第102話 命懸けのコンパ


 正に、流れるような襲撃であった。

 ただでさえ、大怪我をしていたカイゾーに奇襲で爆撃し、肉体を締め付けて身動きを封じ、そして急所に強烈な一撃を叩き込む。

 もはや、カイゾーの意識も薄れ掛けている。

 そこに……


「とどめ……年増、どけ」

「誰が年増だー! っていうか、殺すなよな!?」


 空からドラゴンが急降下し、その巨大な爪を振りかぶって、カイゾー目掛けて……


「や……やめろーーーーーーっ!!」


 このままでは、カイゾーがやられてしまう。メムスが決死の覚悟でそこに飛び込もうとした。

 しかし、



「闇と雷の融合……黒い雷……ギガ・ジオスパークッッッ!!!!」


―――――ッッ!!??


 

 その時、上空より降り注いだ暗黒の雷がドラゴンの全身を包み込んだ。



「ガグギャアアアアアアア!!??」


「ったく……『ただの村娘』がドラゴンに立ち向かうなんて勇気を見せるんじゃねーよ……まっ、嫌いじゃねーけどな」



 正に不意打ちの予想もしていなかった攻撃を受けたドラゴンは、激しく叫んで身を捩らせる。

 だが、寸前のところで攻撃を察知したと思われるコンだけはドラゴンの背から飛び降りて、同時に今の魔法を放ったと思われる人物を見て、ニコニコした笑みを止めて睨みつけた。

 それは……


「ったく……人が雑用を終えて、ようやくまったりできると思った瞬間に……邪魔してんじゃねえよ、アニマルビッチども」

「……あなたは……生きていらしたのですね……」

「ああ。お前らの詐欺のおかげで、色々とメンドーな事情に頭を悩ませてな」


 カイゾーに放り投げられたジオ。その姿を見て、コンは目を大きく見開いた。


「おい、コン。この男は何者だ? 今の魔法は? ……それに、この男の年齢は? 独身か? っていうか、半魔族か? 職業は? 恋人は居るのか!?」

「こ、こわい、目がこわいよ~……ぶるぶる、だ、誰ですか、この人……うえーーーん、あっちいってくださいいい!」


 突如、横槍を入れて現れたジオに対して独特の警戒心を剥き出しにするイキウォークレイ。

 そして、小柄な少女は……


「つぶれちゃえぇえぇ!」

「おっ!?」

「まっ、まってください、タマモちゃん!!」


 タマモ。そう叫ばれた少女は、鋭いステップでジオの真下に一瞬で踏み込んでいた。

 そして、カイゾーにやったときと同じように、ジオの股間目掛けて拳を……


「流石に、リーダーもそれは受けたらまずいだろう。自分は問題ないが……」

「おおっ!?」

「ろーぶろーっ、っ!??」


 タマモが繰り出した捻りも加えたパンチ。だが、それはジオに届くことなく、光速の動きで割って入ってジオを庇ったマシンが代わりに股間に受けた。


「おい、マシンッ!?」

「「「「マシンさんッ!!!???」」」」


 助けて入ったはいいが、マシンが代わりに股間を強打してしまった。男たちが再び顔を青ざめさせてマシンの名を呼ぶが、当のマシンは……


「問題ない」

「「「「「ッッッ!!!???」」」」」


 股間を強打しながらも、顔色一つ変えずにその場で直立不動であった。

 そして、マシンの股間を殴ったタマモは逆に……


「い、いた、いたっ、か、固い……あ、アソコが凄い固いです!?」


 打ち込んだ拳を赤く腫らして涙を浮かべるタマモ。

 攻撃したはずのタマモが逆にダメージを受けていた。

 その事実に、タマモだけでなく男たちも驚いた顔を浮かべると、マシンは淡々とした表情で……


「確かに大した打撃だが、自分にはその程度の衝撃では影響を受けない。自分のソコは超絶合金ファールカップを装着している」

「ちょ、超絶豪キン……でしゅか!?」

「そうだ。超絶合金だ」


 正直、その場に居た誰もがマシンの説明の意味が分からなかった。

 だが、ジオたちだけは「まあ、マシンだからなんか理由があるんだろ」で納得した。

 一方で、タマモは……


「じゅるり……ちょ、ちょうぜつ、ご、ごう、キンの……あ、アレでしゅか? タマ的な……」

「ん?」


 なぜか、急に顔を赤らめさせてモジモジとしだすタマモ。照れながら、マシンの股間をチラチラと見て、ごにょごにょと呟いている。


「わ、わたし、こ、これまで、お、おとこのひとのアレをぶん殴って、そしたらみんな、弱虫な私の前で倒れる情けない人しかいなかったのに……こんなに逞しい人……初めてでしゅ……」

「……?」

「ちょーぜつごうキン……きゃっ! だ、だめだめです、はずかしいでしゅう……でも、でも~!」


 そのとき、どうして「そういう状況」になっているのかは誰にも分からなかったが、照れながらマシンにうっとりとするタマモの姿に、その場に居た者たちは、何だかややこしい事態になったのではないかと感じていた。

 

「えええい、何をやってる、タマモッ! 甘酸っぱいなこの野郎、羨ましいぞコンチクショー! どいてろ! ウチがそいつらをヤル! ウチの前でイチャコラ許さんッ!」


 そんな状況に憤怒したラミアのイキウォークレイがすかさずマシンとジオを強襲しようとする。

 だが、


「ふごっ!?」

「まあまあ、少し落ち着いたほうがよいぞ? 甘くて酸っぱい果実は、まずは見て愛でねばのう」

「だ、誰だ!? う、ウチに触れる者は!?」

「それにしても……あの竜……見たことない種じゃが……何だか、懐かしい感じがするのう」


 カイゾーの拘束を解いて、地面を張って前進しようとしたイキウォークレイが突如引っ張られて動きを止められた。

 イキウォークレイが怒って振り返ると、そこには自分の尾を片手で掴んで引っ張る巨大魔族……ガイゼンが立っていた。


「貴様~~~! ウチの体に触れるとは良い度胸だ! 責任とってウチと結婚しなければ全身の骨を粉々に砕いて喰ってやるッ!」

「ん? 結婚か? 別にえーぞ?」

「おお、そうか! 誰が全長長い女はお呼びではな……い……へっ? ……えっ?」


 そのとき、イキウォークレイだけでなく、全員が「えっ?」となった。


「あ、でもワシ、他の女も抱くぞ? とりあえず、嫁は百人ぐらい作ろうと思ってるから、それでもよいか?」

「……………………あの……長い女でもいいか? い、いや……あの、よ、よろしいのでしょうか?」

「なんじゃあ、長いのを気にしておるのか? 乙女じゃの~」

「び、美少女乙女!? う、ウチが!?」


 今度は、イキウォークレイが顔を真っ赤にさせ、照れて蛇の体をクネクネと激しくくねらせた。

 その光景に、誰もが呆然とするしかなかった。


「な、なぜ、こんな……何が起こって……こんこん?」


 意気揚々と乗り込んできたはずのコンが、僅かな時間でこの状況に動揺してしまった。

 だが、何が起こっているか分からずとも、彼女のやることは変わらない。


「と、とにかく、カイゾーだけでも先に連れて行きます! 私だけでも、こんこん!」


 状況は明らかに予想外。しかし、今は弱っているカイゾーを攫うことが出来る千載一遇のチャンスと、コンは吠える。

 そして、自身の胸と股間を覆っている紐に手を当てて……


「今こそ、この紐アーマーの封印を解きます!」


 ただでさえ、ほとんど裸同然の姿のコン。少しでも紐をずらすだけで大事な箇所が見えてしまうというものを、むしろ自らその結び目に手を当てて解いていく。


「ちょ、おいおい、お前、何を!?」


 まさか、ここで全裸になる気か? そう思って男たちが驚きながらも微かに期待していると、コンは口元に笑みを浮かべて……


「ふふふふ、この紐アーマーは、私の全身から溢れる魔力をセーブさせる役割があるのです。膨大で制御しきれずに日常生活でも垂れ流してしまっていた魔力を抑えるためのもの……ゆえに、それを解いた時、私は真の力を使えるのです!」


 上と下。二本の紐を解いた瞬間、コンの豊満で扇情的な肉体が全て解放されるかと思った瞬間、コンの全身が眩く光り出して、皆の目が眩む。

 そして、その光が収まった瞬間、コンの体が泡で衣服のように覆われてしまい、たわわで弾力もありそうな胸や尻や大事な箇所が全て隠れてしまった。


「これが、私のバトルモード、泡姫です!」

 

 泡姫。そう告げるコンから発せられる空気は確かに先ほどよりも強く鋭いものであった。

 ジオも少し真剣な顔で身構えた。

 男たちはガッカリした。

 だが……


「ぬわはははは」


 そのとき、ガイゼンが笑った。

 そして、ジオとマシンは気づいた。

 ガイゼンは今、イキウォークレイの尾を片手で掴んでいる。

 そして、もう片方の手には……


「出番じゃ、チューニ! 男たちの希望に応えてこい!」

「ええええええっ!? あ、あの、あの、戦いは三人だけで」

「ほれ、チューニ大砲じゃ!」

「ぎゃあああああああ!」


 ガイゼンのもう片方の手には、チューニが掴まれており、ガイゼンはそのままチューニをコン目掛けて投げたのだった。

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