第107話 五大魔殺界
「はっ? 迷惑をかけるのが嫌だったら、さっさと降伏して身を差し出せよ。お前の存在はとっくに迷惑なんだから、今更だろうが」
「んなっ!!??」
「「「「「ちょっ!!!???」」」」」
どんなに綺麗ごとを言おうとも、メムスの意思がどうであれ、その存在が今回の問題を引き起こしていることに変わりはない。
「つかな! 人を散々こき使ったり、変態呼ばわりまでしておきながら、いきなり殊勝な顔して人に意見求めてんじゃねーよ! 俺だけでもお前は迷惑なんだから、この村の奴らからすればお前の存在なんてもっと迷惑なんじゃねーの?」
だからこそ、そこは誤魔化さずにジオもハッキリと言う。ただし……
「まあ、しかし……その迷惑を差し引いても……それでも渡したくないって言ってるんだから、お前の迷惑はかけてもいい迷惑ってことで、『それが許されている間』は、そこを汲んでやりゃいいんじゃねーのか?」
「……ジオ……」
「それに、カイゾーも嫁さんゲットできて丸く収まるだろ?」
「ちょ、ま、待つゾウ、暴威! 小生はまだ結婚するとは……」
迷惑なことには変わりないが、それでもメムスを渡したくないと村人が望んでいる以上、それでいいのではないかとジオは告げながら……
――私たちは、仲間でしょ? ジオ。ならば、堂々としなさい。この私が選んだ男なのだから。
――俺たちは、仲間だ! そうだろ? だったら、いくらでも命懸けてやるってんだ!
――半魔族なんて関係ない。ジオは我らの友だ! お前がどれだけ我らのために戦った? ならば、我等もそれに応えるさ!
――ジオ様……エルフの盟約に従い……そして私の気持ちに従い……この身も心も魂に至るまで……あなたのオモチャにしてください。
――隊長が人間か魔族かなど、拙者には些細なこと。生涯お仕えするでござる。
少し昔を……
「っどこいしょおっ!!」
「ッッ!?? な、なんだ? 急に……」
「……いや、なんでもねえ」
思い出しそうになった瞬間、ジオは自身の頬を強く叩いて、それを振り払った。
自分もかつて関わった者たちに、『変わらずに』そう言ってもらいたかったなどというしみったれたことは断じて思ってやるものかと、振り払った。
「……まあ、ぶっちゃけ俺はお前がどうしようがどうでもいいけどよ。ただ、『やっぱ迷惑だからお前出て行け』とかって、村の連中が手のひら返すのが嫌なら、さっさと出て行くってのもアリだと思うぜ? くははははは」
そう言って、邪悪な笑みを浮かべて、ジオは泣きそうになっているメムスの額を指で突いた。
すると、村人たちがそんなジオの発言に怒り心頭。
「な、ふざけんな! そんなこと死んでも言うかよ!」
「何があろうと、メムスは渡さないわ!」
「メムスは俺たちの娘だ! 血筋がどうとか、関係あるか!」
そんなジオのワザとらしい挑発に激しく反応する村人たちに、ジオはどこか切ない気持ちになりながらも、もう一度メムスの額を指で突き
「あっそ……。だそうだ。良かったな。一応、お前は死ぬまで迷惑をかけていーんだとよ。もっとも、実際はいつまで続くかは分からねーけどよ」
「む、ぬ、う……」
「大体、みんなの迷惑になるのが嫌だからとか、ええかっこしーんだよ。子作りも知らねえ、ガキの癖に。この泣き虫バカが」
「おまっ!? う~、だ、って……ぅ……ぅ~……」
なんだか、ジオにやり込められたかのように感じたメムスは、少しむくれたように頬を膨らませるが、同時に少し照れたように顔を赤くした。
「決まりじゃな」
そんなメムスの姿を眺めながら、ガイゼンは微笑みながら手を叩いた。
「では、コンよ。ポルノヴィーチとやらに交渉じゃ。カイゾーと結婚させてやる。嫌ならウーマンダムぶっ飛ばす。そう伝えてくれんかの?」
「って、先輩!? 小生のソレはもう確定でありますゾウ!?」
「か~、小さいのう。嫁の一人二人ぐらいよいではないか。男子三日会わざれば嫁増えるというように、どうせ嫁なんて自然にこれからも増えるんじゃし」
「おかしいゾウ! その諺はどう考えてもおかしいですゾウ!?」
話は決まった。
村人の今の生活を維持するには、ポルノヴィーチにはこのままこの国を支配してもらっておいた方がいいので、カイゾーとの結婚で我慢しろ。
そう、ガイゼンがカイゾーの意思を無視して決めようとしたとき……
「ハーメハッメハッメ、ハーメハッメハッメ、ルルルのル~♪」
―———ッッッ!!??
そのとき、鼻歌と呼ぶにはあまりにも怪しい雰囲気を醸し出す声が響き渡った。
「こ、これは!?」
「ハーメル王国のネオ国歌!?」
村人たちがギョッとした顔で辺りを見渡す。
ジオたちも「ネオ国歌?」と首を傾げるも、この怪しげな声の主を探す。
すると……
「まったく、わらわの到着待たずして先走りするとは……さては、欲求不満でヌレヌレであったな、我が愛しの同胞たちよ!」
そこにはまた、奇怪な幼女が家の屋根の上で高笑いしていた。
「でゅふふふふ。子作りの仕方を是非に詳しく知りたいと……そんな乙女の願いを聞いたらば、山を越え谷を越え、わらわはどこにでも現れる!」
体の大きさは、オシャマやタマモぐらいの大きさしかない。
だが、そんな幼い姿でありながら、恰好が異質。
半袖の短い羽織を、前のボタンや紐などを結ばずに肩に羽織るだけで肌を露出している。
ほんのり少しだけ膨らみのある両胸にはハートマークの形をした胸当てを貼り付けているだけ。
そして、そのハートマークは、少女の下半身の重要な所にも一つ張られているだけ。
それ以外は全て露出している少女は、コンやタマモ同様にフサフサの狐耳を生やし、長い髪を靡かせていた。
だが、一つだけコンともタマモとも違う点がある。
それは、フサフサの尾の「数」である。
「な、なんだ、あのとんでもない下品な恰好のガキは!?」
「いや、それよりも……」
「尾が……九本?」
そう、長いフサフサの尾が、九本に枝分かれしているのである。
突如屋根の上に現れたその少女を一同が見上げる中、村人たちは怯えたように顔を引きつらせ、そしてカイゾーが震える唇で呟く。
「突然変異の妖狐……九尾と呼ばれた怪物……五大魔殺界の一人……『超淫幼狐・ポルノヴィーチ』……だゾウ」
「「「ッッ!!??」」」
どう見ても、村の娘のロウリとも大して変わらなそうな年齢に見えなくもないものの、あまりにもとんでもない恰好をしているゆえに、何故かすんなり納得してしまったジオたち。
すると、ポルノヴィーチは屋根の上からカイゾーの姿を見ると、目じりと口元をいやらしく垂れさせて、発情した犬のように激しく息を切らせた。
「はっ、はっ、はっ、カイゾーなのだ! ぬおおおおお、相変わらずわらわ好みのめっちゃ卑猥な顔をしておるのだ! そ、その鼻を、その鼻を口いっぱい頬張って、歯みがきして、喉奥まで飲み込みたいのだアアアアア! でゅうぇへへへへへへ、わらわの顎がぶっ壊れて、昇天すること不可避なのだ~! 顔のカイゾー、下のカイゾー、一人で二度美味しいなんて、たまらんのだ~! あ~、アレもやりたいのだ……ゾウぐり返しでカイゾーを辱めた姿でじゅるじゅるしたい!」
「…………う゛」
「嗚呼。かわいいオナゴと擦り遊びをするのが趣味だったわらわが、唯一夢中になったオ・ト・コ! 正に、開いた口が塞がらぬのだ! わらわの……色んな口が! でゅえへへへへへへへへ」
カイゾーが心底ドン引きした表情で顔を青ざめさせた。その様子を見て、ジオたちは大体のことを察した。
「「「ああ……こういうタイプの女か……(ゾウぐり返しってなんだ??)」」」
ヤバイ女。それだけは間違いないと、ジオたちは理解したのだった。
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