃ!」


「「「ッッッ!!??」」」



 次の瞬間、ポルノヴィーチの全身に魔力が漲り、弾け、そして桃色の霧のようなものが村全体に広がった。


「なっ?! こいつ、何を!?」

「毒? 違う、これは……?」

「む? この匂い……魔力……」

「ポルノヴィーチ、貴様、何をするゾウ!?」


 いきなりの攻撃。すぐにでも対処できるように身構えていたが、まさか霧状の全体攻撃だとは思わず、ジオたちの行動が遅れた。


「ボス、こ、これは!? こんこん……」

「ウチらまで!?」

「はううう、ボスううう!?」

「あっ……」


 そして、その全体攻撃はコンたちにも影響を及ぼすものなのか、四人も顔を青ざめさせる。

 仲間のために生きる女かと思えば、仲間を巻き込むような攻撃をする。その行動の意味がまるで分からぬまま、その攻撃による変化がすぐに表れた。


「う、あっ、があっ!?」

「おい、お前、どうしたんだ?」

「こっちもだ! 俺の女房が!」

「おばば、急に苦しみだして……何が?」

「ひっぐ、ロウリ……くるしいよ~……」


 口元を手で覆い、霧を吸い込まないようにしていた村人たちだったが、突如村の「女」たちが激しく息を切らせて、苦しむように胸を押さえながら地面に膝をついた。


「みんなあ! くっ、おい、貴様ア! みんなに……な、にを……ぐっ、わ、我も……うぐっ!?」

「メムス様ぁあ!」


 そして、それはメムスにも影響を及ぼし、メムスも激しく息を切らせながら胸を押さえて蹲った。


「はあはあはあはあ……熱いです、コンコン」

「うぬぐっ、ご、この、ババア、う、ウチらにまで……」

「だ、だめですう、わ、わたし、心臓が、バクバクで、こわれちゃうですう」

「ムコぉ……ムコぉ~……」


 九覇亜の四人も同じ。正座の姿勢から崩れ、四人とも苦しみだした。


「……貴様……おい、何をした? ワシの子孫に何をしたのじゃぁ?」

「おっ?」


 その場に居た全ての女たちが体に何か異常を起こして苦しみだし、その中にはオシャマも含まれていた。

 その状況を目の当たりにしたガイゼンが、初めて見るほど殺気と怒気の溢れた瞳でポルノヴィーチを睨みつけ、その威圧感を受けてポルノヴィーチも邪悪な笑みを浮かべ返した。


「ほほぅ。怪物がおったが……でゅえへへへへへ」

「おい。ワシの質問に答えんか? 十秒以内に答えねば、ウヌの全てを消し去るぞ?」


 ポルノヴィーチもガイゼンの存在、そしてその強さを瞬時に感じ取ったはずだが、特に憶する様子はなく、ただ笑みを浮かべたまま……



「でゅえへへへ、怒るななのだ。安心せよ。これは別に毒ではないので死にはせん。ただ……ちょっと、オナゴたちの肉体に影響を及ぼして、刺激するだけなのだ」


「……刺激じゃと?」


「そう。それはすなわち!」


 

 なんの悪びれもなく、むしろ上機嫌に語りだすポルノヴィーチは、この状況について……






「オナゴは発情して、めちゃんこエロくなるのだ!」




「「「( ゜д゜)??」」」




「鳴かぬなら、犯してしまおう、男の子……な~のだ♪ さあ、オナゴに最低限の幸せを与えるための資質……すなわち、腹が減ったオナゴを養うことが出来るかどうかなのだ! さあ、見せてみるのだ!」





 そして、その言葉とともに……


「あなた~! あたし、はあはあ、熱いのぉ、熱いのおお!」

「ちょ、うおおおお、こんなみんなの前で脱ぐんじゃな、俺まで脱がすんじゃない!」

「あのね、こんなときに、ごめんね。でも、わ、わたし、小さいころからずっとあなたのこと好きで、もう我慢できない!」

「俺もお前のことは……って、いきなり押し倒さな……ぎゃあああ、喰われルウウ!」

「ふぉっふぉっふぉ……ワシも久しぶりに熱くなってきたのう」

「ぎゃああああああああ、おばばが脱いだあああああ!? おえええええ、気持ち悪い!」

「はあ、はあ、ロウリね、むずむずするの……はあ、う、こんなの、ロウリしらない、はじめて……チューニたすけて……」


 カオスが始まり……


「そして、エロスとは普段理性で抑えつけられているものなのだ。その理性を解放した時……人間はともかく……魔族はリミッターが解除され、本能と共に眠れる力を解放する。さあ、その力と想いを受け止められるかな?」


 同時に、ポルノヴィーチ以外のその場に居た『魔族』の女たちの表情と瞳と、そして雰囲気にも変化が生じ、本当の戦いが幕を開けた。

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