第101話 襲撃する女たち
「朱色の竜……見たことねえ……いや、なんなんだあいつは!?」
地上にも魔界にも竜は生息する。
人の手の及ばぬ山奥や地の底に生息する竜も居れば、人の手によって飼われているものもあれば、軍事用に利用されているものも居る。
だからこそ、竜そのものは決して珍しい存在ではなく、ジオも何度も見てきた。戦ったこともあった。それこそ帝国の王族は地上世界における上位種の竜を使役していた。
だが、そんなジオも、現れた上空の竜に目を奪われた。
「魔界で最も好戦的な竜……『闘争竜』……だゾウ」
カイゾーは歯軋りしながら上空を見上げる。そして、その存在に気づいた瞬間、メムスや村人たちも腰を抜かしてただ言葉を失っていた。
「奴はオシャマ……それに、コンたちも居るゾウ! 奴らめ……一体、何を……?」
カイゾーが呟いたその言葉に、ジオも竜の背に乗っているコンの存在に気づいた。
雰囲気から、物見遊山という感じはしない。
すると、竜の背に乗っていたコンが立ち上がり、ニッコリと微笑みながら地上を見下ろし……
「ふふふ……カイゾー……かなりの痛手を負っている様子。これならば……これならば、プロフェッサーに……ポルノヴィーチ様を悦ばすことができます!」
コンはカイゾーしか目には入っていない。周りに居るジオや村人たちが視界に入っていない。
ただただ、その微笑みが黒い狂喜を感じさせ、そのどす黒い瘴気が村全体を包む。
そして……
「カイゾー……そして、メムス……頂戴します! ……弾けて、爆ぜる……泡魔法と爆発魔法の融合……ビット・バブルボム!」
紐アーマーというあまりにも露出した煽情的過ぎる恰好のコンが、体全体をくねらせた瞬間、コンの両手から泡が発生する。その泡がシャボン玉となって地上に雨のように降り注ぐ。
その瞬間、ジオたちは降り注ぐ泡の一つ一つに魔力が込められているのを察知し、咄嗟に迎撃しようと身構えると、血相を変えたカイゾーが真っ先に飛び出した。
「うおおおおおおお! メガ・フォレストッ!!」
メムスの家の庭から、一本の木が激しくうねるように空に向かって伸び、降り注ぐシャボンの泡を遮ろうとする。
そして、シャボン玉がカイゾーの発動させた木に触れた瞬間、シャボン玉が激しい爆音を響かせながら破裂し、木の盾を一瞬で砕いた。
しかし、攻撃を防がれたというのに、コンは涼しい顔をして余裕の様子。
「ふふふ、メガ級の魔法……それもかなり幹が弱い……やはり、相当弱っているようですね、カイゾー。……コンコン」
「ぬぬっ!?」
「あの冒険者たちはやはり、相当な実力者。あなたをここまで消耗させるとは。今のあなたならば、確実に……お持ち帰りできます、コンコン♪」
砕かれた木が地上に落下。同時に、コンは更なるシャボン玉の雨を降らして、カイゾー目掛けて放つ。
「ッ、メムス様!? 小生から離れるゾウ!」
「カイゾーッ!」
「って、お、おい、俺もか!?」
既に、ガイゼンとの戦いで力を使い果たしてダメージも大きいカイゾーは、もはやこれ以上防ぎきれないと判断し、隣に居たメムスと、「ついで」にジオをまとめてその場から放り投げた。
正直、ジオはこのままでは自分も巻き込まれると思って、自分がシャボン玉を迎撃しようとしていただけに、カイゾーの不意の行動に反応できずにメムスと一緒に乱暴に放り出された。
そして、その直後に、無数のシャボン玉がカイゾーの体に触れて、次々と爆発していく。
「うぐ、ぐ、ぐぬうおおおおおおおおおおおお!?」
「カイゾーーーーーッ!!!???」
「「「「ゾーーーーーさんっ!!!???」」」」」
爆炎に包まれて、カイゾーが苦痛の声を上げる。
「や、やめろ! カイゾーに何をするんだ! やめろ、やめてくれーー!」
カイゾーに投げ飛ばされたメムスがすぐに起き上がって、目の前の光景に悲鳴を上げるが、コンの攻撃は止まらない。
シャボン玉の爆発一つ一つは、掌サイズで弾ける程度のものだが、それが連鎖反応して生み出す爆発は一瞬でカイゾーの全身を包み込んだ。
「ふふふふ、ビット級の魔法も、こうして使い方次第ではメガ級やギガ級を上回る脅威となります。ビット級だからこそ、魔力の消費も少なく大量の連射が可能、……まさに……男女の営みで……男性が早くても、数で勝負するのと同じ理屈です、コンコン♪」
この爆発が続けば、カイゾーは間違いなく倒れる。だが、コンの目的はカイゾーを倒すことではなく、生け捕りにすること。
頃合を見て、コンはシャボン玉を止め、次の瞬間二人の女が竜の背から飛び降りた。
「ふははははは、七天カイゾー、その体……うおおおおおおおお、顔が男性の股のアレの形してるとか、貴様は欲求不満なウチになんという!」
「うっ、ぐっ……が……」
「許せん、成敗してくれる! ちなみに、ウチは独身で毎月の給料は300万マドカで貯金もあるから、主夫になりたい奴も募集中だ!」
やかましく笑ったり、なぜかいきなり不機嫌に怒ったりと騒がしくしながら、一人の魔族がカイゾーにそのまま襲い掛かる。
その姿を、カイゾーという異形の姿をした魔族をも受け入れた村人たちも、思わず「バケモノ」と悲鳴を上げてしまうもの。
上半身は人間の女の姿でありながら、その下半身は大蛇の胴体。
それは、ラミア。
そして、その動きもまさに蛇のごとく、ダメージでフラフラになったカイゾーの全身に絡み付いて、その太く長い体で締め付けていく。
「アナコンダツイストッ!! うおおおおお、男の肌アアア、筋肉ううううう、温もりイイイイイ」
「ぐっ、か、関節わ、ざ、ぐ、うぬごおおおおぅ!?」
「……おい、貴様……ウチと結婚する気あるか?」
「……ぐぬ、は、は? な……い……ゾウ」
「……誰が年増独身で体の長い女は嫌だ、コンチクショーーーーーー!」
「い、言ってな、ふごおおおおおっ!!??」
巨体と怪力を誇るカイゾーに、全身を締め付ける関節技を繰り出す、ラミア。
そして、どういうわけか、カイゾーの肌に触れて顔を紅潮させてウットリし、かと思えばカイゾーの耳元で何かを呟いた瞬間に、涙を流してカイゾーをより締め付けた。
更に……
「ひいいいい、イキウォークレイ様……こわいよ~……っ、そ、それに、やっぱり私なんかじゃ七天カイゾーとなんて戦えないよ~……」
ラミアに締め付けられて身動き取れないカイゾー。
その目の前には、カイゾーの膝ぐらいの高さしかないほど小柄な少女が着地した。
一見すると、ただの小さな少女。だが、その少女が穿いている短いヒラヒラのスカートから伸びる、ふさふさの獣の尾。それは、間違いなく少女が人外の証。
そして、少女は半泣きで怯えながら……
「こ、恐いから……眠っててくださ~い!」
突如、少女は両拳を上げ、徒手空拳で戦うものらしい自然な構えを見せ、そして地面に腰を落としてそこから一気に拳を天まで突き上げる。
洗練された動きと、小柄な少女とは思えないダイナミックな動き。
「あっぱーくらっしゅう!」
それは、狙い済ましたかのようにカイゾーの股間に向けて全力で突き上げられたアッパー。
その瞬間、その光景を見ていた男たちは股間を抑えて、自分がくらったわけでもないのに顔を青ざめさせた。
当然、それを受けた張本人は……
「ンゾオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!??」
正に、悶絶して撃沈した。
「「「「いてええええええ!? ゾーさんの股のゾーさんがああああああ!!??」」」」
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