第22話 ムカつく
目の前の若い学生たちのやり取りを見ながら、ジオは少し昔を思い出していた。
「……ふん……そういや、俺も……最初は学校にもあんま良い思い出がなかったな……」
今でこそ、肉体は目に見えて魔族と化してしまったジオだったが、昔はそうでもなかった。
ただ、どれほど人間の姿に近づこうとも、半魔族として自分の名前は広まっており、どこを歩いても冷たい眼差しを向けられていた。
それは学校でも同じだった。
回りの者たちは自分を恐れ、近づこうとも、関わろうともしてこなかった。
時折、自分がキレて暴れようものなら、正義感気取りの貴族のクラスメートたちが、まるで自分を倒すべき悪魔のように扱い、そして喧嘩したりした。もっとも、その喧嘩の後は徐々に親しい者たちも増えていったりもしたが……もうそのことは、ジオにとってはどうでもいいことだった。
「で、こいつはどうなることやら……」
ただ、ジオは今のチューニを見て、自分と少し重ねつつも、自分は牙を出して自分を除け者にしようとする者たちに噛みつき、反抗した。
チューニとはそこが決定的に違ったと思った。
だからこそ……
「やっぱり、チューニくんは全然分かっていないね。僕たち貴族の選ばれし生徒たちが、イジメだなんて下劣な真似はしないよ」
チューニはこのまま、牙を見せないのか? 噛みつかないのか? ジオは興味深そうに見物していた。
「あそ。じゃあもう分かったから、僕にはもう関わらないで欲しいんで。選ばれし人たちは選ばれし人たちで集まって死ぬまで仲良く最高で居て欲しいから、底辺以下のクズの僕の相手はしない方がいいと思うんで」
「だから、そういう言い方はやめたまえ。何で君はそんなに卑屈に下から見下すようなことをするんだい? それでいて、何もしない。何の努力もしないし、何の夢も持っていない。僕は君のように人生を無駄に過ごしたり、世界に何の貢献もしないような人は、あまり好きじゃないな」
「それでいいと思うんで。僕の人生そもそも人に好かれないのが普通なんで」
完全なる壁を作って拒絶するチューニの雰囲気。
すると、そんな二人に対して周りは……
「チューニのくせに、さっきから黙って聞いてれば、エラそうなんだよ!」
「そうだっつーの! 人生終わったクズの落ちこぼれが~、リアジュに~何様のつもりだっつーの!」
「気持ちワリーしー! イライラすっしー! ほんと、ムカつくしー!!」
チューニの態度に我慢の限界だったのか、椅子に座っていたチューニを蹴った。
「ぐはっ!?」
蹴られて椅子から床に落ちたチューニ。すると、急に出てきた三人の生徒たちが床に這い蹲るチューニを踏みつけた。
「ちゅ、チューニくん! ちょ、な、何をしているんですか!」
「アザトー、いいじゃない、チューニなんかほっとこうよ!」
「で、でもぉ……」
慌ててアザトーが止めに入ろうとするも、アザトーは他の女生徒に止められた。
「だいたい、お前みたいなクズが、なんで敬語使わないんだよ! 俺らやリアジュと口利くときは敬語を使え!」
「世界の戦争だってな、僕たちの家がたくさん税金を納めて、連合軍の軍事力が強化されたから人間が勝利したんだっつーの」
「その恩を忘れている勘違い野郎を見るとほんと気分ワリーしー!」
体を縮こませ、床で丸まって攻撃を受け、チューニは苦悶の顔を浮かべながらも耐えていた。
「……あ~あ……やられ放題……」
「自分が止めよう。不愉快という気持ちになった」
「待て待て、マシンよ。もうチョイ見てれば、案外、こやつの殻が割れるかもしれんぞ~?」
「……楽しそうにしてんなよ、ジジイ。まっ、俺もこいつの底を見てみたい気もするが……」
「自分は反対だ。それに、チューニがもしキレて魔力が暴走でもしてしまえば、我々も危ないと思うが……」
「「……確かに……」」
「じゃあ、どうする? 止める?」
「チューニはまだ魔法に関しても経験や技術がない。今、期待するのは酷だと思うが。何より、共に旅をする同志を傷つけられるのは許せるものではない」
「ん~、甘いの~。こういうときこそ、男は覚醒するもんじゃがな……」
「……だが……マシンの言う通り、確かに見ていてもあんま気分はよくねーな……最近のガキどもが……」
そのとき、チューニがこのままどうするか気になって見ていたジオたちだったが、今の状況で期待するのと、またこの状況を見るのもイライラしてきたこともあり……
「あ~、もう、くそ! めんどくせーなー」
仕方ないから自分が止めるかと、ジオは溜息を吐きながら立ち上がった。
「そのくらいにしとけ。……そこのカス共」
「「「ッッ!!??」」」
その瞬間、チューニを踏みつけていた三人の生徒を含め、回りの生徒たちもハッとなっていた。
「そ、そうだった、ど、どうして魔族がここに居るんだよ!」
「しかも、チューニなんかと……」
生徒たちも、チューニの話題でスッカリ忘れていたのか、この場に魔族であるガイゼンや、半魔族のジオが居ることを思い出したのだ。
「そんなに怖がるんじゃねーよ。別にイジメや説教をする気もねーよ。ただ、これでそいつが更に性格ねじ曲がっても、今後共に旅をする身として辛気臭くなりそうだから止めてんだよ。カス1、2、3」
ジオにとっては、目の前で何があろうと、チューニの過去がどうであろうと、正直それはどうでもよかった。……そう思おうとしたが、見るに堪えずに止めてしまった。
すると、最初はジオに恐れていた三人の生徒も、侮辱には我慢できなかったのか、ジオに告げる。
「お、お前ら魔族なんて害虫じゃねーか! それに、お、俺はカスじゃねえ! 俺はな、エキストゥラ家の次男、ワッキヤークだぞ!」
「僕は誇り高きキャーラ家のモーブだ!」
「ボケェィ家のカスゥだ!」
侮辱を許さないのが貴族の典型。ジオは何だか懐かしいものを見た気になりながら、苦笑した。
「けっ、家の外に出ている以上、テメエらが何家であろうと関係ねえよ。それこそ、魔王でも勇者でも王族でもな」
「な、なんだと!?」
「本当なら、ムカつく奴は抉ってやりたい気もするが、ガキ相手にムキになるのも大人気ねえ。だから、チューニがヘタにキレて暴走する前に、命が惜しけりゃさっさと消えろって、言ってんだよ」
「なな、なにィ」
目の前の生徒たちを、手で「シッシッ」とあしらうように告げるジオ。
その間にジオは床で這い蹲っているチューニの傍らに腰を下ろし、そこであることに気付いた。
「ん? チューニ? ……」
「う、うぅ、ひっ、い……うぐっ……うう……」
チューニは体を蹲らせて、怯えていたのだった。
「……おいおい、チューニ、お前な~に半ベソかいてんだ?」
「っ、だ、って、……つっ……」
チューニは卑屈で逃げ腰。なのに、世界でも最高峰の才能を持っている。そのギャップが、ジオにとって面白くて思わず苦笑してしまった。
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