第23話 特別授業
「まったく、チューニくんは相変わらずだよね。挑戦的なくせに肝心な時には臆病で、すぐに泣いてしまう。そういうところ、よくないよ? たとえ、平民でも、そして才能がなかったとしても、男の子なら強い心を持たないといけないのに」
そして、ジオが苦笑した瞬間、チューニが踏みつけられるのを黙って見ていたどころか、呆れたような口調でリアジュが溜息を吐いた。
正直、呆れて笑って済まそうとしていたジオだったが、リアジュのため息を聞いた瞬間、再びイラッと来てしまい、思わずリアジュを睨んでしまった。
「……おい……イジメもリンチもこれぐらいにしておけよ。こいつはこれから、俺らの船で畑でも作ってもらう予定なんで、お前らガキの遊びに付き合っている場合じゃないんだよ」
「ッ!? い、イジメ? ……なんてことを! 間違っているチューニ君を、僕の友達が少し懲らしめてあげただけなのに、それをイジメ? なんてことを言うんだ! 僕の友達への侮辱は許さない! それに、あなたは何者だ!? なぜ、魔族がチューニくんと一緒に居るんだ! しかも、この冒険者ギルドで何をしているんだ!」
ジオの発言にムッと来たリアジュが、ジオに向かって叫んで構える。
「俺がどうして冒険者ギルドでチューニと一緒に? いや……だから、俺らは冒険者なんだよ。ここに居るチューニもな」
「デタラメを言うな! チューニくんが冒険者? ふっ、彼ごとき……こほん、彼の成績は僕たちが知っている。冒険者の基準をクリアできるはずがない。どうせ、何かよからぬことを企んでいたに決まっている!」
一瞬、リアジュの本音が出たのをジオは聞き逃さなかったが、そこはツッコミ入れなかった。
代わりに思ったのは……
(ウゼーなこのガキ……)
という、イラつきだった。
「答えろ! チューニくんとあなたたちはどういう関係だ! 何を企んでいるんだ!」
そんなジオに構うことなく言葉をぶつけてくる、リアジュ。
そして、その言葉の中で「どういう関係だ?」という問いに、ジオは少し考えた。
仲間というわけではない。友達というわけでもない。だからといって、他人でもない。
なら……
「ふっ、俺たちはただの……奇妙な縁で巡り合い……これから世界を舞台に遊んでみようと企んでいる……ただのチームメイトさ」
「「「「ッッッッ!!!???」」」」
自分たちの関係性。それはチームメイト。それが一番しっくりすると、ジオは気付いたらそう告げていた。
「ど、どういうことだ……世界を舞台に遊ぶ? チームメイト? 何を……」
「で? 俺らがチューニと何かを企んでるんだったら、どーすんだ?」
「企み!? 何か、悪いことか! やっぱり、そうなのか! 怪しいと思っていたんだ! なら……今ここで、その企みごと僕が成敗してみせる」
「……はぁ?」
「そして、チューニくん、君もだ。ただ学校をやめて自堕落になるだけならまだしも、魔族なんかと一緒に良からぬことを企んで、それで人に迷惑をかけるようなことをするのなら、その前に僕が君に引導を渡す!」
「おい、テメエ……俺にケンカ売ってんのか?」
「ふっ、その強気な態度……大方、僕がまだ魔法学校在学の生徒だと思って甘くみているんだろうけど、それは大きな間違いだ!」
そして、リアジュは、更にジオの神経を逆なでするかのように強気に出る。
「お、おい、リアジュくん、な、何やってんだよ!」
「そうだよ、相手は魔族だ。ここは、アルマ姫に……」
戦うつもりなのか、両手を前に構えて睨んでくるリアジュ。周りの生徒たちは慌ててそれを止めようとするが、リアジュはキリッとした表情で、クラスメートたちに告げる。
「人は僕たちに言う。生まれた時代が良かったと。平和な世代でラッキーだった。戦争に行かなくてよかったなと。でも、僕はそれを聞くたびに腹立たしかった。僕たちだって、戦争に出ていれば、きっと世界を変えられる存在になっていたはずだと。魔族にだって負けなかったと」
「…………」
「僕が……僕たちが力を合わせて戦えば、僕たちの友情と愛の力が結集すれば、なんだってできたはずなんだ!」
リアジュが口にする、戦争に参加できなかったことへの不満。
それだけならば、ジオと同じなのかもしれない。
だが、どういうわけか、ジオはこの瞬間、このリアジュという男の吐く言葉に、欠片一つ共感できなかった。
むしろ、余計にイライラした。
「皆! 僕たちはもう大人なんだ! いつまでも、大人に頼ったままではダメなんだ! 僕たち皆で力を合わせれば! どんな困難も越えていける!」
「「「「リアジュ(くん)……」」」」
「これまでだってそうだったじゃないか! 進級して待ち受けていた、魔法の訓練。オリエンテーリング。競技大会。そして、皆で喜びを分かち合った文化祭! 輝く絆で結ばれてきた、僕たちの力は、こんな奴らには負けないよ!」
ジオたちを置いてきぼりに、何故かやる気満々に演説まで始めてしまったリアジュに、ジオたちは唖然とし……
「僕たちに、できないことはない! 仲間が生み出す力は何よりも強く、そして信じあう心が僕たち人間の最大の武器だ! 魔族なんかのように、醜く残虐な心を持つ者たちには、それがない! その強さを、僕たちが教えてあげるんだ!」
「「「「「おっ……おおおおおおおお!!!!」」」」」
そして、何故かリアジュの演説に感化されてしまったのか、回りの生徒たちまで何故かやる気に満ちた顔でジオたちに向けて構え始めた。
「そうだ、俺たちならやれる!」
「そうよ、私たちは最高のクラスなんだから!」
「民の上に立つ貴族として、魔族に背は向けない!」
「ほら、アザトーも一緒に戦うよ?」
「ちょ、ま、待ってくださいってば、だ、だから、私は……その……」
「かかって来い、魔族! 僕たちの力を見せてやる!」
流石にどうしてこういう流れになってしまったのかがまるで分からず、正直、ジオたちも反応に困ってしまった。
「……チューニ……」
「なに?」
「お前の学校バカなのか?」
「……僕はもう関係ないんで……」
「くはははは、こんなのがクラスメートか。そりゃ、やめたくなるわな」
そう言って、呆れたジオは溜息を吐き、苦笑しながらチューニの体を無理やり起こした。
「随分とめでたいガクセーたちだぜ。だがな、そいつは大きな間違いだ」
「なん……だと?」
「仲間が居ればどんな困難も越えられる? バカ言うな。越えられている時点でそんなもん困難じゃねえ。本当の困難ってのは、仲間がいたって、どんなに頑張っても越えられない壁のこと。お前ら程度の奴らが多少頑張って越えられるものは、世間的に困難に分類されねえのさ」
ジオは目の前でやる気満々の生徒たちをザッと見て、生徒たちの大体の力を把握し、ニタリと笑みを浮かべる。
「そして今、お前ら程度が死ぬほど頑張ったところでどうにもならない壁がここにある。それを特別授業で教えてやろうか? 授業料は、お前らがトラウマになるのと引き換えだがな」
ジオの笑みに、生徒たちが一瞬顔を青ざめさせる。
だが、そこでジオは殺気を解いて、代わりにチューニを前に出して……
「というわけで、チューニ。やってやれ」
「……えっ!?」
「記念に一つ……魔法を教えてやるからよ……超基礎だけどな」
その瞬間、チューニは涙が一瞬で止まり、口を半開きにしたまま固まってしまった。
一方で……
「ちょちょちょちょー、旦那たち、やや、やめてくださいよ! ここで暴れるのは! っていうか、生徒たちが怪我したら俺の責任問題にも……せめて、ギルドの外で……」
「あの子たち……止めた方が良くない?」
「……誰が止められるの? ジオパークのメンバーを……」
この光景をカヤの外で、ギルド責任者や他の冒険者たちは顔を青ざめさせながら生徒たちの無知に憐れんでいた。
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