第42話 全ての謎に答える知識の本

 扉の奥に広がる暗黒の世界。


「ちょっと暗いですわね。せっかくこのワタクシが来たのだから、もっと明るく―――ッ!?」


「「「「ッッ!!??」」」」


 奥に何があるのか誰にも分からなかったが、すぐに異変が起こった。

 なんと、奥へと続く部屋が突如光が灯されて明るくなったのである。


「おーっほっほっほ! さすがはワタクシですわ! ワタクシの美しさは深海でも光を照らされるほどなのですわ!」


 それをフェイリヤは自分を歓迎されているものなのだと思い込んでいるようだが、当然そんなはずはないとジオたちは身構える。 


「そんなわけねーだろうが……それに……火が灯されたわけでも、魔法で照らされたわけでもねぇ……こりゃ、なんだ?」

「心配する必要は無い。害はない」

「ほほぅ……これは便利じゃのう。火でも魔法でもなく光を照らすのか……」

「いや、ほんとマシンは何を知ってるんで? てか、本当に害は無い? 敵は居ない? 誰も居ない?」


 照らされた奥へと続く部屋……というよりも、廊下のように奥まで続くその道は、その途中の壁にはいくつもの扉があった。

 試しに一つの扉を開けてみる。


「これは……部屋か?」

「何もありませんわね。つまらない部屋ですわ」


 いくつもある扉の向こうは、適度な広さのある部屋になっていた。

 鉄に似た物質で作られているが、中にはベッドや机と思われるものがある。

 しかし、それ以外は特に目に付くものは無く、ガランとしていた。


「他の部屋も見てみようか?」

「ああ、……ん~、こっちの部屋も同じで、特に何も無いな~……」

「こっちも同じだ! それにしても、本当に何も無いし、何も出てこないな~……」

 

 特に何も無い。ここまで来て何も無いわけは無いだろうと思って、フラグ冒険団たちも小走りで他の部屋を確認に向かうが、そのどれもが同じ作りで、同じように部屋の中に物は無く、まるで引越しでもしたかのように何もかも無くなっていた。


「ちょっと、つまりませんわ! それに、誰も居ないというのはおかしいですわ! さっきの壁の中から聞こえてきた声は誰なんですの?」

「そういえばそうですねぇ……ま、まさか幽霊とか!?」

「幽霊でも構いませんわ! 誰でもいいから出てきて、このワタクシを歓迎なさいな!」


 しかし、どれだけフェイリヤが叫んでも反応は何も返って来ない。

 自分たち以外の声も気配もない、静寂なものであった。


「物もなければ、気配もなしか。で……いい加減に、教えろよ。ここは何で、んでお前はここの何だったんだよ、マシン」


 探しても何も無い部屋ばかりが続く廊下の中で、ついに我慢できずにジオがマシンに問いただす。


「この世界にはかつて……随分と前になるが、人類側でも魔王軍側でもない……ある『組織』が存在した」

「……組織?」

「ここは、その組織がかつて使用していた施設の一つ。遥か昔から戦争をしていたこの世界において、重要な実験場や設備などを全て地上に置いておくのはリスクが高かったため……人類や魔族もそう簡単に辿り着くことが出来ない深海にも設備を設けた……そんなところだろう」


 すると、マシンは廊下の途中の部屋には目もくれず、ただ真っ直ぐと部屋の奥へと進む。

 奥に着くと、そこには上の階へと続く階段があった。その階段も黙って上るマシンに、ジオたちも仕方なく後に続いて上がっていく。

 そしてマシンは、途中の階層には寄ることなく、ただ黙って上り続け、そして四階に到達した時には階段はそこで終わっており、代わりにその階層には……


「うおっ…………」

「でかい……」

「何の部屋だ……?」

「……学校の教室みたいに見えるけど……」


 広々とした部屋。階段状に並べられた長い椅子と固定された椅子。

 壁一面に張られた巨大なガラスのようなものが設置されている。


「メインのコンピュータールーム……電源は生きているが、中のデータは既に消去されているだろうな……」

「こんぴゅた~?」

「先ほどお嬢様の言っていた、『全ての謎に答える知識の本』……と、言ったところだ」

「ッ!!??」

「ただし、詰め込まれた知識は全て消去されていると思うが……」

 

 そう言って、マシンはそそくさとガラスの目の前まで歩み寄り、その目の前にある席に座る。

 そして、マシンは座った席の机を軽く指先で動かすと、机の一部がめくれ上がり、板のようなものと、扉を開ける際に壁に埋め込まれていた謎の紋様の入った窪みが浮かび上がった。

 マシンがその窪みを先ほどの扉の時と同様に慣れた手つきで動かしていくと、突如壁一面に張られた巨大なガラスが光り、鮮やかな色と見たことも無い紋様が大きく写し出されたのだった。


「……な、なんですの!?」

「マジックアイテム……魔鏡の一種か?」

「な、なにこれ? なに? 何が起こってるんで?」


 もはや、何が起こっているのかまるで状況が理解できない一同。

 そして、ガラスに写し出された紋様などを見ながら、マシンは高速の指捌きで、まるでピアノでも弾いているかのように音を鳴らせていく。



「やはり、データーは全て消去されているが……表面上削除したとデータが加えられているだけで、ハードディスクには残っている……」


「「「「………………?????」」」」


「試しに、最後に消したデータを復元させよう……」



 マシンが指を動かすたびに、ガラスに紋様が次々と打ち出され変化していく。

 そして、次の瞬間……



『へ~い♡ ワターシの、オッパイモミモーミするデース♡』


『セクハウラ先輩~、だ、だめです、僕には故郷に妻と子供いるんですよ~……』


『ダメダーメデース、ショタリオンく~ん♡ 今日はこの施設利用できる最後デース。ワターシ引き上げる前に一度でいいからこのメインルームでアナータみたいな童顔後輩をイジメたかったデース♡』


『はうううっ、そ、そこは!?』


『逆らうと~、録画している今の映像をアナータのファミリーに見せちゃいまーす♡』



 そこには、今ジオたちがいるこの部屋と全く同じ場所で、椅子に座っている白衣を纏った若い男が、同じような白衣と乱れた服を纏った、熟した豊満な体を持った美しき妖艶な女に膝の上に乗られ、正面から……


「……スマン、こんなものだとは思わなかった」


 ブチッと、写し出された光景が消された。



「ほう! なかなか良き女じゃったわい!」


「「「「なななな、なんだ今のはアアアアアアア!!!???」」」」



 しかし、光景が消されたとしても、皆の反応を抑えることは出来ない。

 

「な、なんだ今の変態女は!? あんなの……って俺も過去に同じことを三姉妹姫にされたが……って、そうじゃなくて! 何だ今のは!?」

「かっ、あが、……え、エロいお姉様に……あんなに責められ……う、うらやま……」

「ちょ、今の人たちは?! 何でガラスに? あの壁の向こうに? っていうか、どこに消えた!? こっちに気付いていなかったぞ!?」

「っていうか、つ、続きは!?」

「い、いやあああ!? な、ななな、なんですか、あ、あんな……え、ええええ、えちちちな!?」


 ある者は口を開けたまま固まり、ある者は顔を真っ赤にして声を上げた。

 唯一、ガイゼンだけはニタニタといやらしい笑みを浮かべていた。

 そして……


「な、んなままままま、あ、あばばばば……」

 

 そこには、先ほどまで堂々としていたフェイリヤが……


「な、なんでしゅの……い、いまにょは……あ、あ、あれは?」

「お、お嬢様、わ、私も分かりませんといいますか……」

「な、なんて……なんて、おハレンチでエッチッチなことしていますのおおおおお!?」


 涙目で目玉をグルグル回し、顔を真っ赤にさせ、更に内股になってプルプル震えながら叫んだ。


「あ、あ、あああいううのは、す、素敵な運命の、は、白馬に乗った逞しい男性と、べ、ベッドの中で、す、するようなものではありませんの!? ちゅ、ちゅっちゅちゅっちゅして、そ、そんなの、いやあああああ!?」


 頭を抱えて蹲って、ついには泣き叫ぶフェイリヤ。

 その、先ほどまでと打って変わって見せる姿には、先ほどの光景と同じようにジオたちも驚いた。


「お、おいおい、さっきのも驚いたが、このお嬢何をこんなに……」

「う、うう、仕方ないんです。お嬢様は男女のああいうのには全く免疫がなくて……」

「あ~、そうかい。おかげで、なんか落ち着いちまったよ……」


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