第44話 チューニのファーストキス

 マシンが驚いた顔をして立ち上がった瞬間、部屋に突如高い音が鳴り響いた。


『六番目(セックストゥム)起動します。メインルームにて開放。職員は注意してください』


 部屋の天井の明かりが、赤い光へと代わって回転する。

 同時に鳴り響く耳につく音に、ジオたちは身構える。


「なんだ……何が起ころうとしてるんだ?」

「ひいい、神様、闘神様、ガイゼン様ァぁ!」

「さっきから、この音もなんですの? ピーポーピーポーうるさいですわ!」

「お、おい、と、とりあえず、私たちも何があってもいいように……」

「ああ、武器を携帯! 戦える準備を……」


 ジオパーク冒険団とフラグ冒険団がフェイリヤと双子メイドを守るように円になって周囲を警戒する。

 すると……


「「「「ッ!!??」」」」

「な、なんですの!? へ、部屋が変形していますわ!?」

 

 突如、自分たちの居る広々とした部屋が変形。階段状の長机や椅子がどんどん自動で折りたたまれて、部屋の隅へと追いやられていく。

 

「全員、部屋の隅に移動するべきだ。中心の床が開放されて、カプセルが出てくるはずだ」

「か、かぷせる?」


 驚き固まっていたマシンもようやく動き出して、指示。


「ちっ、よくわかんねーけど、このままじゃ巻き込まれる! ガイゼン、マシン!」

「承知」

「分かっておるわい!」


 巻き込まれないようにジオたちもその場から離脱。

 その際に……


「おら、お嬢様。掴まんな!」

「ほへっ? ちょ、お、オジオさん!? きゃっ……あっ……これは、お、お姫様の……」


 ジオがフェイリヤを抱きかかえ……


「ジッとしていろ」

「ひゃっ!? あ、えっと……あっ……」

「す、すごいはやい……風になったみたい……」


 マシンが左右の両脇に双子メイドを抱え……


「ほれほれほーれ!」

「うおっ!?」

「ぎゃっ!?」

「ちょわっ!?」

「うひゃあっ!?」


 ガイゼンがフラグ冒険団たちを部屋の隅へと乱暴に投げて、投げ終えた後に自身もジャンプでその場から離脱。


「よぅ、大丈夫かよ」

「え……ええ……問題ありませんわ」

「すまない。乱暴に触れてしまった」

「い、いえ……そんな……」

「助けてくださったんですから……」

「ぬわはははは、いつまで痛がっておる」

「頭ぶつけた……」

「こ、腰が……」

「背中が……」

「鼻が……」


 三つのグループに分かれて部屋の隅に離脱した一同。

 その間に、変形した部屋と共に中心に円状の穴が空き、下から何かがせり上がってきた。


「ありゃ、なんだ?」


 それは、白い外殻に覆われた繭のようなものであった。

 その繭が現れ、部屋の中央で停止した瞬間、鳴り響いていた音や、赤い光も元に戻った。

 そして、その繭が突如勢いよく煙を噴射して、繭がまるで扉のようにゆっくりと開いていった。

 だが、その時だった。


「うぎゃっ、おげ、うごっ!? ちょ、ぼ、僕を忘れてるんでーーー!?」

「「「…………あっ……」」」


 フェイリヤ、メイド、フラグ冒険団を変形する部屋から守るために助けたジオたちだったが、チューニのことを忘れていた。

 チューニは部屋の変形に巻き込まれて体をぶつけてゴロゴロ転がりながら、繭の目の前まで転がり落ちてしまったのだった。


「い、いたたたた……あっ……」


 そしてチューニが体の痛みに半泣きして顔を上げたその瞬間、繭が完全に開放し、中から何者かが起き上がり、チューニの前に立った。


「な、に、人間ッ!? 人間が繭の中から!?」

「なんですの、アレは!?」

「しかも人間というよりは……」


 そこに現れたのは……少し幼さの残る……


「えっと……お、女の子?」


 見た目の年齢は恐らくチューニと同じぐらいか、もしくはもう少し下かもしれない。

 薄緑の髪は肩口より少し長い程度で整えられ、小柄なチューニよりもさらに小さな身長で、発展途上の体つき故に胸もほんのり膨らんでいる程度。

 そして、何よりも目につくのはその服装。

 体にピッチリと張り付いた下着のような衣装で、足の付け根や肩口より先の肌を大胆に露出している。


「な、なんだ、あの格好は?」

「……あれは、自分の中にある知識では……『白スク水』と呼ばれるものだ……」


 マシンが名称を答えるが、その恰好はジオたちは誰もが初めて見るものであり、胸元にはジオたちの見たことのない紋様で「せっちゃん」と書かれている。


「ほほう。めんこい衣装じゃが……つまらなそうな目をしておるではないか」


 そして、大胆な服装の割には、その表情は人形のように無表情で、何を考えているか分からない無垢な目をしている。

 そんな謎の少女は、目の前に居たチューニをただジーッと見ていた。

 そして少女は、ゆっくりとチューニの前で肩膝を付いて……



「……おはようございます……そして、不束者ですが生涯宜しくお願いします。マイ・マスター」



 淡々とした口調で少女は……



「……へっ?」


「「「「「………………なに??」」」」」


「まさか、六番目は『刷り込み機能』が………」



 一瞬、少女が何を言ったのか分からずに首を傾げるチューニとジオたち。唯一状況を理解したと思われるマシンが何かを呟くも、現れた少女は構わずに続ける。


「刷り込み機能起動。あなたを私のマスターと認証します」

「や、え? すりこみ? ま、ますた~? えっと、な、何を言ってるか、わ、分からないんで……」

「私は『サイキック生体兵器の六番目(セックストゥム)』、……型式は『ターミジョーチャン』……」

「え、えええ!?」

「今日よりマスターにお仕えする、生体奴隷。戦も護衛も家事もリラクゼーションも夜伽も万全万能型……その機能を活用し、生涯マスターに奉仕致します」

 

 そして、六番目と名乗った少女はチューニの頭を両手でガシッと掴み……


「アイ・ラブ・マイマスタ~」

「ちょっ!?」


 ――――チュッ

 

 相変わらず抑揚の無い声で感情の起伏も見られぬまま、唐突にチューニの唇にキスをしたのだった。


「「「「……わお……」」」」

「遅かったか……」


 そんな光景をジオたちは、ただ唖然と見るしかなかった。


「え、キス? え、された? 僕? はじめて? え? かわいい。えっと、柔らか……いいにお……ファースト? あ……あれ?」

「マスター? どうされましたか?」

「ぼ、僕、お、女の子と、ちゅ、ちゅうして……は、初めて会った子と……」

「……? ジョーチャンバージョンはお気に召しませんか? ご安心を。私はあらゆる好みに変幻自在。容姿をネーチャン化させることも可能です」


 そして、キスされたチューニは、キョトンとした顔をしたものの、すぐに状況に頭が混乱し始め……


「ほ、ほ……ほ、ほげええええええええええええええええええええええええええええええええっ!??」


 顔を真っ赤にして発狂しながら、失神してしまったのだった。

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