第40話 全速前進

「ジオ将軍!? 闘神ガイゼン!? 鋼の超人ロボト!?」


 ガイゼンが海のモンスターたちを一瞬で蹴散らしたことで、ようやく自分たちの自己紹介をできたジオたち。

 ガイゼンだけを海で遊ばせ、フラグ冒険団たちを一旦船内へ戻してから、ジオが自分たちの素性を話すと、当然誰も驚くしかなかった。


「戦争では全然聞かなかったけど、かつて帝国で脅威の新人と言われた破壊神ジオ!?」

「いやいやいや、闘神ガイゼンって、嘘でしょ!? あんなの神話の人物でしょ!? っというか、教科書に名前載ってたよぉぉぉぉ!」

「ま、マシン・ロボトって……だ、大丈夫なの!?」


 三人とも一癖も二癖もあるものとしてその名を轟かせており、フラグ冒険団もメイドたちもジオたちの名前だけは知っていた。

 しかし……


「で、つまりは帝国と魔王軍と勇者一味をクビになった三人が一緒になったということですの?」

「いやいや、お嬢様、それだけですか!? 三人ともすごい人なんですよ!?」

「そう言われましても、過去に所属していただけで、しかもクビになったのでしょう? 経歴がすごいのかすごくないのか分かりませんわ」

「すごいんですって!」


 フェイリヤはあまり知らなかったのか、「ふ~ん」と言った様子で、特に驚きは見せなかった。

 だが、ジオはむしろそれでもいいと思った。


「ああ、別にすごくねえ。俺たちはもうその過去には拘らずに切り捨てたから、どうでもいいことだ。今ここに居るのは、ルーキーの冒険団ってだけだ。過去をひけらかす必要もなかったしな」

「……僕なんて、一人だけ……ひけらかすほどの過去もないんで……」

「くはははは、気にすんな、チューニ。お前が望めば、お前の名前なんてこれからいくらでも轟くんだからよ!」


 別に過去の経歴をひけらかす必要等そもそもないのである。自分たちはその過去を捨てて、今を生きているのである。

 そんな風に感じながら、ジオは笑った。 


「にしても、そうだったのか……まさか、偶然出会った君たちがそれほど凄い人たちだったなんて……君たちが居れば……『あのモンスター』も倒せるかもしれない」


 すると、ジオたちの秘めた力を知ったシーボウが、どこか目を輝かせてそう呟いた。

 ジオたちが居れば倒せるかもしれないモンスター。


「ほう、さっきガイゼンが蹴散らした魚たち以外にも、なんか居るのか?」

「ああ。僕たち四人がかりでも倒せなかったモンスターが、この奥に居るんだよ」


 正直、ジオは『フラグ冒険団が倒せなかったモンスター』と言われても、大してピンと来なかった。

 それこそ、フェイリヤが先ほど言っていたように、「すごいのかすごくないのか分からない」といったものだった。

 

「そう、大型深海モンスター……深海竜だ!」

「……ドラゴン?」

「ああ。普段は深海に生息するドラゴン。非情に獰猛で、サメや鯨すらも平らげるほどなんだ」

「ほう……」

「その鱗は、地上のドラゴンと遜色ないほど硬い。いや、水の抵抗がある分、打ち破るには相当の力が要る。おまけに、強力な牙、爪、そしてブレスまで放つ。皆で力を合わせなければ絶対に―――」


 と、その時だった。


「おーい!」


 そのとき、潜水艇の周りを泳いで遊んでいたガイゼンが潜水艇の窓を叩いてきた。

 皆が音に釣られて窓の外を見ると……


「このドラゴンが案内してくれるみたいだぞい」

「ガルル……」

「のう? ……あ゛?」

「ビクッ!? グル……しゅん……」


 そこには、潜水艇ほどの大きさのあるドラゴンが、牙や爪や鱗等が一部欠けた状態で、しかもどこかションボリとした様子で、ガイゼンを頭の上に乗せていた。



「「「「ちょっ、し、しし、深海竜!!??」」」」


「……気にすんな、ドラゴン。相手が悪かった」



 海底都市到達までの最難関とされたドラゴンが、既にガイゼンにやられて平伏していた。その光景にフラグ冒険団たちは潜水艇の中で腰を抜かし、ジオたちももう笑うしかなく、深海竜を哀れんだ。


「おーっほっほっほ! やるではありませんの、御爺さん! 何度もワタクシたちを邪魔したドラゴンを一人で蹴散らすなんて、褒めて差し上げますわ! この功績は、ボーナスものですわ!」

「なら、うまい酒が欲しいわい!」

「分かりましたわ! では、国に戻ったら最高級のお酒を樽ごと差し上げますわ!」

「おお、気前がいいのう、お嬢!」

「おーっほっほっほ、気前がいいのではなく、単純にワタクシが良い女なだけですわ!」


 これまでこの一行を妨げていた深海竜をアッサリと倒したことに、フェイリヤは大変ご満悦の様子。


「それに、高潔な血統書付きでなくとも、それを上回る能力を証明するのでしたら、ワタクシも当然重用しますわ! もしあなた方が望むのであれば、今後もワタクシお抱えの冒険団にして差し上げてもよろしくってよ? ねぇ、オジオさん?」

「だから、オジオじゃねえ! まぁ……お抱えだなんだは、しがらみがメンドそうだからどうかと思うが……とりあえず、今はこのクエストだけは付き合ってやるよ」

「いいでしょう! では、まずは目の前の伝説から片づけるとしますわ!」


 これで何も恐れるものはないと、意気揚々のフェイリヤ。

 それにつられて、メイドやフラグ冒険団たちも腰を抜かしたものの、ガイゼンの力を前に徐々に表情に安堵が宿ってきた。


「すごい……こんなにアッサリと……」

「うん。このクエストが達成できたら、是非お祝いしないとね! パーティーの準備で、忙しくなるぞ~!」

「は、はは、これだけ力の差があると、もう悔しさもないな……すごいな……」

「これが終わったら、家に帰れる!」

「いや、ほんと神様、闘神様、ガイゼン様なんで」

「そういえば、チューニくんはどうなんですか? このお三方と同じように、やっぱりチューニくんも……」

「いやいや、一緒にしないで欲しいんで。一般人なんで。こんな伝説三人と一緒にしないで欲しいんで」

「は、はは、そうなの?」

 

 同じように腰を抜かしていたチューニが、メイドたちに「ガイゼンたちと一緒にしないで」と言うが、ジオたちは内心では「お前もヤバイだろ」と思ったが、口に出しては言わなかった。

 そんな中、ガイゼンの力に機嫌良くしたフェイリヤが、勢いのまま腰元に携えたゴージャスな剣を抜いて前へ掲げる。刀身も金でできており、切れ味は一切無いと思われるような剣。

 それを前へ突き出して叫ぶ。


「では、このまま一気に行きますわよ! 華麗に美しく全速前進ですわ! 皆さん、ワタクシについていらっしゃいな!」


 どこまでも勇ましく、自分が上に立って皆を率いようとするフェイリヤの姿。

 そんなフェイリヤをバカだと思いながらも、その勇ましさにはジオも感心した。


「お嬢様育ちの割には、随分と勇敢じゃねえか。たたずまいから、それほど鍛えられてるわけでもなさそうなのに……どういう育てられ方してんだ?」


 フェイリヤのこの怖いもの知らずなところはどこから来ているのか? そう思って、ジオが近くに居たメイドに尋ねると、メイドは苦笑しながら……



「お嬢様は昔からこうなのです。その……家庭の事情から、よく抗争や暗殺、誘拐などの危機に晒されているのですが……全部無事に助かっているほど、運がいい方で……気付けば、何があっても自分は助かる……何をやってもうまくいく……そう思い込んでいるところがありまして……。その裏では、旦那様や私たちお付きや組織の構成員の方々たちが色々と……うぅ、それはそれはもう頑張ってるんですけど……」


「め、メチャクチャ運のいいお嬢様か……た、確かに今回もある意味、俺たちと偶然出会ってなければ、フラグ冒険団もさっき死んでただろうしな……」


「はい。そんなことが十年以上前からずっとで……正直、私たちはいつもハラハラで……」


「はっ、そりゃごくろーだったな。……えっと……お前らは……」



 ヨヨヨ、と泣く二人のメイド。

 二人の話に頷きながら、そういえばメイド二人の自己紹介はされていなかったことに気付いたジオ。

 メイドたちもそれに気づいて、慌てて身なりを整えてから、スカートの裾を軽く摘まんで……


「あっ、申し遅れました。私、お嬢様のお付きをしております、ナデホ・レイルといいます」

「私は、ナデホの双子の妹で、同じく幼い時からお嬢様にずっとお仕えしております、ニコホ。ニコホ・レイルです」

 

 黒髪のショートカットのナデホと、白銀のショートカットで褐色の肌のニコホ。


「へぇ、双子なんだな……」

「あっ、姉妹? 確かに顔は似てるなーって思ってたけど、髪や肌の色が違うんで……」


 確かに、顔は瓜二つ。

 だが、髪や肌の色は違うことにチューニが疑問に思うが、ジオは別に気にならなかった。


「別に、姉妹で肌の色や瞳の色が変わることだってあるだろ? 俺の知ってる三姉妹も……そんな感じだったしな」


 不意に、かつて帝国に居た三人の姫を思い出し、特に気にすることではないとジオは流した。

 だが、そのとき……



「リーダーの言う通り、あり得ない話ではない。肌や目、髪など、どのような遺伝子の影響を受けるかはランダムであり、父や母、どちらの遺伝子を色濃く受け継ぐかも人それぞれだ。仮に、髪や肌、瞳の色が兄弟姉妹で違っていても、おかしな話ではない。まぁ、双子でそこまでバラバラなのは珍しいかもしれないが……DNAの組み合わせで――――――」


「「「…………???」」」



 マシンがまるで学者のように説明するが、正直その言葉をこの場に居る者たちは誰も理解できなかった。


「こ、この方は何を言ってますの? でーえぬえー?」

「おい、マシン、お前、何語を喋ってんだ?」


 思わず呆気に取られたフェイリヤとジオがそう尋ねると、マシンはゆっくりと目を閉じて、


「……気にする必要はない。自分が勝手に呟いただけで、不要な情報だった」


 それはまるで「これ以上説明しても無意味」と思っているかのような言葉で、フェイリヤは若干ムッとした表情を浮かべた。

 そんな状況の中……


「おっ? おーい、ウヌら! 外を見てみぃ! なんか見えて来たぞ?」


 薄暗い海底の奥深くに、ついに底が見えてきた。

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