第43話 文書データと六号機
ジオたちも正直先ほどの光景には驚いたものの、自分以上に混乱して取り乱すフェイリヤを見て、逆に自分たちは落ち着いてしまった。
そして落ち着いた所で、もう一度改めて大ガラスへと視線を向け、一体何が起こったのかとマシンに問いただそうとすると……
「文書のデータ……これも復元できるな……」
そう言って、マシンが再び指先を動かすと、今度は先ほどの光景とは違い、ただ紋様の羅列だけがガラス一杯に写し出された。
【企画③箇条書きメモ】
・本調査及び研究を行うことは、人類長年の夢である不老不死というテーマにも大きな意義がある。
・世界の地上の下、つまり星の内部は空洞になっており、その空洞には地上とは別の世界が広がっている。
・空洞内部の世界では、人類と異なる種族が生息している。
・異種族は人類とは全く別の進化を辿り、知性を持ち、何よりも種族によっては長命である。
・異種族とは平和的な接触を図ることを前提とするが、護身のための兵器持ち込みは必須。
・研究開発中の生体兵器導入も視野に入れる。
・生体兵器導入によるメリット説明のため企画④に移行。
~~~~~~
どこまでも長々と続く膨大な紋様の羅列。
全てがジオたちには解読不能で、頭がクラクラするほどであった。
「おい、マシン。これは何て書いてあるんだ?」
「……一言で言うなら、この施設を利用していた組織のメモ書きだな……その後には、企画立案書の草案、研究報告書等が記されているな」
「ってことは、この長々と書かれているものは全部文字か? 何の企画で、何の研究で、つか……そもそもその組織ってのは何だよ。いい加減に、もったいぶんないで教えろよ」
結局のところ、ここに居たという組織とは一体何なのか? その問いにマシンはまっすぐ前を見たまま……
「National Galaxy Development Agency……という組織だ……」
マシンがそう答えるも、その名前を誰もが聞いたこともないと、首を傾げた。
「ナショ……ギャ……デブ? 聞いたこともねぇな……どういう意味だ?」
「そんな組織あったんで? こんな深海にとんでもない基地作るから、よっぽど大きな組織だと思うけど、聞いたことないんで」
「私もないです……」
「僕も無いさ。冒険団として恥ずかしいが……昔あった組織かな?」
そう、結局聞いたところで誰も何も分からぬまま、むしろ謎が深まるばかりだった。
だが、その時……
「……ん~、難しいことは、よー分からんし、そんな文字を見ててもつまらん……それよりもマシンよ……」
退屈そうにガイゼンが頭を掻きながらマシンに近づき、そして……
「こんなのより、さっきのスケベなオナゴの場面をもう一度出すのじゃ!」
「「「「ヲイイッッ!!??」」」」
そんなものより、さっきのラブシーンをもう一度出せと告げるガイゼンに一同は思いっきりツッコミを入れる。
すると、マシンは呆れたように溜息を吐くも、この文字をいつまでも見せていても仕方ないと思ったのか……
『モエてキマーす!』
再び先ほどの光景を写しだし、その瞬間、先ほどの女が満面の笑みで白衣を脱ぎ捨てて、自身の乱れた服のボタンを一つ一つ外していた。
「「「「おっ……おおぉぉぉぉ~……」」」」
すると、一度はガイゼンにツッコミを入れたジオたちだったが、ガラスに写し出された女の大胆な姿に自然と感嘆の声を漏らし、気付けば光景に釘付けになってしまった。
「ままま、またですのオオオオオオ!?」
「ちょ、リーダーさん! フラグ冒険団さんたちも、な、何やってるんですか!?」
「お嬢様がここに居るんですよっ!?」
再び蹲るフェイリヤを抱きしめながら顔を真っ赤にして怒るナデホとニコホの二人だったが、それでも男たちの視線は前を向いたまま……
「いや……お嬢様……こ、これは深海都市の調査の一環です」
「そうです。どういうわけか、この壁に写し出されている人たちはこちらに気付いていない様子」
「なら、どこに重要なヒントがあるか分かりませんし……」
「ここは調査の一環で見ましょう」
と、真剣な顔でそう答えたのだった。
だが……
『おーい、片づけは終わったのか……って、何をやっとるんじゃアアアアアアア!!??』
『ほ、ホワッツっ!?』
『わわっ、ティーウォーター博士ッ!?』
そのとき、突如その場に第三者が現れて、男と女は慌てて乱れた服を直して立ち上がった。
「「「「チイッ!!」」」」
男たちは露骨に不機嫌な舌打ちをするが、写し出された光景は続き……
『全く、片づけをサボって何をやっておるのじゃ! 地上の王国は既に引っ越しの準備も魔王軍の裏工作も完了し、明日には滅亡して消滅する準備はできているというのに、お前らときたら……セクハウラ!』
『ご、ごめんなさいデース……』
『それに、ショタリオン! お前は、紛失したプラズマセイバーは見つかったのか!? 片づけをしたら出てくるはずと言っておったが……』
『じ、実は……ま、まだです……』
『なら、早くせんかい! 地上と違い、この施設は頑丈に補強を重ねたので、爆破破壊することもできぬ。建物そのものはこのままにしていくんじゃぞ?』
現れた、第三者の男。老人で、頭の一部が禿げており、その態度から恐らくは男と女より立場が上の者と思われる。
『でも、ガッカリデース。せっかくワターシたちより前から何十年も続けてきた調査や研究……地上にワターシたちの国まで作ってこの世界に溶け込んでいマーシタのに、こんなに簡単に中断命令は萎えマース』
『仕方あるまい。どうやら、地上と魔界の戦争が間もなく本格化するのじゃからな。調査の報告では、魔界の魔力が枯渇していることからも、大魔王スタートは大規模な動きを見せるようじゃ。巻き込まれて死ぬわけにもゆかんじゃろうし、ワシらが本格的に戦争に介入するわけにもゆかんしな』
『それに、僕たちの研究や調査は非公式ですからね。使途不明金での予算も、最近追及が厳しいみたいだって話ですし……』
『そうじゃな。だが、そこまでガッカリするでない。数年後か十年後か分からぬが、戦争が終わって治安が安定すれば早く再開できるかもしれん……』
『いっそ、大魔王暗殺しマースカ? ワターシたちが開発した生体兵器なら、大量破壊兵器や大規模な軍を利用しなくても倒せるかもしれマセーン。そもそも、一号機は邪魔な大魔王を暗殺するために作ったものデース』
『ああ……核融合炉の暴走で山奥の研究所ごと消失消滅したアレか……失敗作だったとはいえ、何だかんだであの一号機が一番の成功に近かったから、惜しいわい』
結局、男たちが期待した展開は中断され、男と女と老人の三人の真面目な会話だけが続き、男たちは露骨にガッカリした。
そして、そんな心中などお構いなしに三人の会話は続いていた。
『残念デース。それに、ワターシが開発した『六番目の生体兵器ちゃん』が日の目を見るどころか、持ち帰っちゃダメと言われるの……』
『バッカモーーーン! あれこそ、研究開発費を無駄に使ったモノではないか! 必要もない機能を詰め込み過ぎたあんなもん、報告できるわけがないであろう!』
『そんなことアリマセーン! 強くてキュートで頑丈で、そして寂しい男たちを癒す機能満載デース!』
『無駄に強く頑丈にしたのが問題じゃわい! 兵器も機能も法に引っかかっておるわい! あんなの持ち帰ったら、ワシらはクビじゃすまんぞ!? おまけに、頑丈で破壊も廃棄もできんから、ここに置いていくしかない』
『でも、勿体ないデース。一号機同様にうまくいったと思ってマーシタのに。それに、搭載兵器のレベルは一号機よりも下デース』
『それでもじゃ。それに、一号機はある意味うまく消滅して隠滅できたから良いが、六号機はうまく破壊する時間もないからのう。まぁ、今の人類ではこの深海まで簡単に辿り着けんじゃろうし、一応扉もロックしておくため中にも入れんじゃろうから、隠しておいても問題ないと思うが……』
と、その時だった。老人が女に向かって激しく怒っている光景が写し出された時、マシンが驚いた表情で席から勢いよく立ち上がった。
「……な……なに? 六号機? ……ここに……置いていく? なら……あるのか? ここに……?」
真顔ではあるものの、どこか動揺した様子のマシン。
何か気になることでもあったのかとジオたちが思うと……
「うう~~~、もう終わりましたの? って、まだ先ほどの、おハレンチ女が写っているではありませんの、御マシンさん!」
耳を塞いで蹲っていたフェイリヤが、様子を窺うように顔を上げると、まだ女たちの様子がガラスに写っていた。
そのことに憤慨したフェイリヤは顔を真っ赤にして頬を膨らませながら歩き出し……
「はやく、こんなおハレンチ女たちなどどこかへやりなさいな!!」
「……ッ!? あっ、ちょっ……」
その時、入口の扉の時と同様にフェイリヤがマシンの前に割り込んで、マシンが触れていた机の窪みを横から無理やりテキトーに押し、すると男と女と老人たちの姿はプチっと消え、そして……
『プログラム認証しました。生体兵器……六番目(セックストゥム)を起動します……』
扉の前で壁の中から聞こえてきた無機質な声と全く同じ声が突如部屋に響き渡ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます