第29話 贖罪

「た、助けてください、アルマ姫ぇ! こ、こいつら、僕たちをこんな目に合わせたんだ!」

「よかっ、た……よかったよォ……」

「アルマ姫が来てくれた……」


 その女の存在に、窮地に立たされていた生徒たちは安堵の表情を浮かべていた。


「あ~あ……来ちゃったよ」


 そして、ジオは複雑な気持ちで苦笑した。

 ソレは断ち切るべき過去としてすでに心に決めたジオ。

 しかし、いざ振り返って目の前の女を見た瞬間、思わず体が震えた。

 

「ジオォ……やはり、運命だ……お前ともう一度会うことができた。私のジオォ……私たちだけのジオォ……」


 三年ぶりの再会。かつては、上官でもあり、主君でもあり、そして男と女として過ごした時もあった。

 しかし、三年でこうも変わってしまうのかと、ジオはアルマから発する歪みのようなものに苦笑した。


「リーダー……こ、この人は……」

「……できるな……」

「ほうほう……別嬪じゃが、痛々しい空気じゃぁ……何者じゃ?」


 現れたアルマの異常性に、流石のチューニたちもただ事ではない雰囲気を察している。

 そして、アルマ自身が発する空気や、強さのオーラは、チューニの同級生たちは比較にならないほどのものだと三人とも感じ取っていた。

 だが……


「すぐに行く。だから、先に行ってろ」


 ジオの答えは変わらない。目の前のアルマの瞳が明らかに尋常ではなかったとしても、「自分にはもうどうでもいいこと」と割り切ろうとしているからだ。


「はあ、はあ、はあ、はあ……いく? どこへいくのだ? ジオ。行くではなくて、帰るだろ? そう、お前は私と一緒に帰るんだ。お前の居場所へと」


 既に冷静さも失い、過呼吸するほど息を乱しているアルマ。

 その視界には、魔族のガイゼンや、マシンやチューニ、そして激しく服を乱して半裸状態の生徒たちすら入っていない。


「お、おい、どういうことだ?」

「アルマ姫……あの魔族と……お知り合い?」

「どういう関係なの?」


 帝国の姫として、帝国海軍提督として、そして未来ある若者たちを守る警護としての立場など、今のアルマの頭には一切ない。

 ただの、愛に狂った一人の女として、ジオだけしか瞳も頭の中も存在していなかった。


「……俺の居場所はこれから見つけるんだよ……アルマ姫。そしてその場所は……帝国にはねーんだよ」

「ん? ああ、わかっている。分かっているさ、ジオ。お前が私たちにそういう態度をとるのも無理はない。当たり前のことだ。私自身、どれだけお前に許されないことをしてしまったのか、よく分かっているさ」


 ジオが冷たく言い放つも、アルマはすべてを分かっていると頷いた。


「お前が魔族化して失った部位が再生したのは聞いているが、それでも私がお前から奪ったものは変わらない。だから、お前にしてしまった過ちと同じ分だけ、私を刻んでかまわない。いや、それぐらいされないと私の気がすまない」


 そして、この場にいる誰よりも地位の高い存在であるはずのアルマが、人前だというのに片膝ついて、己の腰元に帯剣していたサーベルをジオに差し出した。


「百万回の謝罪と後悔とともに、私にもまた思う存分罰を与えてくれ、ジオ。その贖いの果てで、私はまたお前と始めたい」


 アルマの言葉に、ジオは少なからず動揺してしまった。

 なぜならば、アルマの言葉はすべて嘘偽りなく本心から出ている言葉なのだと、ジオも理解したからだ。

 気が狂いそうになるほどの罪を意識し、それを贖おうとするアルマ。

 歪みや狂気は感じるものの、それもまた全て愛ゆえのこと。


「また、始めるだと? 俺と何を始められると思ってんだよ」


 しかし、それを受け入れることなどできるはずがない。

 もう一度やり直せるはずなどない。そういう意味もこめてジオが言葉を返すと、アルマは……


 

「文字通りの意味だ。失った三年間を取り戻すほどの……お前に安らぎと幸せと愛を与えてやりたい」


「…………」


「今はまだお前が私たちを許せないのは分かっている。だからこそ、お前が苦しんだ地獄の分、今度はいかなるものが立ちはだかろうと、お前を幸せにしてみせる! 私はそう決めた。勿論、私だけではない。お前を愛する女たちがどれだけ居たか……分かっているだろう?」



 自分を愛してくれた女たち。自惚れではなく、間違いなく自分を慕ってくれた女たちの顔がジオの脳裏に蘇る。



「私も、ティアナも、『マリア』も『ジュウベエ』も、『お前の親衛隊』も……これからの人生はお前だけのために生き、お前だけのために戦い、お前だけを愛し、お前だけを見て、お前だけにしか心も体も開かない。大魔王を倒した私たちの次の人生は、もうそれだけでいい」


「あんた……何言ってんのか分かってんのか?」


「勿論だ。いつも血まみれになりながらも戦ったお前に……正義と帝国のために戦い続け、我らの英雄ともなったはずのお前に……私たちは何があっても償ってみせる。そして、そのために世界を変えることも考えているんだ! 私の計画を知れば、お前が必ず幸せになれる世界を築くことが出来る!」



 歪んだ瞳のまま笑みを浮かべるアルマは、興奮収まらずに自身の思い描いた考えを語る。


「とりあえず、ジオ。お前はもう戦うことはやめるんだ」

「……はぁ!?」

「平和な時代になったのもそうだが、そもそもお前が七天などという大物を倒したことで、大魔王などに目を付けられたのが全ての発端。今後、万が一戦うような事態になっても、私たちが戦い、お前を守る。お前は何もしなくていい」

「お、おいおい……いきなり俺にヒモになれとでも言うのかよ……」

「勿論仕事はある。お前には、私たちと次代を担う子を作るという大切な使命がある。勿論、今の私たちをすぐに抱く気にはならないかもしれないが、私はいつでもどこでも……例え、今この瞬間であろうとお前を受け入れる」

「……それって、た、種馬……」

「そうだ……スケベなことし放題だ!」

「ぶぼっ!?」

「私がお前を抱いたあの初夜の日のように! いつも傲慢なティアナによる猫耳にゃんにゃんスリスリや、帝国の聖母とまで呼ばれた末妹のマリアとのバブバブごっこだったり、お前の右腕でもあった、サムライガール・ジュウベエとの菊一文―――」

「つか、そういう詳細情報出すんじゃねええええ! そこに学生のガキどもが居んだろうがッ!」


 アルマの予想もしないほどにズレた提案内容に、ジオは思わずツッコミを入れてしまった。





――あとがき――

お世話になっております。

連休も引き続きよろしくお願いします。

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