第25話 始まりのチューニ

「なな、なんだよあれ!」

「うそ……リアジュくんのバイトファイヤが消えちゃって……」

「あの魔族たち、チューニに何したんだ!」


 百戦錬磨のジオたちですら目を見張るほど、荒々しく吹き荒れるチューニの魔力の放出。

 それを、実戦経験ゼロの学生たちが目の当たりにすれば、狼狽えるのも無理はなかった。


「み、みんな! 落ち着くんだ、今のは何かの間違いだ! 僕もちょっと調子が出なかっただけだ!」


 そんな状況の中、クラスメートたちを鼓舞するように声を上げるのは、頬に汗をかいたリアジュ。

 

「リアジュ君……」

「そ、そうだ、切り替えろ! どうせ、なんか変な何かをやったに決まってる!」

「そうだ、やってやろーぜ!」

「そうだよ、みんなで力を合わせて、魔族なんかと仲良くしているあいつをこらしめてやろうよ!」


 多少の動揺はしたものの、相手は自分たちが良く知る落ちこぼれの男。


「バイト級の魔法を使える人は前に、使えない人は後方支援だ! 僕たちが世界一のクラスだって証明するんだ!」

「「「おうっ!!」」」


 更に今は、自分たちはクラスメートたちと一緒に居る。何があっても負けるはずがない……という、願いのような気持ちを持って、生徒たちは各々の杖や掌を構える。


「バイトファイヤ!」

「風よ、不浄なる存在を切り裂け! バイトウインドッ!」

「僕があいつを足から崩す! バイトアースッ!」


 炎が、風が、大地が、様々な魔法が一斉にチューニに向かって放たれる。

 しかし……


「……これがバイト級……すごい……ちっさい」


 その全てがチューニに着弾する前に、チューニが纏う膨大な魔力に触れた瞬間にかき消されてしまった。


「なっ、……そんなっ……」

「ひょっとしたら、何かのマジックアイテムを使ってんじゃないのか!」

「そ、そうか! ありえるかもしれない。もしくは、一時的に力を増幅させるような外道の禁術とか……」

「ふん、魔族と一緒に居たらそうなっても不思議じゃない! どこまでも堕ちたようだな……あいつ!」


 誰もがチューニの身に起こっていることに驚くものの、それが「チューニ本来の力」とは誰も認めず、何かのタネがあるのだと決めつけて叫ぶ。

 一方でチューニ自身は、先ほどまで、そしてこれまでもずっと怯えていたクラスメートたちに対して、急にとても小さな存在に感じるようになった。


「これが……僕の魔法……分かる……僕の意志通りに……なんでも出来そうな気がする」


 それどころか、徐々に胸の中が高揚していることを、チューニは実感していた。

 突如身に付けてしまった、強大な力。その全てが自分のものであり、それを試してみたいという好奇心が沸き上がった。



「えっと……こうやって掌にためて……放つ! えいっ、せ、えっと、せ……天空を駆ける星々にその罪を贖え! 聖破流星弾セイクリッドバーストメテオラブレッド!」


「「「「「ッッッッ!!!!????」」」」」


「うわっ、出たッ!?」



 それは、なんの属性も付加されていない、言うなればただの魔力の塊を弾けさせる、「ただの衝撃波」であった。

 だが、チューニにとっては試しに放ってみた魔法でも、それは並の人間には立って居ることすら困難なほどの衝撃波。

 生徒たちは吹き飛ばされないように両手を前にして必死に堪えようとするが、生徒たちの制服のシャツやスカートは大きくまくれ、それどころか中には衣類が弾き飛ばされる者たちまで居た。


「ひっ!?」

「い、いやああああああ!」

「な、なんで!? ひ、いやああっ!?」

「ちょっ、ちょっと男子、あっち向いてて!」


 服を弾き飛ばされて、最も悲鳴を上げたのは女生徒たち。白や青やピンク色などのカラフルな下着姿にされた女生徒たちは顔を真っ赤にして、その場で半泣きになりながら蹲ってしまった。


「あっ……」


 そこまでやるつもりのなかったチューニも、元クラスメートたちの衣服を弾き飛ばしてしまったことに顔を青ざめさせる。

 そしてその中には……


「ひい、いやああ! なな、なんで?! 何でこんな格好に……ちゅ、チューニくん!?」


 必死に体を手で隠しながら泣き顔で叫ぶアザトー。だが、手で隠そうともそのシルクの白い下着は隠しきれず、何よりも今の衝撃でブラジャーまで飛んでしまったようだ。まだ成長著しい同級生たちの裸を前に、こういったことに免疫のないチューニは激しく動揺。


「ッ……うゥ……こ、こんなつもりじゃ……ど、どうすれば……リーダー!?」


 罪悪感で顔を背けてしまうチューニ。視線のやり場に困り、更にこの力をどう制御すればいいかも分からずに、思わずジオたちに助けを求めるかのように視線を送るが、ジオ、マシン、ガイゼンは三人地べたに座ってリラックス状態で観戦し、特に動こうとはしていなかった。


「あ~あ、脆いな。ちゃんと魔力を纏って防御しねーから、服が飛んでくんだよ。っていうか、セイクリッド……なに? ただの、ビットボールを、メガボールぐらいにして弾かせただけだろうが」

「しかし、魔法学校の制服だ。法衣で作られているはずのものをたった一つの衝撃波で飛ばすチューニの方を褒めるべきでは?」

「う~む、残念じゃのう。ワシからすれば子供過ぎてそそられんわい。やはり、人間のオナゴは熟したムチムチの三十代からじゃのう」

「おい、ジジイ、どこ見てんだよ」

「子供とはいえ、婦女子の体を卑猥な目で見ぬことだな」

「見とらんわい。見てみぃ、クマパンツ、イチゴのパンツ、ありきたりな白パンツ、どれに卑猥な感情を抱けと!? チチだってどいつもこいつも小さいわい。せめて布切れの少ない、尻に食い込んだ紐のパンツぐらい穿くべきじゃ!」

「あのなぁ、魔法学校も卒業してねぇ、十四~五ぐらいのガキが、んなもん穿いて…………たお姫様も居なくはなかったが……」

「どうした、リーダー?」

「ぬぬぬ? ほほう、思い出のオナゴの話か? 初恋か? のう、リーダーよ、ウヌの初チューは何歳ぐらいの時じゃ?」


 三人は動こうとしないどころか、むしろノンキに話をしている。

 チューニも流石にツッコミを入れてしまいそうになったが、そんなチューニの前に、クラスメートたちが叫ぶ。


「な、なにをしたんだ!? それに、女性にまでこんな最低なことを……許さないぞ、チューニくん! 貴族としての誇りに懸けて!」


 振り返るとそこには、シャツは衝撃波で飛ばされたものの、なんとかズボンだけは死守した状態の、肌を晒したリアジュが立っていた。

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